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「異物混入」も大声援の「551蓬莱」、なぜここまで愛されるのか? 地元密着を貫くことで、SNSでバズる「名物」になったその背景

3/19 18:02 配信

東洋経済オンライン

 大阪グルメの代表格である「551蓬莱(ほうらい)」の「豚まん」に異物が混入したとして、自主回収が発表された。

 食品への異物混入は、発覚するたびSNSで拡散され、ときに「炎上」を招きがちだ。しかし今回については、批判的な反応は少なく、むしろ好意的な声のほうが多いように感じられる。

 その理由を考えてみると、551の豚まんには、他のお土産商品には見られない「愛される要因」が、いくつかあることに気づく。そこで今回は、かつて地域情報メディアの編集長だった筆者の視点から、なぜ声援が寄せられているのかを考える。

■異物混入も、SNS上では声援も多い

 551蓬莱の運営会社「株式会社蓬莱」は2024年3月17日、この日と前日に製造した「豚まん」「チルド豚まん」を回収すると発表した。具に使用している「玉ねぎの洗浄カットライン」の水はね防止カバーの樹脂に欠損が見られ、それが混入したという。

 なお誤って樹脂を食しても、体内には吸収されず排出されるため、健康被害はないと考えられるが、「万全を期すために」回収するとした。

 手元に該当製品があった場合、着払いでの返送で、代金を返金するという。各社報道によると、回収対象となったのは30万個近くとみられ、一部店舗を除いて18日に販売再開された。

 食品への異物混入は、たしかに不祥事だ。人体に影響がないにせよ、それそのものは褒められる出来事ではない。しかしながら、SNS上では「がんばれ」といった声援も多く、好印象を残しているようだ。

 その理由を、ネットメディア編集者として、数々の炎上をウォッチしてきた経験から考察すると、まずは「迅速な対応」がプラスに働いたと考えられる。

 製造は土日にかけてだったにもかかわらず、日曜の時点で、即座に自主回収を決める機動力は、なかなか他の企業では見られない。そして同社の発表によると、そもそも異物混入は、消費者からの連絡ではなく、従業員が見つけたという。

■551ブランドイメージの高さ

 NHKなどの報道によると、購入客からもビニール片混入の連絡があったというから、結果としては販売前に止められなかったわけだが、その察知能力は評価できる。また製造ラインという工場内での混入で、虫など外部からの侵入ではなかったことも、衛生面を担保するうえでプラスになったはずだ。

 対応もそうだが、なにより以前からブランドイメージの高いことが、異物混入でもマイナス評価にならなかった大きな理由だろう。

 551の豚まんと聞いて、関西圏との縁が薄くても、「存在は知っている」という人は多いはずだ。新幹線グルメでは「西の551豚まん、東の崎陽軒シウマイ」と並び称されるほどで、車内にホカホカのまま持ち込んで、そのニオイの是非が、マナーの議論になることも多い。

 そのブランディングの肝は、地元・関西に特化していることに他ならないだろう。551には通販サイトがあるが、実店舗は関西圏に展開されているため、基本的にはローカルチェーンだ。ときたま、他地域の催事にも出向いているが、東京出展時には行列が珍しくなく、過去には「5時間待ち」と話題になることもあった。

 ちなみに、同じく豚まんを製造している「蓬莱本館」という会社があるが、こちらは別の企業だ。551公式サイトでは「もともとのルーツが同じですのでどちらも蓬莱の名前を使用しておりますが、現在は全くの別会社。もちろん商品の味、製造方法も違います」と説明されている。

■地元では「当たり前」でも、他の地域からすれば魅力的

 お笑い芸人・なるみさんによる「551があるときー、ないときー」のテレビCMも、関西圏ではポピュラーなようだ……と、伝聞形式で書いているのは、筆者自身は関東出身のため、「おもしろローカルCM」のひとつとしてしか知らないからだ。

 私たち「関西以外」の人間にとって、551の豚まんは特別な存在だ。しかし大阪出身の本コラム担当編集者は、「551の豚まんは夕方のおやつに食べるようなもの。たしかにウマいが、なぜそんなに全国的な人気があるのかわからない」と語る。そのギャップはどこから生まれるのだろう。

 筆者は会社員時代、地域情報系ウェブメディアの在籍歴が長く、最終的には編集長も務めた。とくに人気だったのは、地域差を扱った記事。その土地では「当たり前」だと思われていても、他の地域からすれば魅力的に映る。対象となるのは、グルメはもちろん、言い回しや風習まで多岐にわたる。

 私は旅行に行くとき、著名な観光地より、ローカルチェーン店を訪れがちだ。スーパーの品ぞろえを眺めるだけで、自分の生活圏との違いに気づける。見たことのない「焼肉のタレ」が並んでいるな。近くの港では、こんな魚がとれるのか。フードコートのラーメンが安すぎる……。ガイドブックに載っていない、そんな「町の当たり前」の中に、旅の醍醐味がある。誰かの日常は、自分の非日常だ。

 つまり観光資源は、灯台下暗しなのである。「秘密のケンミンSHOW」シリーズ(読売テレビ、日本テレビ系)が長寿番組になり、「月曜から夜ふかし」(日本テレビ系)の地域差ネタが話題になりがちなのも、こうした地元民とヨソ者のギャップからと言えるだろう。

 地元で長年愛されていた銘菓が、ふとしたきっかけで注目されて、一気に全国区の人気を得たという話は珍しくない。もちろん前提条件として、その土地の人がオススメできる商品である必要はあるが、どこかのタイミングで「見つかってしまう」のだ。

 551についても、地元での知名度が高かったからこそ、全国からの人気を集めた。関西在住者からプレゼントされたり、吉本芸人のエピソードトークに出てきたり……。そうしたクチコミが地盤にあったうえで、行列や旅情による「プレミア感」が、購買意欲をかきたてる。

 その他にも、要因としては「他の大都市と比べて、大阪への出張者・旅行者は母数が多い」とか、「マスコミの多くが東京拠点のため、『お土産ネタ』を扱う際には、東京に並ぶ大都市・大阪の商品を取り上げる」など、いくつか理由は考えられるものの、いずれにせよ、551自身が他県への訴求を積極的にしているようには見えない。

 やはり「地元密着」を徹底した結果、企業発信ではなく、消費者ベースで他地域へも波及し、ブランディング構築につながったと考えるのが自然だろう。

■出発点を忘れず、真面目に向き合うことの大切さ

 筆者は年1回ほど大阪を旅するが、いつも観光よりも、食をメインに据えている。最後まで「くいだおれの街」を満喫するため、帰りの新幹線に乗る際には、何かしらの関西グルメを携えている。もちろん、551の豚まんはレギュラーだが、最近は焼売のほうが、ダイレクトに肉を感じられるので好みだ。もちろんカラシはべったりと付ける。

 加えて、近年では「りくろーおじさん」のチーズケーキも台頭してきている。消費期限は常温だと当日、冷蔵でも3日。焼きたてのフワフワ食感は、時間を追うごとに落ち着いていくのだが、だからこそ、いとおしく思えてしまう。お土産グルメの評価軸として、「はかなげか否か」は、かなり大きなウエイトを占めていると感じる。

 話がそれてしまったが、どちらのブランドにせよ、地元に忠実であることが、成功につながっているのではないか。

 地方で人気を博した商品が全国展開すると、ときたま「地元を捨てた」と表現されてしまうことがある。ちょっとでも「あわよくば」と、ヨソ行きの色気を見せてしまうと、すぐ気づかれるものだ。ひとたび地元軽視と取られてしまうと、イメージダウンは避けられず、後々まで尾を引いてしまう。

 反対に「故郷に錦を飾る」という慣用句もある。各地で結果を残せば、ふるさとの誇りとして評価される。物理的に離れていても、心はその街に残っているからこそ、成功を収めたときに、周囲も喜んでくれるのだ。

 出発点を忘れず、真面目に向き合うことが大切なのだろう……。今回の騒動を通じて、そんなことを「蓬莱」の豚まんに教わった気がした筆者であった。

東洋経済オンライン

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最終更新:3/19(火) 18:02

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