リーダーとして、また上司として、部下から出される「予期せぬ兆候」があるというサインを感じたことがあるだろうか。
そんなとき、部下から適切な情報を引き出し、正しい判断をするには、どのような声かけが必要になるだろうか。デビッド・マルケ氏の著書『最後は言い方』より、そのヒントを紹介しよう。
チームでの活動中に、予期せぬことが目に入った人には、中断を呼びかける責任が生じる。だが、実際にその声をあげるのは難しい。
■中断の声をあげるのはなぜ難しいのか
中断の声をあげにくい理由はいくつかあるが、そのうちの一つに、作業に没頭してしまうと、他のことが目に入らなくなるということがある。
生産モードにどっぷり入り込み、時間を忘れて何かに夢中になったという経験は、誰にでもあるだろう。
そうした精神状態のことを、心理学者のミハイ・チクセントミハイは「フロー」と名づけた。仕事に完全に没頭している感覚を指すと思えばいい。そうなったらどんなに素晴らしいことか!
ただしそれは、その仕事がそのときにやるべき仕事であればの話である。没頭する対象が間違っていれば、そうと気づかせる合図が必要だ。
人は作業にのめり込むと、フォーカスの対象が絞り込まれて視野が狭くなる。この集中力がタスクの達成を助けてくれるのは事実だが、自己管理の機能が制限される。
時間の感覚を失うのもその一例で、食事を忘れることだってある。手をとめて別の選択肢を検討したほうが賢明なときであっても、頑なに続けようとする。
そんなとき、中断を呼びかける人が別にいると知っていれば、安心してより深く赤ワークに入り込むことが可能になる。
目の前の作業に完全に没頭でき、より効果の高い成果、創造性に富む成果、生産性の高い成果がもたらされるだろう。それに、仕事の充実度も高まる。
■現場からの中断の兆候の例とは
事前に取り決めた、明快な中断の言葉が使われていないとしても、実は中断を求められているという状況がある。
いくつか例をあげよう。
建設現場で基礎工事を担当する労働者が、「本当にコンクリートを打ち始めていいんですか?」と尋ねてきた。現場監督はどのように中断を呼びかければいいか?
ソフトウェア開発チームのプログラマーのひとりが、「この機能をつけるとテストの工程が相当複雑になります」と言ってきた。チームのリーダーはどのように中断を呼びかければいいか?
新技術を使った電気車両を製造するチームの若きエンジニアが、監督者の耳に届く大きさの声で、「この新しいバッテリーはどうなんだろう。実績値は期待したより低い」と言った。監督者はどのように中断を呼びかければいいか?
燃えさかるビルにホースを持って入った消防チームのひとりが、「この火災は何かおかしい。何が変かはわからないが」と叫んだ。チームリーダーはどのように中断を呼びかければいいか?
担当患者の様子を見てきた看護師が、看護師長に「あの患者さんの診断が正しいか気になるんです」と言った。看護師長はどのように中断を呼びかければいいか?
殺菌剤を製造する施設で、新たに1万ガロン(約3万8000リットル)ぶんの生産が開始されたとき、若手の製造ライン担当者が監督者に向かって「ここに並ぶバルブはいつもと違うものに見えるのですが」と言った。監督者はどのように中断を呼びかければいいか?
いずれのケースも、中断を呼びかけてみなの手をとめさせ、行動の赤ワークから脱するための言葉が必要とされている。その言葉が出れば、思考の青ワークに移行できる。
では、現場からの呼びかけに対応する答え方の例を紹介しよう。
◆「早すぎると感じているようだな。君の考えを聞かせてくれ」
◆「みんなを集めて決定事項をもう一度見直そう」
◆「サプライヤーを見直す必要があるかもしれないな。実績値を示す数字はどれだ?」
◆「ここで待機して様子を見よう。みんなはどう思う?」
◆「よくわからないって顔だね。何が気になったか教えてくれる?」
◆「何が引っかかるか教えてくれないか」
■中断のタイミングを事前に決めるのも有効
ここで、中断の必要性に気づいて呼びかける責任が、チームのメンバーからリーダーに移っていることに気づかれただろうか。
では、リーダーが中断の必要性に気づかなかったときはどうなるだろうか?
大丈夫。策はもうひとつある。
人は赤ワークに夢中になる傾向があるので、次の中断のタイミングを事前に決めておくことが予防策となる。
たとえば、「45分のタイマーをセットして休憩を忘れないようにする」という単純なことでもいいし、もっと正式に、プロジェクトを中断する日を2週間おきに設定してもいい。
戦略の再検討を年に一度行う、という具合に、頻度を抑えて中断の機会を組み込むのもひとつの手だ。
東洋経済オンライン
最終更新:3/29(金) 7:32
Copyright © 2024 Toyo Keizai, Inc., 記事の無断転用を禁じます。
© LY Corporation