番記者が語る WBCを「クールで特別」に昇格させた大谷の功績 勝利へのこだわりとドラマチックな展開で魅了

5/9 16:02 配信

東洋経済オンライン

大谷翔平選手のメジャーリーグでの軌跡を取材し続けてきた志村朋哉さんが、2人のアメリカ人記者と鼎談。1人は地元紙ロサンゼルス・タイムズでスポーツコラムニストとして働くディラン・ヘルナンデス氏。彼は、大谷にメジャー移籍前から注目して取材を続けてきた人物です。そしてもう1人は『ジ・アスレチック』で、大谷選手がブレークした2021年から番記者を務めるサム・ブラム氏。ほぼ全てのエンゼルスの試合を球場で取材するサムは、大谷を取り巻く環境に精通しています。

本記事では『米番記者が見た大谷翔平 メジャー史上最高選手の実像』から一部を抜粋、再編集し、2023年のワールド・ベースボール・クラシックにおける大谷選手の活躍を振り返ります。

 志村朋哉(以下、トモヤ) 2023年のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で、僕は久しぶりに野球であんなに熱狂した。

 特に決勝戦の最終場面で、大谷とマイク・トラウトが対戦した時は、「現実でこんなドラマチックなことが起こるのか」と興奮が最高潮に達したよ。

 ディラン・ヘルナンデス(以下、ディラン) スポーツで一番難しいのは、みんなが期待している時に、それに応えたり、上回る結果を出すことだと思う。

 たとえば、メッシでさえ、22年までは、ワールドカップで期待されているような活躍ができなかった。

 僕らメディアにも責任があると思う。過剰に煽ってファンを期待させてしまうから、アスリートがその期待に応えるのは、なかなか難しい。

 だからこそ、タイガー・ウッズのようなアスリートは特別。彼がプロになった時、史上最高のゴルファーになるんじゃないかと期待されていたけど、それを上回るようなパフォーマンスを見せた。

 WBCでの大谷は、それに近い感じだった。しかも野球では、良いスイングをしても、運が悪くて結果に繋がらないこともある。頑張っても報われないことがあるスポーツで、チームを勝利に導こうとする意志が感じられた。

 最後のトラウトの打席は、永遠に歴史に刻まれる瞬間だと思うけど、メキシコ戦で劣勢に立たされていた時の打席が、僕は印象に残っている。

 たぶん6インチくらい外角に外れていたんじゃないか。それをヒットにするんだから。

 試合後に確か、「出塁しようと決めていた」って言ったと思うけど、「決めていた」ってねえ。

 確かに漫画の世界のことのようだった。彼の内面で起きていたことが、パフォーマンスとなって発揮されたシーンだった。

 それが特別なアスリートである証なんだ。プレーを見ているだけで、その人を知っているかのような気分にさせてくれる。あの大会を通して、大谷の競争心の強さを思い知らされた。

 もう1つ印象に残っているのが、大谷が決勝戦の前に行ったスピーチ。

 彼もメジャーの選手に憧れてアメリカに来ていたから、チームメイトの心理を理解していたんだと思う。そういうことを全て断ち切らせて、みんな「俺の背中に飛び乗れ」みたいな感じだった。

 日本で年功序列が大きな意味を持っているのは理解している。だからこそ、あそこで(最年長ではない)大谷が、ああいうスピーチをして序列を打ち破ったことで、日本社会にどんな影響を与えるのか興味がある。

 スピーチの仕方も上手で素晴らしかった。優れた選手というだけでなく、優れたリーダーでもあるということが分かった。

■必ず「勝ち抜く」という使命

 サム・ブラム(以下、サム) WBC期間中は、エンゼルスのスプリングトレーニングを取材していた。

 大谷が最後の先発登板をした後に、エンゼルスの監督や選手に、大谷の活躍をどう思ったのか聞いた。もう大会では投げないということだったから。

 でも、たしか準決勝で勝った後に、大谷がインタビューで、決勝戦での登板の可能性をほのめかしたんだ。それで球団はちょっと焦った。

 「大変だ。シーズンで勝つためには、彼が必要なんだ。今シーズンは彼の健康状態にかかっているのに」って。でも大谷には、このトーナメントを勝ち抜くという使命があった。そして、それを成し遂げた。

 結果的にも、最後の試合で投げたことがシーズンに影響を与えたとは全く思わない。僕が感じたのは、この大会で日本を優勝させるんだという大谷の強い決意。

 ディランが言ったように、「塁に出る」「ヒットを打つ」という積極的な姿勢が感じられた。それが彼の大事な場面での思考回路なんだと思う。エンゼルスで、大舞台でのそういう姿を見ることができなかったのは残念だった。

 あと、彼が日本人にとって、文化にとって、国にとってどれほど大きな存在なのかを実感した。彼のバッティング練習を見ようというファンで球場が満員になるんだから。野球という枠を遥かに超えた存在なんだろうね。

 メジャーで2年間もMVP級の活躍をした後に、故郷に帰って、母国のファンの前でプレーできたことは、彼のキャリアの中で最も思い出に残ることの1つになると思う。それ以上に特別なことはないと思う。

 大谷とトラウトの2人でエンゼルスを勝たせることはできなかったけど、チームメイトとしてWBCで対決したことは、球団にとっても、歴史的な場面として語り継がれると思う。

 大谷の存在が、大会を特別なものにしたのは間違いない。これまでのWBCは、物議を醸したり、面白みに欠けたりと、(アメリカでは)それほど重要だとは見られていなかった。

 でも大谷の活躍で、WBCのステータスが上がったと思う。特に野球ファンにとっては、サッカーのワールドカップ的な存在になったと思う。本当にクールで特別なイベントになった。特に大谷がプレーしている時は、絶対に見なきゃと感じさせた。

■1打席、1打席が特別な瞬間

 ディラン メジャーリーグでは、いつも「サンプルサイズが大事」だと言われる。試合に負けても、「たかが1試合」「たかが1打席」と言う。

 トラウトは大谷からヒットを打ちたかったか? 

 もちろん、打ちたかったと思うよ。でも大谷に三振を喫した後、打ちひしがれていたか? 

 たぶん、それはないと思う。「しょうがないか。1打席だけだったんだから」と思っているから。

 でも大谷は、高校で甲子園に行っているし、1打席、1打席が特別な瞬間だと思っている。言い訳は許されない。日本では、「そういう大事な場面で、その人の本質が明らかになる」という見方が強いと思う。

 そして明らかになったのは、大谷が大舞台でも結果を出すということだった。

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最終更新:5/9(木) 16:02

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