小さくても「ボルボらしい」とEX30に思うデザインの妙技

4/19 9:21 配信

東洋経済オンライン

 昨年6月、イタリアのミラノで発表されたボルボの新型電気自動車(BEV)「EX30」のデリバリーが、日本でも今年2月に始まった。

 ボルボはすべての車種をBEVにすると宣言しているブランドのひとつ。すでに日本でも、「C40 Recharge」と「XC40 Recharge」がBEVだ。このうち、C40 RechargeはBEV専用車種となっている。

 しかしながら、C40/XC40 Rechargeのプラットフォームは共通で、XC40にはマイルドハイブリッド車(MHEV)もあるので、BEV専用設計ではない。これに対してEX30のプラットフォームは、現在ボルボが属するジーリー(吉利)グループの他のブランドを含めて、BEV専用であることが特徴だ。

■BEV専用車らしいプロポーション

 日本仕様の実車を前にすると、専用設計を生かしていることをまず感じる。真横から見たとき、他のボルボよりノーズが短く、キャビンが長いプロポーションを持っているからだ。テスラ各車や日産「アリア」など、BEV専用プラットフォームを持つ車種に近いフォルムになった。

 それでもボルボらしく見えるのは、厚みを持たせたショルダーラインや、頑丈そうなグリップ型ドアハンドルなどのおかげだろう。自分たちの立ち位置を理解していると感心した。

 フロントマスクは、C40/XC40 Rechargeではグリルのあった位置をパネルとしてBEVであることをアピールしていたが、EX30はもっと思い切っていて、顔全面をフラットなパネルとして、中央にロゴマークを置き、左右の角にヘッドランプを置いた。

 北欧神話をモチーフにしたトールハンマー型ヘッドランプは、矩形のレンズの中にハンマーを入れるのではなく、LEDでハンマーを描いてフロントマスクの隅に置いており、そこから伸びる黒い枠が顔の輪郭を描いている。ハンマーは通常はデイタイムランプだが、ウインカーを出すとその方向だけオレンジの点滅に変わる。

 リアはボルボ伝統の縦長コンビランプを上下に分割し、下側はフロントマスク同様、パネル全体を黒い枠で囲んでいる。フロントに比べると要素が多い印象だが、下側のランプの中にストップランプやウインカーを収めたレイアウトはXC40と似ており、そこにフロントと同じ枠を融合させたと理解できた。

 ディテールでは、ドアミラーがフレームレスであることが特徴だ。鏡面の汚れなどが気になるところではあるが、ミニマムなデザインへのこだわりは感じる。

 EX30は、ボルボとしてはコンパクトであることも特徴のひとつ。サイズは全長4235mm×全幅1835mm×全高1550mmで、全長はトヨタで言えば「ヤリスクロス」よりやや長い程度。BEVで言えばBYD「ドルフィン」が近い。

 ボディカラーは5タイプを用意。かつての「1800ES」や「850 T-5R」などを思い出すモスイエローにまず目が行くが、試乗車のクラウドブルーも、イエローほどの存在感を出さずに北欧感を醸し出す、絶妙な色だと思った。

■テスラ流でもボルボらしさあふれるインテリア

 インテリアでは、まず運転席の前にメーターがないことに気づく。

 目の前にあるのはドライバーモニタリングシステムのセンサーだけで、ボルボではおなじみの縦長のセンターディスプレイに速度計などを一体化し、ドアなどに点在していたオーディオのスピーカーをインパネ奥にサウンドバーとしてまとめているのだ。

 メーターをセンターディスプレイに集約する手法はテスラ流とも言えるが、速度計などを最上段にまとめ、中央にナビゲーションやエンターテインメント、下にエアコンと機能別にゾーンを分けているのは見やすいし、アイコンや文字が北欧らしいスマートなデザインであることも好ましい。

 サウンドバーはホームオーディオのデザインからインスピレーションを受けたそうだが、スピーカーをひとつの部品にまとめ、ドアではなくボディ側に置くことで、配線や材料の量を減らし、リサイクルを容易にするという目的もあるという。パワーウインドウのスイッチをセンターコンソールに集約したことも、同じ理由とのことだ。

 おかげでドアトリムはすっきりしていて、フローティングタイプのアームレスト兼グリップや大きなドアポケットなど、それを生かした造形となった。アームレストに内蔵され、先端を押すとゆっくりせり出すカップホルダーの使いやすさも印象的だ。

 その下のトレイはリッドの付いた2段式になっていて、スマートフォンの非接触充電は、奥のホルダーに差し込んで立て掛けて行うタイプ。このあたりのデザインやタッチも五感に心地よく、IKEAやエレクトロラックスなど、同じスウェーデンの製品に共通するものを感じた。

■サウンドに合わせて「揺らぐ」アンビエントライト

 アンビエントテーマにも触れておきたい。

 センターディスプレイで5種類のイルミネーションが選べるところは他車でもおなじみだが、それに合わせたヒーリングミュージックも用意され、サウンドに合わせて光が揺らいでいく。ボルボらしい演出だと思った。

 インテリアカラーは、ブリーズとミストの2タイプの設定があり、いずれもシート素材やデコラティブパネルにはリサイクル素材を使用している。

 試乗車が採用していたブリーズでは、シートのファブリックはピクセル風で、パネルは同系色のフレークをまぶしており、無味乾燥にしないという配慮に感心した。

 スペースはボディサイズ相応で、後席にも身長170cmの筆者が楽に座れる。床下には駆動用バッテリーが敷き詰められているが、フロアの高さは感じない。シートの座り心地はボルボらしい、体を優しく受け止めてくれるタイプだ。

 背後の荷室はフロアが上下2段に設定可能で、フロントにも荷室がある。リッドの裏に北欧風のイラストが描かれるなど、細部までデザインに手を抜いていない。

 日本でまず発売されたのは、「EX30 ウルトラ・シングルモーター・エクステンデッドレンジ」というグレード。バッテリーの容量は69kWhで、満充電での航続距離はWLTCモードで560kmと、十分な性能だ。

 メインスイッチはなく、ペンダントのような四角いキーにもロックボタンはない。キーを持って近づくとロックが解除され、キャビンに入ると自動的にスタンバイになる。あとはシートベルトをして、テスラのようにステアリング右のレバーでDレンジを選ぶだけだ。

 最高出力は272psもあるので、1790kgのボディを身軽に加速させる。それでいてレスポンスは穏やか。回生ブレーキは停止まで持っていくワンペダルモードも選べるが、こちらも予想以上にゆったり減速していった。

 ボディがボルボとしては小柄であるうえに、目線が高めでノーズは短いので、取り回しはとても楽だ。乗り心地は、低速ではオプションの20インチタイヤのショックが伝わるものの、それ以外は穏やかだった。この面を重視する人は標準の19インチがいいだろう。

 EX30はモーターをリアに置いた後輪駆動で、たしかに身のこなしは前輪駆動とは違う。とはいえ筆者が所有するルノー「トゥインゴ」ほど明確ではなく、穏やかなハンドリングであるところも、ブランドイメージにふさわしいと思った。

■559万円の価格も魅力のひとつ

 価格は559万円と、ひとまわり大きなXC40 Rechargeより120万円安く、マイルドハイブリッドのXC40より30万円高いだけ。

 ボディサイズが近いレクサスのハイブリッド車、「LBX」の上級グレード「ビスポークビルド」と同等だ。

 スカンジナビアンデザインに共感している人はもちろん、そうでないユーザーも、この価格でこのデザインが手に入るということで、好意的に受け止めるのではないだろうか。

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最終更新:4/19(金) 9:21

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