【独自】イニエスタ引退試合の主催会社が資金繰りに奔走する裏事情
今週の日曜日、「味の素スタジアム」(東京都調布市)で世界的サッカー選手、アンドレス・イニエスタ氏(40)の引退試合として「EL CLASICO in TOKYO」が行われる。スペインプロサッカーリーグ1部の伝統の一戦、「FCバルセロナ」vs「レアル・マドリード」が日本で初めて、両チームの伝説の選手たちを集めて開催されるのだ。しかし、このイベントを主催する企業の資金繰りが変調をきたしている。(東京経済東京本部長 井出豪彦)
● 約5億円の売掛金の 債権買い取りを打診
FCバルセロナはイニエスタ氏に加えて、シャビ・エルナンデス氏(44)、リバウド氏(52)、ハビエル・マスチェラーノ氏(40)、ボージャン・クルキッチ氏(34)が出場予定。対するレアル・マドリードはルイス・フィーゴ氏(52)、ロベルト・カルロス氏(51)、イケル・カシージャス氏(43)が出場することになっている。これほどのメンバーが日本で一堂に会する機会はおそらく二度とないだろう。
イニエスタ氏は今年10月に引退を表明した。「EL CLASICO in TOKYO」はヴィッセル神戸に5年余り在籍し、いわば“第二の故郷”である日本の人々に感謝の気持ちをもう一度表現したいという思いから実現した企画だという。4万5000枚余りのチケットは即日完売したとされる。
「EL CLASICO in TOKYO」を主催するのは(株)SPORTS&LIFEというスポーツビジネスの会社だ。2019年7月の設立で、今年7月23日付で本店を神戸市中央区から東京都渋谷区に移転した。商業登記によれば、イニエスタ氏は2021年5月、SPORTS&LIFE社の取締役に就任している。本店を東京に移す直前の今年7月18日付で辞任したが、もともとイニエスタ選手のマネジメントを行うために設立された会社とされ、現在でも親密な関係にあるのだろう。
実はそのSPORTS&LIFE社の資金繰りが変調をきたしている。11月下旬、ファクタリング(債権買い取り)会社に対し、「EL CLASICO in TOKYO」のチケット代金の売掛金について買い取りを打診してきた。
ファクタリング会社によれば、SPORTS&LIFE社が買い取りを求めてきた売掛金とは、チケット販売大手「ローソンエンタテインメント」(ローチケ)向けの5億3000万円(税込み)。われわれが購入したイベントのチケットの代金はチケット販売会社が受け取り、チケット販売会社の取り分を引いた額がイベント主催企業に支払われるという流れだ。つまりSPORTS&LIFE社の請求相手はローチケを運営するローソンエンタテインメントになる。
ファクタリング会社というのは通常、資金繰りの忙しい中小・零細企業から数百万円規模の売掛金を買い取るケースがほとんど。もちろんファクタリング会社の手数料は銀行の金利よりずっと高い。5億円の債権というのは異例の大口の部類といえる。
● イベント主催会社の 厳しい財務状況
SPORTS&LIFE社が申し込みに際してファクタリング会社に送ってきた請求書のコピーによれば、請求項目は「EL CLASICO in TOKYO先行販売(45259枚)」とあり、請求書発行日は11月25日、支払期限は2025年1月31日と記載されている。つまり、このままでは1月末までSPORTS&LIFE社に入金がない。
ファクタリング会社には請求書のコピーとセットで、SPORTS&LIFE社の商業登記や決算書、外国籍の代表X氏の印鑑証明書、在留カード、パスポートの写し、ローソンエンタテインメントに提出した「取引口座開設申込書」なども添付されてきた。「取引口座開設申込書」は今回の請求が架空ではなく、本当にローソンエンタテインメントと取引があることを証明するために添付したとみられる。
しかし、これほど大規模なイベントを企画する会社が銀行から運転資金の融資を受けられないものだろうか。
SPORTS&LIFE社の2024年6月期の決算書によれば、売上高は12億円余りで、営業利益は約6000万円も出している。税引き後の純利益は約3000万円。ただし、バランスシートを見ると、純資産は1900万円しかない。前の期まで債務超過だったのをようやく解消したところで、自己資本比率は6%と財務体質は軟弱だ。しかも資産計上されている「短期貸付金」1億8900万円と「長期貸付金」4700万円の合計2億3600万円について、資産性が気になるところ。銀行がおいそれと貸せる決算内容ではなさそうだ。
6月末時点で借入金は短期のみで2億円計上されており、一方の現預金は5600万円と平均月商の半分程度だから、利益は出ていても資金繰りは楽ではないだろう。特に大きなプロジェクトに関わると先行する支出も大きくなる。
SPORTS&LIFE社の関係者は今回、ローソンエンタテインメントに請求書を発行した直後にファクタリングを申し込んでおり、その際、資金使途について「選手たちの航空チケット代やホテル代などですぐにでも3億円は必要」と話していたという。
● 銀行の審査部門界隈は 「イニエスタ関連銘柄」を警戒
実は、SPORTS&LIFE社が銀行から借りにくい理由はもうひとつある。昨年粉飾決算で倒産した会社と浅からぬ関係にあるのだ。
その会社とは物流ソリューションなどを手掛けていた(株)ビーリンク(神戸市中央区)。2023年2月3日に神戸地裁より破産手続き開始決定を受けた(負債は約50億円)。
ビーリンクは2019年に副業としてイニエスタ氏がプロデュースするスニーカーブランド「MIKAKUS」の取り扱いを開始し、「旧本店ビル」(2022年8月まで本店を置いていた)の1階に日本初出店となる店舗を開設していた。代表のH氏はSPORTS&LIFE社の設立時の代表で、ビーリンクの旧本店ビルの所在地とはSPORTS&LIFE社が東京に移転するまで本店を置いていた住所と同じである。
H氏はビーリンクについて多額の簿外債務があり、長年決算を粉飾していたと銀行団に打ち明けた後、SPORTS&LIFE社の代表は辞任した。その後、ビーリンクは中小企業活性化協議会の支援を受けてスニーカー事業から撤退するなど、私的整理による事業再生を目指したものの、金融機関の協力が得られず、破産手続きとなった経緯がある。
これ以降、ビーリンクやイニエスタ氏の関連銘柄は銀行の審査部門界隈では要警戒という認識がされている。SPORTS&LIFE社は日曜に迫った「EL CLASICO in TOKYO」をつつがなく開催できるだろうか。
ダイヤモンド・オンラインではSPORTS&LIFE社に資金繰りの状況などについて質問したが、期日までに回答はなかった。
ダイヤモンド・オンライン
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最終更新:12/14(土) 5:01