スカイマーク社長が「先制口撃」し羽田発着枠の争奪戦で火花 ANAとAIRDOなどの「コードシェア」もやり玉に

5/17 5:21 配信

東洋経済オンライン

 国内エアラインにとって、5年に1度のビッグイベントが始まった。2024年3月から羽田国内線の発着枠の回収・再配分などのルールを決める「羽田発着枠配分基準検討小委員会」が開催されている。

 搭乗者数が多く「ドル箱路線」である羽田路線の増減は、各社の経営に大きな影響を与える。委員長である東京女子大学・竹内健蔵教授をはじめ、学者をメンバーの中心とする委員会には、全日本空輸(ANA)や日本航空(JAL)など計6社の経営陣がオブザーバーとして参加。自社の発着枠獲得や有利な制度設計のために舌戦を繰り広げている。

 4月に開催された2回目の委員会。スカイマークの洞駿(ほらはやお)社長が他社にかみついた。「スカイマークが突っかかるのはいつもと同じ。ただ洞氏の発言となると重みがある」。業界関係者はそうみる。

 というのも洞氏が国交省の元官僚だからだ。1971年に運輸省(当時)に入省、2002年8月からは航空局長を務めた。その後、国土交通審議官を経て、2007年にANA常勤顧問に就任。2011年からANA副社長、2020年からスカイマーク社長を務めている。

■洞社長が繰り広げた「3つの主張」

 洞氏が委員会で主張した内容は以下となる。

 ①コロナ期間中の取り組みを評価して発着枠の回収・再配分を行うべき、②AIRDO(エアドゥ)とソラシドエアの共同持ち株会社化は合併に該当するか検証が必要、③ソラシドエア、スターフライヤー、AIRDOなどとANAによるコードシェアはその割合に応じて、発着枠を配分したものとみなすべき――という3つだ。

 まず1つ目について。発着枠の見直しに当たっては発着枠の使用状況や利用者の利便向上などの取り組みを評価してきた。今回の場合、その評価期間は本来なら2019年度から2023年度となるが、コロナ禍が直撃した時期と重なる。

 そのために委員やエアライン各社からは、「2024年度以降に再評価を行うべき」など延期を求める意見が相次いだ。委員会による報告書のとりまとめは夏頃の予定。発着枠の再配分は、報告書が出た後に速やかに公表されてきたが、今回は再配分の実施が延期されることもありうるわけだ。

 一方、洞氏は「羽田発着枠の見直しは競争の促進や多様な輸送網の形成などを通じて利用者利便に適合する輸送サービスを提供するために行うもの」だと指摘。コロナ期間中の取り組みも評価して再配分を行うべきだと主張した。

 その意見に対して竹内委員長は、「コロナ期間中に羽田発着枠をどう有効活用したかを評価するべきだが、『頑張った』という主観ではなく、客観的な指標を参考にするべきだと思う」と注文をつけた。

 洞氏の主張の2つ目は次のように意訳していいだろう。「AIRDOとソラシドエアの経営統合は合併に当たるので、発着枠を一定程度返還する必要があるのではないか」となる。

 AIRDOとソラシドエアは2022年に共同持ち株会社のリージョナルプラスウイングスを立ち上げた。コロナ禍の厳しい経営環境を受け、本社コストの削減などを目的に設立した。

 洞氏の主張を受けてソラシドエアの髙橋宏輔社長は、「路線の競合はなく、利益相反を避けるために共同持ち株会社を設立した」と説明。AIRDOの鈴木貴博社長も「自社のコスト削減には限界がある。(部品の調達などで)スケールメリットを生かすために行ったものだ」と反論した。

■JAL幹部が同調するシーンも

 業界関係者からは「仮に合併であるならば、2022年に発着枠を返還している。なぜ今さら蒸し返すのか」と疑問の声が上がる。ただ、委員会ではJALからも洞氏と同様の意見が出た。JALは日本エアシステム(JAS)と経営統合した際、発着枠10枠を返還している。

 洞氏の主張の3つ目はコードシェア(共同運航)についてだ。

 AIRDOやソラシドエア、スターフライヤーは、ANAとコードシェアを行っている。ANAに座席の一部を卸売りすることで、搭乗率を引き上げることができる。一方で2019年の委員会では、「運賃や企業間競争に影響を与えている」かを注視すべきとの意見が出ていた。

 洞氏の指摘は、「ANAのコードシェアを事実上、制限するべき」と言っているに等しい。ただ、洞氏以上に踏み込んで意見したのは、JALの小山雄司執行役員だった。「羽田(発着)のコードシェアは廃止するべき」と訴えたのだ。

 それらの声には花岡伸也委員(東京工業大学教授)が、「コードシェア廃止はドラスティックだが、スカイマークの提案は1つの考え方としてはありだと思う」と反応した。

 対するANAの松下正上席執行役員は、「ANAと(コードシェアをしている各社の)顧客セグメントは異なる。利用客にとって利便性が高まるようにコードシェアを選択しており、提携先としても理にかなっている」と主張した。

 またコードシェアをしている各社は、「コードシェアをすることで輸送人員が増えるため、有効活用の観点から矛盾をしていることはない」(AIRDO)、「当社は提携先(ANA)との運賃競争を繰り広げている。運賃が本当に上昇をしているかぜひ検証をしていただきたい」(ソラシドエア)と回答した。

 洞氏が提起したほかの2つの主張とは異なり、コードシェアについては多くの委員が言及していた。今後も議論される可能性はある。ただ、ANAはスカイマークなど中堅航空会社と異なり、国内主要路線で大型機材を運航している。コードシェアを理由にANAの発着枠を他社に配分すれば、羽田の輸送力が下がる点は留意が必要だ。

■成長戦略に影を落としかねない

 洞氏が委員会という公の場で強く主張した背景には、スカイマークの掲げる成長戦略の存在がある。同社は2022年12月に再上場した際、2つの成長戦略を掲げた。新機材の導入と羽田空港を中心とした発着枠の拡大だ。

 前回2019年の発着枠再配分時にANAやJALが枠を減らす中、スカイマークは1枠増と唯一の増枠を勝ち取った。企業の努力だけでは維持が困難な地方路線の充実のため、自治体と航空会社が協力する案に配分する「羽田発着枠政策コンテスト」でも枠を獲得。実質2枠増となっていた。

 今回の再配分も自信を持っていたことは間違いないだろう。しかしそれが延期になる可能性も出てきた。成長の源泉である羽田発着枠が増枠されなければ、経営戦略に影響を及ぼしかねない。洞社長の主張は危機感の裏返しともいえる。

 ただ竹内委員長が述べたように、コロナ禍という未曾有の事態が襲った期間の動きをどう評価するかが難題であることは間違いない。議論の末に委員たちがどのような判断を下すのか、目が離せない。

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最終更新:5/17(金) 5:21

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