怒れるポンド【フィスコ・コラム】
9月に年初来高値を付けたポンド・ドル相場が反落。英米中銀の金融政策への思惑や新政権による財政政策への懸念が背景にあります。同時に、過去最大級の増税は中産階級の活力を損ね、歴史に根差した身分制社会への不満も燻っているようです。
ポンド・ドルは9月に年初来高値に達した後は下げに転じ、足元は心理的節目の1.30ドルを割り込んで推移しています。米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げ観測がポンドを押し上げてきましたが、実際の利下げペースは緩やかになるとの見方でドル買いが再開し、ポンド安を招いています。英国経済は回復の道筋をたどってはいるものの、その速度は遅く、積極的なポンド買いは入りづらい状況です。
7月の総選挙で保守党から新たに発足した労働党政権による財政政策もポンド安の要因。スターマー政権は公共サービスの立て直しに向け30年ぶりの大規模な増税を10月末に発表し、それが負担増として国民にのしかかっています。2010年からの保守党政権への強い批判により政権交代が期待されたにもかかわらず、スターマー首相の支持率は低迷し、政権運営は早くも厳しい局面に入っています。
2016年の欧州連合(EU)離脱に関する国民投票以降は離脱に伴う不確実性からポンドは資金流出など経済面での打撃による長期的な下押し圧力にさらされています。実際、同年の高値1.50ドルに持ち直すような勢いは失われたまま。2022年にはトラス政権による政策運営の失敗で一時1ドル=1ポンドに接近し警戒が高まる場面もありました。その後も霧は晴れず、安値圏でのもみ合いが続いています。
コロナ禍やウクライナ戦争で激しいインフレにも見舞われる一方、賃金の上昇が追い付いていません。住宅価格の上昇や生活費の増加は人々の生活に深刻な打撃を与え、「EUを離脱しない方が良かった」と考える国民が年々増加。動画サイトには国外脱出を図る人々の投稿も目立ちます。格差拡大は身分制社会という重厚なテーマに突き当たり、閉塞感や絶望感がポンドの値動きに反映しているようにも見えます。
イギリスを代表するロックバンド「オアシス」の15年ぶりの再結成がこの夏、音楽シーンをにぎわせました。来年は欧州を中心にツアーを再開するそうですが、チケット代は需要に応じて決まるシステムで高騰。かつてのヒット曲「Don’t look back in anger」は第2の国歌とも言われるほどで、過去の後悔や怒りに捉われず前向きに進もうとするメッセージですが、再びイギリスに活力を取り戻すための応援歌になるでしょうか。
(吉池 威)
※あくまでも筆者の個人的な見解であり、弊社の見解を代表するものではありません。《ST》
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最終更新:11/10(日) 9:00