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ダイキン、ポカリスエット、サロンパス 2億人超の巨大市場ナイジェリアに本格参入する「逃げない日本企業」の勝算

4/18 7:41 配信

東洋経済オンライン

日本の大企業がいよいよ本格的にアフリカ市場に取り組み始めています。注目したいのは、ナイジェリアへの進出です。ナイジェリアはアフリカの中でGDP最大の国。人口2億2000万人、2050年には4億人にもなると予測されています。最近では、ダイキンや大塚製薬、久光製薬が参入を本格化しています。日本企業に勝算はあるのでしょうか? 『超加速経済アフリカ』の著者で、アフリカビジネスに詳しい椿進氏がアフリカで日本企業が成功するために大事なことを解説します。

■ダイキン、大塚製薬、久光製薬が参入

 今までは一部の商社やトヨタ、ホンダ、味の素が1990年代からアフリカに参入して数百億規模の事業を実現している程度でした。しかし、最近では、ダイキンや大塚製薬、久光製薬が本格的に参入して注目を集めています。

 ダイキンの強さは、比較的安価な製造が得意な中国・韓国企業に対しても、真正面から戦って勝ちに行く、ということです。決して、逃げない。ハイエンドに逃げない。価格でも勝つとなれば、現地で製造し低価格を実現する。そして、実際に勝った。中国でも、インドでもトップを取りました。

 アフリカでは、付加価値率30%あれば現地生産とみなされ、関税が免除される。そこで、インド事業と連動し、キー部品はインドから持込み、アフリカ現地で組み立て製造を実施。そうやって、輸入が中心の中国企業や韓国企業に勝つ、という戦略です。

 大塚製薬も、インドネシアチームが中心となってアフリカ市場を開拓しています。販売するのは「ポカリスエット」です。ナイジェリアでは、約58億円かけて生産設備をつくりました。未整備の中、一から工場を立ち上げて生産していく様子をみて、チームからは「まるで15年前のインドネシアのようだ」という声も出ています。

 インスタグラムでの情報発信やYouTubeでのCM公開など、ナイジェリアの若者をターゲットにマーケティングを展開しています。実写とアニメで構成されているCMの総監督は、インドネシアのポカリスエットのCMも手掛けた、日本画家・アニメーション作家の四宮義俊氏です。

 久光製薬がナイジェリアで販売するのは「サロンパス」です。現地のパートナーを活用し、薬事承認・輸入手続き・物流・販売・マーケティングを実施。2024年4月から発売開始予定です。TVCMも始まります。すでに並行輸入品も入っていますので、市場性は十分に期待できそうです。

■現地パートナーとマーケット開拓

 ダイキンの海外展開は、これからアフリカでビジネスをしようと考えている日本企業に、大きなヒントを与えてくれると思います。

 注目したいのは、1990年代は日本の売上が全体の9割だったことです。ところが、2023年には海外での売上が全体の8割強を占めています。日本での売上は約5000億円と変わりないのですが、海外での売上を合わせると2兆5000億円。2兆円を海外で稼いでいるのです。

 しかも、進出した国で「すべて勝つ」ことを目標とし、行く国々で次々にトップを取っていった。中国でトップを取り、東南アジアやインドでもトップを取り、いよいよアフリカに進出しました。

 ダイキンが中国、インドで成功したポイントの1つが、幅広い代理店戦略です。製品の販売やサービスを担ってもらう会社を、1か国1社に任せるなんてことは絶対にしない。複数の会社をパートナーとするのです。

 ダイキンは中国で、実に2万店近い代理店を、全国すべての地域と、すべてのルート(専門店、量販店、プロジェクト案件、商業物件など)ごとに、代理店網を築き上げていきました。彼らと一緒にビジネスを成功させていく。この代理店モデルが、ダイキンの成功パターンの1つです。

 そして、参入当初は製品もフォーカスしました。エアコンには家庭用から業務用まで、いろいろな種類がありますが、多くの議論の末に、まず彼らが決めたのは、ビル用マルチ/カセット型とも呼ばれる、業務用天井据え付け型のエアコンに力を入れていくことでした。家庭用エアコンはレッドオーシャンだったこと、一方でビル用マルチはダイキンが強い領域だったことが、その理由でした。

 そして興味深いのは、このビル用マルチのエアコンを誰に売っていくか、ということです。実は、大型ビルでエアコンをどれにするかを決めるのは、ビルの施主ではないのです。

 では、誰が決めているのかというと、「設計士」でした。日本でいう一級建築士のような資格を持つ「設計士」が、大型ビルのエアコンを決めていたことがわかったのです。だったら、これらの「設計士」を代理店にしてしまえばいい、と「ダイキンを扱いませんか」と営業していきました。

 併せて、壊れたらすぐに駆け付けて修理する。旧正月でもクリスマスでもすぐに行く。代理店まかせではバラつくので、メーカーが修理・クレームは受け付けて、担当の代理店に指示を出す。その結果も、毎週開示する。それによってカスタマーサクセスが抜群に向上しました。

 【2024年4月22日17時20分追記】初出時、上記のエアコンの売り方に関する説明で誤りがありましたので、お詫びして修正いたします。

■成果を全うするまで日本に戻らない

 ダイキンは中国での成功を経て、次は東南アジアやインドに進出します。ほぼ同じやり方をしています。インドには2000年に参入。初期調査をした上で、電力消費効率が良いインバーターエアコンを中心に参入しました。中国同様に1万店の小規模代理店を構築しました。併せて、市場参入から相当早いタイミングで、現地に大規模工場を設立し、コスト面でも競合に勝てるようにしました。結果、2020年には売上1000億円、市場シェア20%のトップとなりました。

 代理店を含めた人のマネジメントが簡単にはいかないのがインド。そこで、インドのエアコン業界で30年もの経験があるカンワル・ジート・ジャワ氏を、井上礼之会長が口説き落とし2010年からダイキン・インドに参画してもらいました。ジャワ氏の手腕は大きく、現地のローカルのマネジメント、営業戦略や代理店マネジメントなどはすべて任せたのです。

 実は中国でも、中国人幹部を育成し活用したのが、ダイキンでした。日本人がやるには限界がある。現地のことは、やはり現地の人材が詳しい。そこで、現地と日本人のダブルトップ体制を敷いたのです。

 さらに、優秀な人材には、それなりに報いる必要があります。そうでなければ、すぐに辞めてしまう。だから、権限も与え、日本人をはるかに上回る報酬も用意しました。そうすれば、簡単に辞めたりはしません。

 ちなみにダイキンの日本人社員は、基本、赴任したら成果を達成するまで戻らないのが原則です。中国に行ったら、基本、成果を達成するまで中国。インドに行っても同様。現地に根付くからこそ、本気で勝とうとする。現地に根付いて戦うファイターをつくったのです。アフリカでも、同様になるでしょう。

 もちろん、戦略は必要です。いきなりレッドオーシャンに行っても苦しい。だから、ダイキンは中国なら「ビル用マルチ/カセット型」、インドなら「高級インバーター」から入った。そこで代理店網をしっかり築き、次に工場を早いタイミングでつくってコスト競争力もつける。そして工場などは日本人がしっかり見るけれど、現地のマネジメントと代理店網の維持拡大はローカルの人材に任せる。

■逃げていたら、ずっと勝てない

 ローカル人材はポジションを与えてもすぐに辞めてしまう、という声もあります。それは納得して活躍できる場を提供し、その成果に基づいてしっかり報いていないからです。活躍できる仕事があり、ちゃんとした報酬を支払っていれば、ローカル社員も定着します。その会社にいるメリットが相対的に薄いから辞めるのです。

 特にローカル幹部に関しては、日本の同程度の職位よりも高くしてはいけないとか、権限が曖昧で毎回本社にお伺いと立てないといけないとかやるから、ダメなのです。その人材が、決めた目標を達成し、収益を上げているのであれば、現地の相場相応の給料を支払えばよい。それこそインセンティブを中心に、びっくりするような報酬にしてもいい。

 ちなみに、ダイキンは1990年代前半に入社した社員が定年を迎えるタイミングです。工場の工員さんでも持株会をしっかりやっていれば、数億円という含み益になっている人もいるそうです。優れた経営を継続し、世界で勝ち残った会社は、社員も最終的に大きく報われるのです。

 真面目に働いていれば、持株会で退職時に数億円ある。もし、日本の会社の8割がこうであれば、今の日本はまったく違う世界になっていたと思います。そのためには世界で勝ち続けないとダメなのです。

 アフリカでは携帯の基地局は、基地局メーカーが主に設置します。エチオピアで出会ったファーウェイやZTEの中国人スタッフは、1週間、車とテントで風呂にも入らず、エチオピアの原野にローカル人材2~3人と一緒に、設置していました。

 ここまでやるから、中国・韓国企業は強いのです。海外に行きたくないとか、のんびりゆっくりした仕事の仕方をしていたら、吹き飛ばされてしまうのが、厳しいグローバル競争の現実です。

 逃げていたら、ずっと勝てないのです。日本が負けた理由を、認める時期に来ていると思います。日本企業も、やればできるのです。厳しい競争相手がいても、戦うことができる。その好例を、アフリカ市場に挑む、ダイキンや大塚製薬、久光製薬が示してくれると思います。

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最終更新:4/22(月) 17:18

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