34年ぶり最高値「日経平均」が次に目指すところ、「思い出プット」を超えることこそ重要だ

3/3 8:02 配信

東洋経済オンライン

日経平均株価が、史上最高値をついに超えた。しかし、これは、日本経済がマイナス成長に陥っていることと矛盾する。最高値再現は、「そこまでは安全」と人びとが信じたからだろう。われわれが本当に見るべきものは、経済の実態だ。昨今の経済現象を鮮やかに斬り、矛盾を指摘し、人々が信じて疑わない「通説」を粉砕する──。野口悠紀雄氏による連載第115回。

■経済はマイナス成長なのに、なぜ株価が上がる? 

 株価が高騰を続けている。2月22日に、1989年12月29日につけた史上最高値、3万8915円87銭を超えると、3営業日連続で最高値を更新した。

 しかし一方で、経済はマイナス成長を続けている。そして、実質賃金は低下している。実体経済と株価の動きは、どう考えても矛盾している。

 今年に入ってからの日本の株価の上昇率は、アメリカのそれより高い。日本がマイナス成長で、アメリカがプラスの成長を続けていることを考慮すれば、これは何とも説明がつかないことだ。

 日本の株価が上がる理由として、いくつかの説明がなされる。まず、これまで中国に向かっていた投資が、中国経済の不調で日本に流れ込んでいると言われる。あるいは、いまは極端な円安なので、外国から日本に投資をする場合、将来円高になったときに、為替差益が得られる可能性が高い、とも言われる。しかし、いずれも説得的でない。

 また、円安で企業の利益が好調だと言われるが、それは一部の大企業に限られた現象だ。大企業を見ても、過去に比べて飛躍的に利益が増加しているわけではない。

 では、なぜ株価が上がるのか? 

 現在の株価高騰について、次のような説明はどうだろうか? 

 それは、「過去に経験したことがある株価水準は、いつかは再び実現できる」と、多くの投資家が信じているということだ。

 これまでは、現実の株価との乖離があまりに大きすぎたから、最高値再現と言われても現実的なものとは考えられなかった。しかし、それに近づいてきたので、最高値再現が現実的なものと捉えられるようになってきたのではないだろうか? 

 もちろん、過去に実現したことがあるからと言って、必ずそれを再現できるわけではない。だから、これは根拠のない期待だ。しかし、株価の場合(あるいは、資産取引一般について)、多くの人々が信じれば、それは実現するのである。

■ケインズの美人投票論と同じ

 ケインズが言っているとおりだ。美人投票で、投票者は自分が美人だと思う人に投票するのではない。他の多くの人が美人だと思う人に投票するのである。

 いまの場合、過去に実現した株価は、いつかは再現するのであれば、現実の株価がそれ以下である限り、いつかは、売却益を得て処分できる。だから、「いくら買っても安全」ということになる。

 人々がこのことを信じれば、買いが増え、株価が上がる。つまり、根拠のない期待が現実のものとなる。要は、人々が信じるかどうかなのだ。

 上で述べたことを、「いまの日本の株には、3万8915円87銭で売れるというプット・オプションが付いているようなものだ」と表現することができる。

 経済実態との関連がないという意味で、「バブル・プット」と呼べる。あるいは、「過去にここまで行ったのだから、いつかは再びそうなるだろう」という意味で、「思い出プット」とも言える。

 ここで、本来の意味でのプット・オプションについて説明をしておこう。

 これは、ある決められた価格で売れる権利のことだ。

 先物売りと似ているが、先物売りは必ず実行しなくてはならないのに対して、プットオプションは、「オプション」という言葉が示すとおり、権利であって、それを実行しなくてもよい。そのかわり、オプションは、タダでは入手できず、一定の対価を払わなければ取得できない。

 さまざまな金融商品について、オプションの市場が形成され、取引が行われている。

 ところで、本項の最初に「日本の株にプットオプションが付いている」と言ったが、それは、上記のような本物のオプションではない。

 第1に、その権利は誰にも与えられているのであって、それを獲得するために対価を支払う必要はない。

 第2に、いつでも売れるわけでなく、「そのうち売れる」ということにすぎない。

■リーマンショックの引き金「グリーンスパン・プット」

 これまで、「グリーンスパン・プット」とか、「バーナンキ・プット」ということが言われてきた。これは、「アメリカのFRB(連邦準備制度理事会)が、景気が悪化すると、株価の下支えとなるように金融緩和政策を行う」という意味だ。グリーンスパン・プットは、リーマンショックの原因となった。

 本物のプットは下値を支えるのだが、「思い出プット」は、イリュージョンによって、さもなければ下がる株価を吊り上げる。PERなどの指標はお構いなしだ。

 もしそうだとすると、3万8915円87銭以上に大きく株価が上昇することにはならない。しかし、ある程度下がっても、底なしに下がるわけでない。「思い出プット」が株価を吊り上げてくれるからだ。こうして、生かさず、殺さず。半殺し状態が実現される。

 日本経済の実態が半殺し状態だから、それと整合的だとも言える。

 これは、ジョークでなく、真面目な話だ。

 これまでの日本では、日銀によるETF(上場投資信託)の購入が株価のプットとして働いていた。日経平均が下がると、日銀がETFを購入して、株価を支えるということだ。これは、「日銀プット」と呼ばれていた。

 日銀プットは、経済の実態に反して株価をここまで引き上げるのに、重要な役割を果たした。OECDの2019年4月の「対日経済審査報告書」は、これを「市場の規律を損ないつつある」と批判した。

 しかし、日銀は、2023年には株式の売り手に転じたと見られる(2024年1月9日付日本経済新聞)。今後は、大規模緩和の修正に合わせてやめるのが自然、と内田副総裁が述べている(2月9日付日本経済新聞)。

■「思い出プット」を超えるには

 上で述べた「思い出プット」は、日経平均株価を、3万8915円87銭まで引き上げる効果を持つ。しかし、それ以上に引き上げる効果を持たない。

 それ以上に引き上げるためには、経済の実態が伴わなければならない。そのためには、技術開発や新しいビジネスモデルの導入が必要だ。日本経済が本当に発展できるかどうかは、そのような展開ができるかどうかにかかっている。

 結局のところ、日経平均株価が3万8915円87銭になったということは、ほとんど何の意味を持たないニュースであったということになる。われわれが見ていなければならないのは、日本経済の実態だ。

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最終更新:3/3(日) 8:02

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