年収500万会社員が「不正融資」で1億円アパートを購入したら…《楽待新聞》
2018年の「かぼちゃの馬車事件」で発覚したスルガ銀行の不正融資問題。不正融資によって物件を購入した投資家は、その後どのような人生を送っているのだろうか―。
2016年に不動産投資を始めた野村大翔さん(仮名)は、同行から不正に融資を受けて1棟目を購入した投資家の1人だ。
野村さんは当時、不動産会社に言われるがまま、融資を受けるために年収や預金額を実際より多いように装い、約1億円の中古アパートを購入した。
大事件発覚に伴う不動産会社の倒産による運営収支の悪化や返済に苦しみながらも、その後8年半に渡って大家業を続けた野村さん。
相場を上回る価格で「高値づかみ」していたため、売却活動は難航したが、かろうじて残債を上回る価格で売却にこぎつけ、今年4月、ようやく大家業に終止符を打った。
野村さんはなぜ、不動産投資の一歩目を踏み外してしまったのか。もがき続けた8年半の苦闘を振り返る。
■ノールックで1億円物件を購入
2016年末、野村さんが1棟目として購入した物件の概要は以下の通りだ。
購入価格:約1億円
表面利回り:6%台後半
エリア:東京23区
建築年:1986年
戸数:8戸
構造:鉄骨造
初めての物件で1億円という高額な契約にもかかわらず、野村さんは現地に行って実物を見ることなく購入を決めたという。
「今から振り返ると、考えが甘かったです。大規模改修を行ったばかりで、外観写真もきれいだったので見に行かなくてもいいだろうと考えてしまいました。自宅からも遠かったので、実際に見に行ったのは購入から半年以上経ってからでした」
サブリース物件で毎月決まった家賃収入が保証されていたため、野村さんは物件の良し悪しや入居状況にもそれほど関心を持っていなかった。
「当時はサブリース物件のデメリットもよくわかっておらず、空室に関してもまったく気にしていませんでした。所有しているだけで毎月チャリンチャリンとお金が入ってくると信じ込み、特に不安もなく1億円の売買契約をしてしまいました」
■「かぼちゃの馬車事件」余波で管理会社が倒産
スルガ銀行から融資を受けてアパートを購入し、不動産会社に管理も任せる形で賃貸経営を始めた野村さん。当初は家賃収入から返済を引くと、月11万円ほどの手残りがあった。
しかし、物件購入から1年余りが経った2018年に入り、「かぼちゃの馬車事件」がメディアで報じられ、世間の注目を集めるようになった。
野村さんの物件はいわゆる「かぼちゃの馬車物件」ではなく、ニュースになった不動産会社とは別の会社から購入していたため、この時はまだ自分が巻き込まれることになるとは予想もしていなかったそうだ。
ところが、この不動産会社は2018年に倒産。サブリースは解除され、家賃収入は月15万円減って、毎月4万円のマイナスに陥ってしまった。さすがの野村さんもこの時は「このままでは持ち出しが増えて、いずれ返済ができなくなる」と危機感を抱いた。
■8年半のトータル収支は…
野村さんは、返済計画の変更や運営コストの見直しによってなんとか収支を改善。売却活動は難航したものの、なんとか納得のいく価格で売却までこぎ着けた。
野村さんがこの物件を購入した際の価格は、約1億1000万円。売却価格は約9000万円だったので、売却額から購入額を差し引くと単純計算では「2000万円近いマイナス」だ。
しかし、野村さんは「トータルでみると損をしたとは思っていない」と話す。
購入額より低い価格での売却は覚悟していたものの、「売却しても借金が残る状態は避けたかった」という野村さん。売却時のローン残債は8900万円弱で、仲介手数料を含めて売却額でギリギリ精算できた形となった。
保有期間中の家賃収入から諸経費を引いた利益は、直近の数年間は年間50万円ほどあった。
これらは専用口座に積み立ててきており、途中で運用するために引き出した分もあるが、現在の残高は200万円弱。
「このお金は純粋に手元に残るので、8年半のトータルで250万~300万円くらいのプラスだったと考えています。不動産投資を始めるきっかけとなったFX投資詐欺の被害額が約300万円だったので、それを取り返すことができただけでもよかったです」
野村さんは、自身に言い聞かせるように話した。
◇
野村さんが8年半かけてたどりついた「不動産投資」の現実は厳しいものだった。
収入に見合わない無理なローンを組んで物件を購入してしまった結果、当初思い描いていた「不労所得」の夢は儚く崩れ去った。
野村さんは売却までの8年半、どのように物件に向き合ってきたのか―。そして、不動産投資を「卒業」した今、何を思うのだろうか。
楽待新聞編集部
不動産投資の楽待
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最終更新:6/21(土) 19:00