政策金利は当面据え置きか? 11月FOMC議事録要旨から何が読み解けるか

11/23 11:40 配信

THE PAGE

 米FRB(連邦準備制度理事会)がFOMC(連邦公開市場委員会)の議事録要旨を公開しました。そこから今後の金融政策の行方をどう読み解けるのか。第一生命経済研究所・藤代宏一主席エコノミストに寄稿してもらいました。

「どれだけ引き上げる」から「どれだけ長く保つのか」へ

 2会合連続で政策金利の据え置きが決定された11月FOMC(10月31日~11月1日)の議事要旨が発表されました。議事要旨の核は「(今後の利上げについて)慎重なアプローチを取ることが可能であり、インフレ低下の進展が不十分であることを示す情報が入ってきた場合にのみ、金利を引き上げる必要がある」というもの。これは端的に表現すると「インフレ率がよほど想定を上振れない限り、利上げの選択肢はない」と言ったところです。パウエル議長を含む19人のFOMC参加者の焦点は、金利を「どれだけ引き上げる」から「どれだけ長く保つのか」に移行しています。政策金利は現在の5.25~5.50%で当面の間、据え置きとなるでしょう。

経済指標が低下基調に 11月FOMC時点とは環境が変化

 11月FOMC時点で得られていた経済指標は、インフレ率が鈍化していた一方でその他の経済指標は総じて強く、それがインフレ再燃の火種になるとの懸念をFed(連邦準備制度)に抱かせていました。実際、FOMCの1週間後に発表された7~9月期の実質GDP(国内総生産)は年率+5%近い高成長を記録しました。それら強いデータに囲まれていた10月下旬に10年金利は5%近傍まで上昇していました。そうした中で複数のFRB高官が「長期金利上昇がFRBの利上げを肩代わりする(した)」と発言するなど、それまでのタカ派姿勢(インフレ退治のための金融引き締めに積極的な姿勢)を修正する動きも垣間見られていました。

 しかしながら、それから3週間が経過した現在、10年金利は4.5%を割れています。金利低下の背景には11月に入った後に発表された経済指標が総じて弱かったことがあります。製造業の代表的指標であるISM製造業景況指数や雇用統計などは景気の減速を示唆しました。また消費者物価指数は10月も順調に低下基調を維持しています。それらデータを受けて金融市場では利上げが完全に終了したとの見方が支配的となり、同時に2024年後半の利下げ予想が台頭しています。このように11月FOMC時点と現在の環境は大きく変化しています。

長期金利が上昇「リスクは二面性を有してきた」

 その上で議事要旨を改めて整理すると、まずFRBスタッフが示した景気認識は高成長となった7~9月期から10~12月期にかけて景気は減速するというものでした。またFOMC参加者の認識は、家計部門について(複数の参加者が)低所得世帯が金融引き締めによる与信環境の悪化と食料及び生活必需品の上昇に直面するとしつつも、(別の複数の参加者が)これまでの度重なる消費データの強さは、消費の上振れリスクを示唆しているとの指摘がありました。個人消費の強さがFOMC参加者の想定外であったことがうかがえます。

 他方、これまでインフレ退治を完遂するために引き締め寄りに傾けてきたFOMC参加者の総意はここへ来て変化がみられ、参加者全員が「リスクは二面性を有してきた(risks to the achievement of the Committee’s goals had become more two sided.)」と言及したとの記載がありました。その背景に9月FOMCから10月下旬にかけての長期金利上昇があったことは明白であり、この動きに対する見解に多くの紙面が割かれていました。長期金利上昇の背景としては様々な見解が紹介されていましたが、「いずれにせよ長期金利の持続的な変化が金融政策のパスに影響を与え得る」という結論めいた記載がありました。

12月FOMCに向けFRBの情報戦略はややタカ派に?

 このようにFRBが(市場参加者の見通しが反映される)長期金利を重視する姿勢を見せたことに鑑みると、今後市場参加者が先鋭的にFedの利下げを織り込んで長期金利が低下していくのであれば、12月FOMCに向けてFRBの情報戦略はややタカ派に傾斜していく可能性があると思われます。もちろん、学生ローンの返済再開などによって経済指標が市場参加者の想定以上に悪化するのであれば話は別ですが、現在と大きな変化がない限りにおいてFRBは一段の金利低下に対して不快感を示すのではないでしょうか。

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※本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

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最終更新:11/23(木) 11:40

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