不透明感漂うトランプ関税 パウエル議長 “混乱放置”で政権の経済政策は穏健化?
トランプ関税による不透明感を受け、FRB(連邦準備制度理事会)の利下げを求める圧力が高まる中で、パウエルFRB議長発言が注目を集めました。今後の金融政策の見通しについて、第一生命経済研究所・藤代宏一主席エコノミストに寄稿してもらいました。
関税によるインフレ効果「より持続的になる可能性」
米経済は、トランプ関税それ自体の行方が分からず、しかも関税が経済にどういった影響を与えるのかが不明という二重の不透明感に包まれています。90日間の停止措置中にある「相互関税」が復活するのか、仮に復活した場合にどれだけ物価が上がり、個人消費が打撃を受けるのか。そして関税発動を目の当たりにして企業が設備投資、雇用計画をどのように練り直すのか、など不確実性は極めて高い状況にあります。
そうした不確実性がある意味で低下したのは、4月16日のパウエルFRB議長発言でした。パウエル議長は「関税の引き上げは、予想をはるかに上回るものになっている。インフレ率の上昇や成長率の鈍化など経済に与える影響も同じような状況だ」とした上で「関税は少なくとも一時的にインフレを上昇させる可能性が非常に高い。インフレ効果がより持続的になる可能性もある」としました。
5月の利下げを排除、6月の利下げにも距離を置いた?
関税によるインフレが一時的であるか否かは米国経済の予想をする上で極めて重要な問題です。関税インフレは一時的であるから、景気の下振れリスクに対して予防的な利下げを講じる、或いはそうすべきという市場関係者は少なからず存在します。FRB内部ではウォーラー理事が4月14日に「2021年に始まったインフレ上昇が、私自身や他の政策担当者の当初の想定よりも長引いたことは事実だが、関税によるインフレ上昇は一時的なものになると判断している」と従来からの見解を繰り返し、その上で「もし景気減速が深刻化し、景気後退の脅威さえある場合には、政策金利を従来想定より早く、かつ大幅に引き下げる方向を支持する」として、関税ショックを利下げで吸収する考えも示しました。
それに対してパウエル議長は「当面は、政策スタンスの調整を検討する前に、より明確な状況が明らかになるまで待つことができる」として、関税の帰趨とそれが経済にどう波及するかを見極めてから動く構えを示しました。5月FOMC(7日)の利下げを排除し、6月FOMCの利下げにも距離を置いたように思えます。実際、4月17日時点でFF金利先物が織り込む6月FOMCまでの利下げ確率は70.6%と前日から約10%pt低下しました。またパウエル議長は「最近の市場の変動はトランプ政権による関税政策の劇的な転換を論理的に消化している」などとして、トランプ関税による株価下落を利下げで打ち消すことに否定的な見解を示しました。
FRB議長が変わって積極利下げに転じる可能性は低い?
関税による負のショックをFRBの利下げで相殺するという、トランプ大統領の目論見は一旦否定された形です。これに対してトランプ大統領は「(パウエル議長が)任務を果たしているとは思わない。私が彼に去ってほしいと望めばすぐに去ることになるだろう」などとパウエル議長を解任したい意向を示しました。大統領がFRB議長を解任するのは制度上容易ではありませんから、辞任を迫ったのかもしれません。ただ、ベッセント財務長官がパウエル議長の解任は金融市場の不安定化を招くとして警鐘を鳴らしたとも報じられています。またトランプ大統領が後任にケビン・ウォーシュ元FRB理事を充てる方向で数カ月前から動いているとの報道もありますが、当のウォーシュ氏がパウエル議長解任に反対し、任期を全うさせるべきだとトランプ氏に助言したとも伝わっています。現時点ではFRBの独立性が脅かされ、パウエル議長に代わる新議長が登場し、年内2回以上の積極的な利下げを講じる可能性は低いと判断されます。
パウエル議長がパウエル・プット(株価が下がるとFRBが金融緩和的な方向に傾くこと)を否定したことはトランプ政権の通商政策を穏健なものにさせる可能性があります。トランプ大統領は、株安、債券安が米国を襲っても、FRBが金融政策によって食い止めるという甘えがあったように思えるからです。今後パウエル議長が、トランプ政権の政策不透明感に起因する金融市場の混乱を放置する構えをより明確にすれば、日米交渉を含め、トランプ政権の政策態度が軟化するのではないでしょうか。
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最終更新:4/21(月) 18:50