お上の言うことには逆らえない、融資姿勢を左右する金融庁の監督指針とは《楽待新聞》

4/4 11:00 配信

不動産投資の楽待

収益物件への融資になかなか応じない金融機関に対し、不満を持った経験がある方もいるでしょう。

そんな金融機関を攻略する常道は、「物件の選定理由や入居見込みなどの事業計画の中核部分を簡潔明瞭に伝える」ことや、「尋ねられた内容に数値的裏付けをもって返答する」ことです。

一方で、金融機関側の事情を理解しておくことも有効です。申し込まれた収益物件融資を謝絶する理由は、「計画どおりの返済が見込めない」だけではありません。

たとえ融資を受ける側の計画に説得力があっても、金融機関の体力に対して融資金額(つまりはリスク)が大きいと見込んだ場合や、収益物件への融資以上に優先すべき業務がある場合にも謝絶することがあるのです。

監督当局による指針などの変更も、しばしば金融機関の経営層の悩みの種となります。そこで今回は、監督指針の変更が金融機関に与える影響について解説します。

■直近の課題は「アフターコロナ対応」

金融機関は監督当局(=金融庁とその委任を受けた各地方財務局)から日常的に厳しい指導・監督を受けています。無予告・当日の立入検査も実施されており、一部業務停止などの行政処分が下されることもあります。

監督当局からは、単なる法令の遵守のみならず、時宜に応じた指示も様々な形で令達され続けています。例えば、年初の能登半島地震で被災した事業者への資金繰り支援も要請されています。

そうした個別対応のほか、検査・監督などの行政方針を令達することもあります。監督指針もその1つで、「このような方針に則って金融機関への監督を行うので指摘を受けないように準備せよ」という意図に沿って公表されています。

昨年11月下旬にも、監督指針のある改正案が公表されました。

その目的は、局面が「アフターコロナ」に移行した中で、金融機関からの事業者への支援を「実情に応じた段階」に移行させることにあります。

端的に言うと、「ゼロゼロ融資などで『とにかく救う』局面」から「経営改善や事業再生など『自立を促す』局面」に移行するので支援を見直せ、という指示に他なりません。

監督指針の量は膨大ですが、金融機関関係者からすれば、その随所に読み過ごせないキーワードが散りばめられています。

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○監督指針改正案の抜粋

(1)日常的・継続的な関係強化を通じた経営の目標や課題の把握・分析とライフステージ等の見極め・予兆管理

顧客企業との日常的・継続的な接触により経営の悩み等を率直に相談できる信頼関係を構築し(中略)

また、顧客企業が取り得るソリューションが多いうちから、地域金融機関が顧客企業の経営者の目線に立って丁寧に対話し、その経営判断をサポートすることが重要である。そのため、地域金融機関は、収益力の低下、過剰債務等による財務内容の悪化、資金繰りの悪化等が生じたため、経営に支障が生じ、又は生じるおそれがある状況へ移行する兆候があるかどうか継続的に把握することにも努める。なお、顧客企業における平時から有事への移行は、自然災害や取引先の倒産等によって突発的に生じるだけでなく、事業環境や社会環境の変化に伴い段階的に生じることが十分に想定される。そのため、地域金融機関は、必要に応じて、自ら有事への段階的移行過程にあることを認識していない者を含めた顧客企業に対し、有事への段階的な移行過程にあることの認識を深めるよう働きかけていく。
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きれいごとを抜きに言えば、全ての融資取引先に漏れなく実施するとなるとかなりの負担です。

■人手が奪われ融資業務が手薄に?

前述のうち、「経営に支障が生じ、又は生じるおそれがある状況へ移行する兆候があるかどうか継続的に把握する」を忠実に実現するには、従来「業況が徐々に回復してきたためそれほど訪問しなくても良い」と分類されていたような事業者への訪問頻度も高めなければなりません。

金融機関の取引先事業者の数は外部から察する以上に多く、それら全ての事業者を毎月くまなく訪問する人員(行員・職員)数はもともと配置されていません。よって、事業先への現地訪問頻度が年1回しかないような融資取引事業者も珍しくありません。

『今度民事再生法を適用します(≒倒産します)』と予告してくれる事業者はいませんので、ある日突然弁護士からの受任通知が金融機関の元に送られてくることが珍しくありません。

従って、倒産などの予兆把握には、現地を訪問して、事業者の業況を注視し続けざるを得ないのです。行った際には売上や利益のみならず、受注見込みや従業員の定着度合などの経営課題を数値で把握することが求められます。

そうした裏付けを受け取って店舗に持ち帰った後に分析し、それらを元に販路拡大や業務手順見直しによる費用圧縮などの本業支援策の拡充・見直しを計画し、事業者側に働き掛けるわけです。

当局からは「監督指針の改正に合わせておたくではどのようにルールを変えて徹底させたのか?」が漏れなく問われますので、上記の対応を図るべく、既往取引先への訪問対応比率が上昇します。

行員・職員の数は限られますので、結果として、収益物件を含む融資の新規申込みに対応する人手が奪われるわけです。

■ゼロゼロ融資の返済に窮する企業たち

次に、「必要に応じて、自ら有事への段階的移行過程にあることを認識していない者を含めた顧客企業に対し、有事への段階的な移行過程にあることの認識を深めるよう働きかけていく」の箇所です。

あくまで筆者の肌感覚になりますが、ゼロゼロ融資の利用事業者数のうち、今なお返済に窮している割合が1割を下回る地銀・信金・信組は例外的と見込みます。

2022年8月に帝国データバンクが公表した調査結果では、「新型コロナ関連融資を利用している」割合の高い業種が、上から順に(1)家具類小売(77.8%)、(2)旅館・ホテル(75.9%)、(3)飲食店(74.2%)、(4)繊維・繊維製品・服飾品小売(73.7%)、(5)娯楽サービス(64.2%)となっています。

大まかに言えば、いずれも新型コロナ感染拡大以前から銀行借入などの負債比率の高い業種です。

最上位の「家具類小売」の環境を鑑みれば、ウォークインクローゼットの普及など家具需要は頭打ちとなり、ニトリなど限られた大手家具店のシェアも高くなっています。

そうした環境ゆえ、事業譲渡や廃業などを視野に入れざるを得ない事業者も現れてきますが、それを伝えるための数字的な裏付けや手続き・費用などを文書化する必要があります。当然ながら、通常の支援以上に気を遣い、社長と膝詰めで協議する必要もあります。

「取り得るソリューションが多いうち=できるだけ早期に」という文言を深読みすれば、金融機関側にとにかく早期に取り組まなければならない、と焦燥感を煽っていると言えます。

それゆえに金融機関側は、できるだけ早く、事業先支援の積極化・定着化を図りたいと考えるようになります。

具体的には、事業者支援取組方針と具体的な支援メニューを決定し、実行していくことになります。特に方針とメニューが決まるまでは、支店の店舗長や担当者などを交えた基礎調査を行うことが多く、その分だけ店舗にも負担が掛かります。

■タイミング次第で融資のチャンスも

そんな中でも、支店や担当者に対する獲得目標を緩めない金融機関が珍しくありません。新聞などで決算が報道されるため、特に年度末の預金や融資の数字(業界用語で「着地」と呼ぶ)をどこまで高めるかを非常に強く意識しています。

従って、定型・パッケージ型のローンのうち百万円単位のような融資商品を利用されるのであれば、タイミングによっては審査が通りやすくなるかも知れません。

例えば、「○○ぎん保証」などの名称が付けられた金融機関の保証子会社やリース、クレジット、消費者金融会社などの外部保証機関の保証と一体型のリフォームローンなどです。

個人向けに限る商品だけでなく、個人事業主も利用できる商品や法人も利用できる商品がありますので、対象者を確認の上で利用を相談されることが一案となります。

佐々木城夛/楽待新聞編集部

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最終更新:4/4(木) 11:00

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