ガラガラなイオンモール高松、ショッピングモール戦争の軍配は商店街に?《楽待新聞》

7/11 11:00 配信

不動産投資の楽待

こんにちは、全国のチェーンストアを研究している、ライターの谷頭和希です。今回も、ショッピングモールを巡りながら見えてくる日本の都市の「いま」をお届けします。

消費行動の多くが駅前からロードサイド沿いに移り、郊外のショッピングモールが盛況な時代。この連載でも、その様子をレポートしてきました。

しかし、すべてのショッピングモールが賑わっているわけではありません。栄えるモールがあれば、そうでないモールもある。特に不動産物件を購入したとき、その周辺にあるモールがどの程度繁盛しているのか、施設として魅力があるのかは、非常に重要なポイントでしょう。

今回は、そんなショッピングモール間の成否について見ていきましょう。

■イオンモール高松、ちょっと寂しい?

今回お邪魔するのは香川県高松市。香川県の県庁所在地であり、四国の都市の中でも、最も栄えている街の1つです。ショッピングモール、およびそれに類する商業施設が数多くあります。

そんな高松の名前を冠した「イオンモール高松」。さぞかし多くの人で賑わっているのかと思いきや、そうではないのです。

実際にその様子をレポートする前に、いつも通りイオンモール高松の基本情報を確認していきましょう。

----------------------------
・イオンモール高松
所在地:香川県高松市香西本町1―1
敷地面積:約11万1000平米
店舗数:90店舗
駐車台数:約3000台
開店日:2007年
----------------------------

他のイオンモールに負けず劣らず、敷地面積はとても広くなっています。

しかし、店舗の中に入ってみると、ほとんど人がいない。私が行ったのは、日曜日の19時ぐらいでした。本来ならば、家族連れなどがいてもおかしくはない時間帯。

特に2階・3階の専門店街は静けさが支配していて、人の姿はまばらでした。これまで見てきたどんなモールよりも、ガラガラです。

■空室率17%超、空きテナントが目立つ

それは、テナント数にも表れています。イオンモール高松、中を歩いていると、やけに空きテナントが目立つのです。もちろん、他のモールにも空きテナントはありますが、それに出くわす回数がとても多い。

公式ホームページによれば、現在のテナント数は90店舗。しかし、公式テナント募集サイトでは、もともとこのモールは109店舗のテナント数があるということになっています。

109店舗のうち19店舗、計算すると約17%のテナントが埋まっていないことになります。

ちなみに、同じく香川県の綾川町という場所にある「イオンモール綾川」は、テナント数146店舗のうち、143店舗が埋まっており、空室率は2%程度。その差が際立ちます。

また、厳密には比較できないので参考程度ですが、日経ESG(環境・社会・ガバナンスに焦点を絞った経営誌)の推定によると、2021年段階での全国のショッピングセンターの空室率は8%程度でした。イオンモール高松の空室率の高さがわかるでしょう。

こうした傾向は、なにも最近始まったのではないようです。

2022年には「閉店ラッシュがやばい」というブログも投稿されています。ブログ内の情報によれば、2022年1~8月までで、イオンモール高松の計12店舗が閉鎖したといいます。年度の変わり目を含んでいるとは言え、退去率の高さがわかりますね。

また、SNSなどで「イオンモール高松」と検索すると、「ガラガラ」とか「人がいない」なんて投稿もチラホラ。いったい、何が起こっているのでしょうか?

■ショッピングモール戦争に敗北?

イオンモール高松が「ガラガラ」である理由の1つとして考えられるのは、高松に多くの商業施設が集中していること。実は、高松市内には10のショッピングセンターがあり(2020年末時点)、かなりの供給量です。

この背景には、高松市が、松山市と並んで四国の中で有数の人口規模を持つこと、四国運輸局や四国財務局など、国の出先機関が集まり、多くの雇用を抱える街であることも影響していると思われます。

加えて、1988年に瀬戸大橋が開通して本州からの移動が便利になり、消費拡大を見込んだショッピングモール各社が出店を集中させたことも推察できます(実際、高松にあるショッピングモールは1990年代半ばから誕生しています)。

ちなみに報道によると、2005年の段階において、高松は店舗面積1500平米以上の大型小売店の数が、人口10万人あたり4.6店あったといいます。当時としては全国で5番目に多い数で、日本でも有数の大ショッピングモール地帯が高松なのです。

さらに、2005年以降もショッピングモールが開業していることを踏まえれば、こうした供給過多の状態は現在まで続いていると推察できるでしょう。

そもそも、イオンモール高松が開業する2007年の段階では、このような状況を鑑みて、売上目標の達成が難しいことも想定されていました。しかし、強行に出店が進められてしまったようで、結果、予想通り苦戦しているわけです。

さらに、イオンモール高松にとって厳しいのは、他のモールにテナントコンテンツの力で負けてしまっていること。

例えば、イオンモール高松の1年後にオープンした、イオンモール綾川。先ほども述べた通り、現在の空室率は2%程度で、非常に優良なモールです。ここには、大きな「イオンシネマ」があり、休日となると、そこに多くの人が集まってきます。

ちなみに香川にはシネマコンプレックスが3館しかありません。全てイオンシネマで、イオンモール綾川、イオン高松東、イオンタウン宇多津に入っています。

映画を見る時には、基本的にこれらのモールのどこかに行くことになる。イオンモール高松は、テナントコンテンツの魅力において、劣勢に立たされているわけです。

■大人気の「丸亀町グリーン」

加えて、イオンモール高松を脅かしている存在が、2012年に誕生した「丸亀町グリーン」かもしれません。

これは、高松中心市街にある「丸亀町商店街」という商店街の中にある施設で、商店街と一体化している複合商業施設です。

実はこの丸亀町商店街は、全国各地の商店街が機能不全になっている現代において、極めて例外的に大成功をおさめている商店街です。

商店街の中央部分にある丸亀町グリーンは1~4階までショップがあり、その上は13階までがマンションエリアとなっています。中心部分はちょっとしたショッピングモールのようになっています。

この丸亀町グリーンを核として、商店街は非常に活気があります。特に休日になると、アーケードの中は家族連れや若いカップルなどでいっぱい。全体的にデザインがオシャレで凝っていて、きれいなことも多くの人を呼ぶ要因でしょう。

もともと、この丸亀町商店街は、高松の中でもとても賑わいのある商店街でした。しかし、郊外のショッピングセンター建設などに伴い、徐々にではありますが、商店街の中の通行量も減少していました。

そんなとき行われた「丸亀町開町400年祭」で、商店街が今後も賑わっていくためには、「現代に合わせた商店街の形に変化していくことが必要ではないか?」という提案がなされます。

商店街の人々がさまざまなプランを出しながら、最終的に、商店街とショッピングモールが合わさった現在の施設に変貌を遂げたのです。

■商店街がショッピングモールに勝つ?

さて、こうなってくると、いよいよイオンモール高松の立場は危うくなってしまいます。

これまでの連載でも見てきた通り、ショッピングモールの良さは、ワンストップで生活に必要なものや遊びなど、さまざまな用途が叶えられること。丸亀町商店街は、まさにその要件を満たしています。

しかも、高松市の中心市街のど真ん中にあり、電車でも行きやすい。中核施設ともいえる丸亀町グリーンは、13階建ての建物であるということだけあって、駐車場も潤沢にあり、郊外から車でも来やすい。

一方、イオンモール高松は、高松駅から若干離れた場所にあり、行くとなると車のみ。高松市街で大抵の消費行動が完結するならば、そちらにお客さんが流れてしまうことは必至でしょう。

「商店街VSショッピングモール」というと、どうしても時代の流れ的にはモールに軍配が上がりそうですが、このように商店街が極めて発達するとモール側の客が流れていく、ということもあるのかもしれません。

ショッピングモールだから、ではなく、どれほど魅力的な商業施設を作っているかどうかで、その施設の成否は決まると言えるでしょう。

商店街に圧迫されるショッピングモール。なかなか聞かない言葉ですが、高松に限ってみると、そんなことが起こっているのです。



2023年末時点で、日本には3092店舗のショッピングセンターがあります(一般社団法人「日本ショッピングセンター協会」調べ)。

この数は、2016~2018年あたりに一度天井を迎え、そこから現在まで微減傾向にあります。日本全国でショッピングモールの供給過多、という問題が起こり始めているのかもしれません。

そんな中でも、ショッピングモールの密集率が高い高松は、それらが飽和し、弱肉強食の時代に入っていく様子をよく表しているのかもしれません。イオンモール高松が直面する問題は、日本全国のモールがこれから否応なく直面していく問題だと考えられます。

不動産オーナーとしては、その地域にあるモールの力量がどれほどなのかをしっかりと見極める必要があるのではないでしょうか。ただ、モールがあるからよい、では済まされない時代がやってくるのです。

谷頭和希/楽待新聞編集部

不動産投資の楽待

関連ニュース

最終更新:7/11(木) 11:00

不動産投資の楽待

最近見た銘柄

ヘッドラインニュース

マーケット指標

株式ランキング