もし「春日部在住の4人家族」が年収1000万円だったら→意外と世知辛い試算結果にため息

4/18 15:02 配信

ダイヤモンド・オンライン

 国税庁によれば、日本人の平均年収は約458万円だという。それと比べ、実際のところ年収1000万円の世帯はどれくらい余裕のある暮らしができるのだろうか。そこで人気テレビアニメの「春日部在住・4人家族」がもし「年収1000万円」だったらどんな生活になるのか、試算してみた。※本稿は、加藤梨里『世帯年収1000万円 「勝ち組家庭」の残酷な真実』(新潮新書)の一部を抜粋・編集したものです。

● 大都市住民は所得が高いが 生活の基礎コストが高くつく

 年収1000万円が裕福なのか、そうでもないのかは、住んでいる地域や年齢、家族構成によっても変わってきます。そもそも「豊か/貧しい」というのは曖昧な表現で、生活水準が同じでも自分の生活を豊かだと感じる人もいれば、貧しいと感じる人もいますが、世論調査によると、生活への満足度が高いのは大都市に住む人で、町や村に住む人は不満を感じる割合が高いというデータがあります。

 その大きな理由のひとつと考えられるのが収入の地域差で、同調査では所得・収入に関する満足度も大都市ほど高く、小都市や町・村では不満が高い傾向も明らかになっています(内閣府「国民生活に関する世論調査」)。

 しかし、だからといって単純に「都会の人はお金持ち」と判断するのは間違いです。所得中間層の手取り収入(可処分所得)と生活費を都道府県別に比べた国土交通省のデータによると、東京などの大都市は確かに可処分所得が高いものの、食費や住居費、水道光熱費などの基礎的なコストも高いのに加えて通勤事情が悪く、これらを差し引いた実質的な豊かさは東京都が全国で最下位であるとの結果もあります。

 都会で暮らしていくには、収入が高くても支出も高いので、手元には思ったほどお金が残らない。それは郊外と東京で何度か引越しを経験している筆者の実感としてもそう思います。

 また、年代や家族構成によっても家計の様相はかなり違ってきます。同じ年収でも一人暮らしか、家族を養わなければならないかで、お金のかかり方はまったく違います。一人暮らしは自分の収入で住居費から水道光熱費、食費まですべてをやりくりしなければなりませんが、自分さえ生きていければ事足りるという面もあります。

 一方で家族と同居していれば住まいを共有できることで1人あたりの住居費や水道光熱費を多少抑えられる反面、食費や日用品費などは人数が多いほど膨らみます。

● 世帯年収1000万円の親子4人家族が 首都圏郊外の戸建てで生活した場合

 暮らしの形によって豊かさの基準が違い、一軒一軒に個別差があります。そこで、皆さんにおなじみのアニメのキャラクターの家族構成をモデルに、年収1000万円世帯の家計を試算してみたいと思います。ここでは、夫婦と子ども2人の4人家族の一例として、埼玉県春日部市に住む一家に登場してもらいましょう。同じ家族構成で世帯年収1000万円の4人家族の家計をシミュレーションしてみます。

 以下の表1は、1年目の家計収支です。給与による額面年収1000万円の場合、手取り年収は765万円、ここに児童手当による収入や日常生活費等を差し引きした年間収支は242万円の黒字になります。これだけ見るとゆとりがありそうです。

 【表1】1年目の家計収支

 収入:1012万円
 給与 1000万円
 児童手当 12万円(子ども2人分。所得制限あり〔支給額削減〕)

 支出:770万円
 税・社会保険料 235万円
 日常生活費 312万円
 教育費 20万円
 住居費 131万円
 定期支出(マイカー維持費、ペット費用など) 72万円

 年間収支:+242万円

 では、この先子どもの進学や夫の退職といったライフステージの変化につれて収支が変わっていくと、家族のお金の流れがどのように変わっていくのでしょうか。

● 年収1000万円ではぜいたくや アクシデントに耐えられない

 現在の設定をもとに家計収支(キャッシュフロー)の推移をシミュレーションしたのが、以下の図1です。

 図1は家計収支の推移を1年ごとに示したグラフです。折れ線グラフが0よりも上回っている年は黒字、下回っている年は赤字であることを示しています。子ども2人がそれぞれ大学に入学する年には赤字になるなど、子育て期間中の収支は上下動を繰り返し不安定であることがわかります。マイカーの買い替えや住宅リフォームなどの出費と大学費用の支出が重なり、赤字額が200万円近くになる年も出てきます。

 このケースのキャッシュフローの特徴は2人の子どもの年齢差が5歳で、子育ての延べ期間が長いことです。第1子と第2子の教育費の負担がかかる時期が分散されるため2人分の大学費用を一度に支払う時期はない半面、子育てに関わるお金の負担が一段落してから定年退職までの期間は約8年間しかありません。

 夫65歳時に、定年退職による退職金で収入が一時的に増え、その後は給与収入がなくなるため、一転して収入が少なくなります。一般的に現在は公的年金の受給額だけで老後の生活費をまかなえる家庭は希有で、このケースでも企業年金収入を含めても慢性的に赤字が続きます。

 老後は現役時代の貯蓄や退職金を取崩しながら生活するのが一般的ですので、家計収支がマイナスになること自体はそれほど大きな問題にはなりません。そこで、以下の図2に示したのが貯蓄の推移です。現役期間中は預貯金残高がおおむね右肩上がりで増え、夫65歳時点では退職金とあわせると4500万円に達する見込みです。

 定年退職後は取崩しが続きますが、基本的な生活費とライフイベントに必要な出費を前提とした本試算上では、夫が90歳過ぎまで残高を維持できる計算です。前提条件として退職金を一時金と企業年金の合計で約3200万円に設定していることは老後の資金のゆとりにつながっていますが、現役期間中にすでに2500万円近くを貯められていることも大きいといえます。

 ただ、このシミュレーションでは旅行や趣味、病気や介護などによる大きな出費は設定していないため、海外旅行などお金のかかるイベントを頻繁に楽しんだり、日頃からぜいたくを繰り返したりしてもなお余裕があるとまでは言い切れません。

 結果:首都圏郊外在住で、子ども2人が高校まで進学する場合、主に子どもが大学在学中の家計収支は不安定。平均的な暮らしぶりを続ければ、標準的な老後資金を貯めるには問題なさそう。

〈埼玉県春日部市在住親子4人世帯モデル前提条件〉
・家族構成 夫婦と子ども2人
 夫:35歳(会社員)
 妻:29歳(専業主婦)
 第1子:5歳
 第2子:0歳
 ペット:犬1匹
・年収
 現在~夫54歳:1000万円(給与・ボーナス収入)
 夫55~60歳:890万円(給与・ボーナス収入)
 夫61~65歳:600万円(給与・ボーナス収入)
 夫65歳~:249万円(年金収入。別途退職金は下記参照)
・退職
 夫の定年退職:65歳
 退職金:一時金2000万円、企業年金で年間60万円(20年間受取り)
・年金
 夫20~22歳:国民年金加入
 夫22~65歳:厚生年金加入
 夫65歳~:老齢年金受給開始(支給率は2023年度現在と同じと想定し、現役中の収入額に応じて受給額を試算)
・住宅 埼玉県。新築戸建て・庭付き(所有。夫30歳時に購入と仮定)
 維持費:年間30万円(固定資産税、火災保険、小規模な修繕費用など)、10年ごとに外装・リフォーム代として100万円支出と仮定。
 住宅ローン:夫30歳時に3000万円借入(変動金利、当初5年0.5%〔返済額月7万7876円〕、以後10年ごとに年1.0%→1.5%→2.0%へ上昇と仮定。35年返済〔夫64歳時完済予定〕、ボーナス払いなし、繰上げ返済なし)。
・その他
 生活費:月26万円(住居費、教育費含まず)。物価上昇率1%として毎年上昇すると想定。子ども23歳以降は独立と想定し、末子独立後は現在の生活費の70%。
 ペット費用:年間36万円(当初10年間のみ)
 マイカー:あり。維持費年36万円(ガソリン代、税、駐車場代など)。10年ごとに買い替え、各200万円支出。夫75歳まで保有。
 貯蓄:シミュレーション開始時にはゼロと仮定
・子どもの進路
 第1子:幼・公立→小・公立→中・公立→高・公立→大・私立文系/自宅通学
 第2子:幼・公立→小・公立→中・公立→高・公立→大・私立文系/自宅通学
 教育費:原則として客観的なデータ上の公私別平均値で設定(幼稚園~高校:文部科学省「子供の学習費調査」、大学:日本政策金融公庫「教育費負担の実態調査」)

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最終更新:4/18(木) 15:02

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