中国のアナリスト、痛み伴うリストラ始まる-株式調査の有用性低下

4/18 11:58 配信

Bloomberg

(ブルームバーグ): 中国の証券アナリストが厳しい現実に直面している。経済や市場について調べ、意見を述べる数千人が働くこの業界は、何年も拡大してきたが、今は縮小の一途をたどっている。

上海に本社を置く国有の国泰君安証券では最近、数人のシニアアナリストが減給と業績評価基準の厳格化を受け入れず辞めた。

深圳のある証券会社は1-3月(第1四半期)中にアナリストの4割を解雇し、2023年分のボーナス(賞与)を50%余り削減した。コストカットのため、食事や出張の予算を減らしている証券会社もある。

長引く市況低迷で取引手数料が減少し、当局が調査アナリストの発表内容に厳しい制約を設ける中で、こうした人員削減が進んでいると関係者は言う。

証券会社が積極的に採用を進め、花形アナリストに1000万元(約2億1300万円)以上の報酬を提示していた数年前とは様変わりだ。

中国銀河証券の元チーフストラテジストで、現在は北京で資産運用会社、中閱資本(チャイナ・ビジョン・キャピタル)を経営する孫建波氏は、「取引手数料が引き下げられた今、リサーチサークルのバブルも崩壊するだろう」と述べる。

国泰君安はコメントの要請に応じなかった。この記事の内容は約20人の現役および元アナリストらへの取材に基づいている。

手数料の多寡

28歳のエイミーさんは今年2月、上海の中堅証券会社で新エネルギーセクターを担当するアナリストの仕事を失った。彼女が所属していたチームのアナリストは7人から2人に減らされたという。

エイミーさんは数週間後、もっと小さな別の証券会社で40%安い給料で同じような仕事に就いた。「他に方法はない。今重要なのは雇用の維持。まず仕事を確保し、次に何が来るかを見極めるのが私のやり方」と話す。

中国の証券会社は長い間、アナリストが示す予想の正確さよりも、ファンド運用会社や他の投資顧客から得られる取引手数料の多寡でリサーチアナリストを評価してきた。

この手数料収入のおかげで、証券会社はリサーチチームを積極的に拡大し、アナリストに競争力のある給与パッケージで手厚く報いるようになった。

中閱資本のデータによると、国内のセルサイド調査アナリスト数は過去10年間で70%近く増え、現在4800人余り。中国の大手投資銀行、中国国際金融(CICC)は300人以上の公認アナリストを抱え、中信証券は200人近いリサーチアナリストを雇用している。

ヘッドハンティングを手がける伯楽のディレクター、ブルック・チャン氏によれば、「新財富」のような人気リサーチコンテストで上位に入ったシニアアナリストは簡単に年収1000万元を得ることができたという。

経験10年のアナリストの基本給は約80万元、経験5年なら約50万元が一般的だと、金融プロフェッショナルの採用を専門とするチャン氏は説明。年間ボーナスは通常、基本給の約10-12カ月分に相当するが、良い年には24カ月分に達し、悪い年には3カ月分になることもある。

だが、中国が昨年終盤、公募投資ファンドが支払う取引手数料の引き下げなどを提案したことで、この流れが変わりつつある。加えて本土株の指標CSI300指数は23年、年間ベースで3年連続下落。投資家は本土株式市場への資金投入に消極的になり、その結果、株式調査の需要が低下している。

自己勘定取引や投資銀行業務といった他分野の成長も抑制され、証券会社はコスト削減を余儀なくされている。当局の株式市場救済策は、証券会社の自己勘定取引デスクによる空売りや売り越しを抑制した。

中国では昨年、新規株式公開(IPO)が急減速し、投資銀行の収益に打撃を与えた。政府が上場規則を厳格化し、IPO関連の不正行為に対する監視を強化しており、低迷は続くと予想される。

中国証券業協会のデータによると、中国証券会社の合計利益は22年に20%余り減少し、3年続いた増益を止めた。23年の利益はさらに3%減った。

質の低下

中国のアナリストは当局からの指導で調査リポートでのコメントや記述にもますます注意を払わなければならないようになっており、株式の投資判断で「売り」とすることはめったにない。

否定的な投資判断が出されると、不本意な注目を浴びることもある。ゴールドマン・サックス・グループのリサーチアナリストが昨年夏、中国の大手銀行銘柄を「売り」とすると、政府系の新聞はゴールドマンを批判。中国の銀行に対する弱気な見方がその理由だ。

CICCは23年終盤、私的な議論であれ公の場であれ、弱気な発言をしたり、経済や市場について否定的なコメントをしたりしないようアナリストに警告。業界はまた、リサーチコンテストで票を獲得するため、顧客を招いたパーティーを派手に行ったというスキャンダルにも悩まされている。

マネーマネージャーらは、こうしたことが中国における証券会社のリサーチの質を低下させていると主張している。

中閱資本の孫氏は「洞察力に乏しい、同質的で役に立たないリサーチが市場にあふれている」と指摘。孫氏によれば、手数料を得なければならないというプレッシャーから顧客に取引を働きかけるようになったアナリストもいる。そのためアナリストは「広報のような仕事」をしているという。

証券会社にとっての課題をさらに深刻にしているのが、金融セクターに対する監視の厳しさと、中国共産党の習近平総書記(国家主席)が所得格差是正を狙い推し進める「共同富裕」運動だ。

外国の金融機関も1年余り前から中国に特化した人員削減を行っており、アジアで働くウォール街金融機関のシニア投資バンカーの多くは、報酬がここ20年近くで最も低い水準に落ち込んでいる。

一部の証券会社が昨年、出張手当を縮小すると、証券各社はコスト削減を強化。少なくとも中堅証券会社2社が出張経費に上限を設けたと、事情を知る2人の関係者が明らかにした。

そのうち1社は、顧客接待の予算を人数にかかわらず1回の食事当たり200元、つまり4300円程度に制限した。

香港大学の陳志武教授(金融学)は中国のアナリストについて、肯定的な見解を示す傾向が強く、リサーチの信頼性や有用性が低下しており、アナリストの仕事が危機にひんしていると警鐘を鳴らす。現在の「人員削減は証券ビジネスの構造的変化を反映している。つまり、ずっと続く」とし、市況低迷に対応した一過性の動きではないと語る。

中閱資本の孫氏は「不要なリサーチ能力」を取り除くため、アナリストという人材を減らす必要があり、「今はまだ初期段階に過ぎず、これからのリストラはかなり長く痛みを伴うプロセスになる」と見込んでいる。

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原題:Million-Dollar Analyst Jobs at Risk in China Research Pullback (抜粋)

--取材協力:Vicky Wei.

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最終更新:4/18(木) 11:58

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