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「失礼ですが、旦那様とは偽装結婚ではないですよね…?」日本を愛して来日し、永住権を持つ外国人女性が経験した“日本の見えない壁”

4/6 6:02 配信

東洋経済オンライン

「永住権を持っていても、日本での生活はスムーズにはいかない」
これは、多くの外国人が実感する現実だ。そこには法的な問題以上に、日本社会の“見えないルール”が存在するのだ。
英米で10年を過ごし、世界30カ国以上での経済調査の経験を持つ加藤氏が、日本では極めて少数の外国出身の政治家(区議会議員)であるオルズグル氏のインタビューより、日本の開国度の現実と課題をひもとく。
*この記事の前編:【日本が大好きで来日したのに…】「面接した53社から不採用!」「外国籍に不動産は貸せないよ」“日本を愛する外国人女性”を襲った厳しすぎる現実

■「偽装結婚ですか?」日本で暮らす外国人女性への視線

 「失礼ですが、旦那様とは偽装結婚ではないですよね?」

 その言葉を聞いた瞬間、オルズグル氏は一瞬、何を言われたのかわからなかった。

 だが、不動産会社の担当者が真顔で言ったのを見て、すぐに理解した。

 何度も感じてきた“見えない壁”が、ここにもあったのだ。

 ウズベキスタンの一流大学の日本語学科へ14歳で入学、大学院や日本語通訳などを経て、21歳で来日したオルズグル氏。

 53社に面接で落とされるが、根性で物流会社への新卒就職を勝ち取った。

 その後、国際物流の経験を生かし母国のワインを日本に輸入する企業を立ち上げる。

 そのワイン事業を横展開して、ワインバーの物件を探したとき、再び「壁」にぶつかる。

 すでに実績のある実業家にもかかわらず、なんと2年間探し続けても、物件を借りることができなかったのだ。

 「日本人の夫に保証人になってもらうように動きました。でも、まさかその場で『偽装結婚では?』と疑われるとは思いませんでした」

 10年以上も日本で暮らし、仕事をし、結婚生活を送っている。それでも、「本当に夫婦なのか?」と疑われる。

 それは、日本社会に根付く“外国人へのまなざし”を象徴しているのかもしれない。

■約4割が「外国人」ゆえに不動産契約を断られた経験

 法務省の調査によれば、日本に住む外国人の約4割が「外国人であること」を理由に不動産契約を断られた経験があるという。

 2017年に住宅セーフティーネット法が施行され、外国人も保護の対象とされた。しかし、日本には今も「国籍を理由にした入居拒否を禁止する明確な法律」がない。

 結局のところ、不動産オーナーの判断次第。そこに偏見や差別が入り込む余地が、まだまだ残されているのが現実だ。

 「私はこの国が好きで、日本で働き、税金も納めて、ワイン会やイベントを通じて日本人のご縁をつないだり、社会にも貢献しているという自負がありました。それでも『どこかで“よそ者”なのかもしれない……』そう思うと、寂しいですよね」

 筆者はこれまで、国外で不動産を借りたり購入したりした経験が何度かある。

 外国人として特別な条件を求められることは確かにあったが、契約の場には中立的な弁護士が介入するなど、むしろ透明性を感じたことも多い。

 「日本人は物件を非常に丁寧に扱う」といった評判から好条件を提示されたことさえある。

 これはオルズグル氏とは真逆の体験ともいえ、最終的にその国への愛着や尊敬につながったことは間違いない。

 日本は、国として永住権を認め、異なる背景や文化を持つ人々を社会に迎え入れている。

 しかし、その先の生活や仕事を始める段階では「見えないルール」が根強く存在するのだ。

 外国人の日本が好きな理由として、漫画やアニメや観光資源が挙げられる。ただし、不動産のような商契約において、「社会から本当に受け入れられた」と感じられる経験は、それを大きく上回るはずだ。

■「永住権」と「日本国籍」の知られざる大きな差

 ただし、オルズグル氏は、この後に驚きの出来事を経験した。

 「その後、日本国籍を取得、帰化しました。そして、再度、諦めずに不動産を探そうと不動産屋に向かうと、今までのことが嘘のように物件を借りることができたのです」

 「嬉しかった反面、複雑な気持ちもありました。私自身は同じ人間で、何かが変わっているはずもないのに、日本社会からまったく違った答えが返ってきたからです」

 永住権と日本国籍。どちらも取得の難易度は高い。法的には、永住権も帰化も日本で暮らすうえで問題はない。

 だが実社会での、就職や商習慣においては、大きな違いがあるのだ。

 なお、直感的には国籍取得のほうが、永住権より難易度が高そうに思えるものだが、実はそうとも言えない。

 たしかに毎年の取得人数は永住権が帰化に対して多いのだが、その許可率は永住権約50%に対して、帰化90%以上と、帰化のほうが明確に高い。申請に必要な在留期間も、永住権は10年以上に対して、帰化は5年以上だ。

 筆者の同僚でも、「永住権の審査は、細かい書類が多く、基準も曖昧だったので不許可でした。ただ帰化の申請時は求められる内容が明確で、永住権より先に帰化が許可されました」という人物がいる。

 それならば、「日本に住みたい外国人は皆、帰化をすればいいのでは?」と思うかもしれないが、二重国籍を原則認めていない日本においては、自分の母国の国籍を放棄するという決断を迫られる。

 これはかなり重たいものだ。

■「母国の国籍を失う」ことは本当に重たい選択

 「母国の国籍を失うことについては、長年悩みました。本当に重たい選択でした」

 将来的に自分の地元に貢献したい、親孝行をしたい、少なくともその可能性を失いたくないという想いは、我々日本人にもよく理解できるところだろう。

 「日本は素晴らしい国です。私は日本が大好き。ただ『機会の平等』という大切な概念を、日本社会はもっと取り入れるべきだと思います。これは、外国人である私だけでなく、日本人の多くの方も苦しんでいるのではないかと思いました」

 「私は、この先も大好きな日本で暮らしていきます。外国籍から日本国籍に変わった私の経験が、多くの人たちの未来につながってほしいと思いました」

 現在、東京で政治家として活動するオルズグル氏は、多文化共生を推進する政策に力を入れている。

 外国人と日本人が互いに理解し合い、ともに暮らしやすい社会を目指して、行政サービスの多言語化、多文化共生条例のさらなる浸透、外国にルーツを持つ子どもたちへの教育支援、そして外国人だけでなく日本人のマイノリティにも配慮した具体的な施策を推し進めている。

 また、外国人女性として、ほかのマイノリティグループにも想いを寄せている。

 「日本には300万人を超える外国人が、世界の多くの選択肢の中から日本を選び、日本のことが好きで、働き、暮らしています。ただし、マイノリティとして実際に暮らしてわかる苦労は、たくさんあります」

 「たとえば災害時の情報が日本語だけだと、外国人はどう動いていいかわからず、命の危険につながることもあります。防災情報の多言語化などは急務と思っています」

■「誰もが挑戦できる」「機会の平等」がある社会に

 オルズグル氏の経験からは、今後日本人がリテラシーを高める必要のある、外国人労働者の受け入れ、永住者や日本への帰化といった違い、日本社会における「機会の平等」の現実の多くを学べるだろう。

 性別や年齢、かつての国籍や若い頃の学歴など、今からでは変えられないことを理由に、実社会でのチャレンジの機会を奪われることは、その大小問わず、非常に寂しいことだ。

 社会をいっきに変えることはできない。だが、「小さな改善」が積み重なれば、未来は確実に変わる。

 オルズグル氏のように、「外から訪れる人」ではなく「中で変える人」になろうとする存在が増えることは、日本にとって大きな希望となるだろう。

*この記事の前編:【日本が大好きで来日したのに…】「面接した53社から不採用!」「外国籍に不動産は貸せないよ」“日本を愛する外国人女性”を襲った厳しすぎる現実

東洋経済オンライン

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最終更新:4/6(日) 6:02

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