「地方創生」は鄧小平の改革開放に学べ!~ふるさと納税はアフリカへの食料援助と同じ、発展への妨げ

4/5 6:02 配信

マネー現代

北朝鮮より貧しい国を救った「改革開放」

(文 大原 浩) 今や、習近平氏の「毛沢東回帰路線」によって、昨年8月31日公開「中国は崩壊か? それとも『失われる50年』か? いずれにせよ日本のバブル崩壊以上の惨劇が待っている」という状況に陥っているのが共産主義中国である。

 逆に言えば、2019年1月9日公開「客家・鄧小平の遺産を失った中国共産党の『悲しき運命』を読む」で述べた、鄧小平の「改革開放」を始めとする「遺産」がどれほど大きかったのかということを如実に示す。

 1978年に改革開放が始まる前の中国は、毛沢東の「大躍進政策」や「文化大革命」によって荒れ果て、「北朝鮮よりも貧しい」とされていた。

 その「北朝鮮よりも貧しい」中国を(毛沢東の「大躍進」とは違って)本当の意味で「大躍進」させ、世界第2位のGDP大国に押し上げた原動力が「改革開放」であることは言うまでもない。

 だが、この改革開放を(実務レベルで)成功に導いたのが、多くの場合中国共産党ではなく、(中国共産党の支配から逃れ、海外逃亡した人々を含む)華僑たちであることは意外に知られていない。

 客家である鄧小平は、ある程度市場原理を理解していたからこそ「改革開放」を立案し実行できた。しかし、当時のほとんどの共産党幹部や多くの一般国民は「市場原理」や「資本主義」についてあまりよくわかっていなかったのだ。

 1949年の「建国」以来、30年近くにわたって、「市場経済や資本主義を全面否定」し、「走資派」なる言葉を用いて、少しでも市場原理や資本主義を理解できる人々を徹底的に排除してきたのだからそれも当然である。

 だから、改革開放初期の中国共産党は、「中国から逃げ延びた」華僑の実業家達を、「三顧の礼」を持って改めて迎え入れ、現在では敵対的言動が目立つ日本に対しても深く頭を下げて協力を要請した。

「改革開放」政策をリードしたのは華僑

 華僑実業家達は共産党が支配する中国に警戒感を持ちながらも、おそるおそる協力を始め、それが「中国の奇跡の成長」につながる。

特に鄧小平と同じ客家のリー・クアンユーが率いていた「華僑国家」であるシンガポールは、特筆すべき働きをした。それまでほとんど途絶していた「西側」への窓口として活躍したのだ。しかも「明るい北朝鮮」というニックネームが示すように、「経済活動の自由」は保証されていても「政治的自由」がほとんど無いシンガポールは、共産主義中国が「資本主義化」するための良いお手本でもあった。

また、現在の中国の証券市場の基盤は日本の金融機関が全面協力して構築された。さらに、日本経済新聞 2018年12月19日「鄧小平氏が頼った松下幸之助氏 中国、改革開放貢献の外国人を表彰」と報道されるように、松下幸之助を始めとする多くの日本の財界人が改革開放に力を貸した。

中国共産党に「市場経済」、「資本主義」のノウハウが無かったから、華僑や日本などに頼らなければ改革開放が出来なかったのだ。

 そして、改革開放前の中国と同じような状況に追い込まれているのが、日本の地方ではないかと思える。

ミニ毛沢東とも言える「地方のボス猿」が、「市場経済」や「資本主義」を破壊し、地方を「東京よりもはるかに貧しく」しているということだ。

そしてそのような「疲弊する地方」を救うには、日本の地方における「改革開放」が必要不可欠だと考える。

日本の地方はかつての中国同様閉塞していないか?

 経済が衰退する根本的理由は、多くの場合、既得権益が積み上がり「創意工夫」や「チャレンジ精神」が失われていることにある。

 そのような「根本的原因」が「問題の先送り」や「改革への抵抗」となって、直接的な経済衰退原因を創り出すのだ。

 改革開放の初期には、いくら中国共産党が笛を吹いても国民は距離をおいていた。それは1956年から1957年にかけて行われた「百花斉放百家争鳴」の記憶が生々しかったからである。

 この活動は「例え中国共産党に対する批判が含まれようと、人民からのありとあらゆる主張の発露を歓迎する」という趣旨だとされ、国民は色々な意見を述べた。ところが間もなくこの政策は撤回され、「自由な意見」を述べた国民は徹底的に弾圧される。

 国民の「溜まりに溜まった(共産党に対する)不満が爆発」するのを恐れた措置とも言われるが、少なくとも結果的に国民は嵌められ「不満分子」があぶりだされたのだ。

 この中国共産党(毛沢東)を「地方のボス猿」に置き換えたらどうであろうか? 
 地方自治体を始めとする色々な組織から(表面的に)「『地方創生』のため皆様の『自由なご意見をお願いします』」と言われても、それが額面通り捉えられているのかという問題である。

 地方を改革するほとんどすべてのアイディアは、既得権益を牛耳るボス猿達のお気に召さない。決して広いとは言えない地域社会で、「ボス猿」に睨まれたら「村八分」になり生きていけなくなるかもしれないのだ。そのような恐怖を感じる人々が、「自由な意見」を述べたり、「自由な行動」を行ったりするであろうか? 
 昨年5月31日公開「地方の活性化にはまずボス猿排除、補助金やふるさと納税という援助に頼って腐敗している」で述べたように、地方創生を成功させるには、まず改革開放そのものを阻んでいるボス猿の排除が必要不可欠だ。

 IT・インターネット時代の監視社会については、2021年3月2日公開「あなたも監視されている-このまま中国型監視社会に向かってよいのか」で詳しく述べたが、地方では江戸時代から続く「隣人による監視」というアナログ的手法で、共産主義中国並みの監視社会が実現している。

 このような、息苦しい社会から、能力も意欲もある若者が華僑のように、東京や海外へ「脱出」することが地方疲弊の最大の原因といえよう。

公務員が市場を理解できるか?

 (かつての)共産党員が市場原理を理解できないのと同じように、(現在の)公務員も市場原理がわからない。

 ただ、彼らばかりを責められない。世間に出たことが無い公務員に「市場」を理解せよというのは、「無理難題」と言ってよいだろう。

 かつて、あの尊大な中国共産党が、腰を折って華僑や日本に教えを乞うたのと同じように、地方自治体もまず、地方公務員に民間出身者を大量採用し、彼らに学ぶべきだ。

 もちろん、そのような引く手あまたの優秀な民間の人材が恐れているのは、「百花斉放百家争鳴」のように、「自由にやってくれと言われてその気になっていたら、ボス猿がしゃしゃり出てきてテーブルをひっくり返す」ことである。

 ボス猿に邪魔はさせないと優秀な人材に信じさせることができた自治体だけが、かつての改革開放によって大繁栄した中国と同じ甘い果実を得ることができるのではないだろうか。

 ちなみに、優秀で意欲があっても、地元の若手は村社会の「ヒエラルキー」に組み込まれているから、動きにくい。

 改革開放で華僑が活躍したのと同じように、「脱出組」が取り組むのが合理的と思われる。

 結局のところ、ミニ毛沢東になっている「ボス猿」を「取り締まる」のが地方自治体の首長の役割といえよう。

市場原理を知る「企業」が活躍できる

 このように、外部の知見で推進する改革開放の事例として興味深いのが、ふじのくにメディアチャンネル2022年8月9日「高校とヤマハ発動機が本気のタッグで 未来を作る 静岡県の高校教育とは?」である。

 この事例は、市場経済を知る企業が学校教育と連携するという意味で非常に興味深い。

 しかし、「地方における製造業」という意味でもっと重要だ。中国における改革・開放は「世界の工場」になることで成功したことを思い起こしてほしい。

 中国が大成功できたのは、製造業に力を入れ、そのためのインフラを急速に整備したからである。「次の中国」と騒がれるインドは大して発展しないであろうと私が考えるのも、インドにおける製造業があまりにも貧弱で、これからインフラが急速に整備される見込みも薄いからだ。

 さらに、これまで地方を疲弊させてきた工場の海外移転の嵐も止まった。むしろ、チャイナリスクを筆頭とした地政学リスクや円安傾向などから、国内への工場回帰が急速に進んでいる。

 「大原浩の逆説チャンネル<第36回>世界の混迷の中で、『ガラパゴス日本』が発展する。ITから製造業へ。円安も追い風だ」と述べたが、日本への工場回帰は地方にとってのビッグチャンスである。しかも、これまで無駄と思われてきた、幅の広い舗装道路や乗客の少ない鉄道などのインフラを活用するチャンスだ。

商店街衰退は「結果」

 「地方創生コンサルタント」は、すぐに商店街をいじりたがるが、結果を出せない。それも当然だ。

 地方の商店街が寂れるのは「地方衰退の結果」であり、衰退の原因そのものを変えなければ意味が無い。地方創生の「核」になるべきなのは、安定的な雇用を生み出す製造業である。

ふるさと納税は「アフリカへの食料援助」

 利権がはびこるだけで、「勤労意欲」を削ぐ。2008年の制度開始以来16年がたつが、ふるさと納税がどれほど「地方活性化」に役立ったのであろうか。「地方創生」につながったという成功事例を全くと言っていいほど聞かない。

 「アフリカへの食料援助」の問題点として指摘されるのが、「『食料援助』では無く『食料を生産する方法』の伝授が大事」ということだ。

 ふるさと納税という「援助」に頼ってかえって自立心が失われ、益々地方が疲弊しているというのが私の感じるところである。

 文化大革命などによって疲弊した共産主義中国の人材だけでは、改革・開放を成し遂げられなかったのと同じように、地方の「改革・開放」にも「流出した人材」が必要不可欠だ。

 「自立心」を持ったリーダーが地方を牽引し、彼らを気持ちよく受け入れ、頭を垂れて教えを乞う姿勢が無ければ、地方の再生はあり得ない。

 幸か不幸か、改革開放には日本も惜しみない支援をし、大成功させた。日本の地方の改革開放ができないはずがないと考える。

マネー現代

関連ニュース

最終更新:4/5(金) 12:06

マネー現代

最近見た銘柄

ヘッドラインニュース

マーケット指標

株式ランキング