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「英語を自然に訳せない」と悩む人に教えたい、たった1つのコツ 翻訳家が教える「一流」と「二流」の決定的な差

4/1 17:02 配信

東洋経済オンライン

AIをはじめとするデジタル技術の発展に伴い、ビジネスモデルやサービスのあり方が変化してきた現在。サイエンス作家でもある理学博士の竹内薫氏は、この大きな環境の変化に対応するためには「思考センス」を磨く必要があると説きます。とりわけ「言葉の思考センス」に着目する同氏が、ほんとうに「伝わる英語」のポイントを解説します。
※本稿は竹内薫氏の新著『東大卒エリートの広く深い学び方』から一部抜粋・再構成したものです。

■自然な英文和訳に必要な「言葉の思考センス」

 まずは、思考センスを高めるための融合学習の活用について解説していきます。

 思考センスと聞いて、私が真っ先に思いつくのは言葉の思考センスです。
言葉は思考に影響を与え、思考は言葉に影響されますから、思考センスを考えるうえで言葉選びを取り上げたいと思います。

 たとえば、私は翻訳家でもありますから、ここでは「英文和訳×自然な日本語」というもので考えてみましょう。

 「英文を和訳するとき、いかに自然な日本語で表現できるか?」

 これは、学生だけでなく、ビジネスパーソンにとってもなかなか難しいのではないでしょうか。

 そこで、まずは私のフリースクールに通う子どもたちの例をご紹介しましょう。

 私のスクールにはバイリンガルの子どもたちが通っていますから、子どもたちに英文を和訳させると、小学校の中学年くらいまでは比較的自由に和訳しています。子どもたち自身が英語を読んで理解したものを、何となく感覚的に自分が普段よく使う日本語に変換しているのです。

 小学校の中学年までは、これが自然で正しい方法だと私は考えています。

 ところが、高学年になってくると少し変化が出てきます。辞書を使うことにも慣れて知恵がついて、語彙力が増えてくるからでしょう。そのとき意外にも、辞書で引いた言葉をそのまま使いたがるのです。

 たとえば、「勤勉」とか「忍耐力」といった漢語系の難しい言葉がそうです。これらはおそらく、子どもたちが日常で使ったことがない言葉です。

 そうした辞書に載っている言葉をそのままつなげて英文和訳すると、どのような表現になるのか?  皆さんのご想像通り、いわゆる直訳調のあまり褒められない翻訳文(日本語)になってしまうのです。

■ビジネスの場では使えない「直訳調」の和訳

 こうした直訳調の英文和訳で正解になるのは、学校のテストや受験のときだけ。多少日本語としての文章がおかしくても、たとえわかりにくくても、いかに正確に翻訳するかが求められる試験では、点数を引かれることはないでしょう。

 ただし、直訳調のわかりづらい英文和訳は、学校ではよくても、社会に出てビジネスの場となると使いものになりません。なぜなら、そうした文章は自然な日本語どころか、読んでも意味がわからないからです。

 こう断言できるのは、私自身が社会に出て翻訳という仕事を長年やってきたからです。

 私が英文を日本語の文章に翻訳するときに、自然な日本語にするためにいつも気をつけているのは、「自分が普段使わない言葉は使わない」ということです。いくら辞書に書いてあっても、知らない言葉は使わないようにしています。

 こうした心構えひとつで、私たち人間の思考センスは磨かれていくのです。

 きっと、皆さんにもあると思います。「この言葉は生まれてから一度も使ったことないな」という日本語が、です。

 そのような言葉は翻訳のときに使ってはダメなのです。なぜなら、一度も使ったことがない言葉というのは、「自分のもの」になっていないからで、それでは他者に伝わりづらくなります。

 私が翻訳の仕事で、「この言葉をどうやって翻訳すればいいのか」と悩んだ言葉がこれまでにもいくつもありました。1つ例をあげると、「dynamics」という言葉がそうです。

 これを直訳すると、「動力学」という日本語になるのですが、皆さんはこの動力学という言葉を読んですぐに理解できるでしょうか。おそらく、大半の方はイメージがわかないはずです。すなわち、それは自然な日本語ではないということです。

■「動力学」と「力学」のどちらが自然な日本語か

 そもそも、力学というのは「静力学」と「動力学」の2つから成り立っています。物体の運動を扱う力学を動力学といい、逆に物体が静止しているときの状態を扱う力学を静力学といいます。

 そうした違いを前提として、どうやって力学に詳しくない一般の人たち向けに翻訳するか。間違っても、ここで安易に「動力学」と翻訳してはいけないと思うのです。

 大事なのは、前後の文脈でもっともぴったり来る言葉を頭の中の倉庫から探し出して、パズルのピースのようにはめ込むことです。そこで私は最終的に、「力学」と翻訳することにしたのです。

 「dynamics」を「力学」と翻訳したエピソードには続きがあります。
少しだけ触れておきましょう。

 その翻訳書が発売されたあと、私はある物理学の専門家から、次のようなお叱りを頂戴しました。

 「この翻訳は原文と違っている。不正確だ」

 たしかに、専門家からすれば「動力学」をただの「力学」と翻訳したことに大きな違和感を抱いたのでしょう。

 ですが、私はそれでも自分の訳した「力学」こそが、その本にとっての自然な日本語であったと考えています。なぜなら、その本は専門家たちに向けて翻訳されたものではなく、一般の人向けに翻訳されたものだったからです。

 もし、物理学にあまり詳しくない人が読めば、「力学」という言葉に「動」という言葉を入れることによって、逆に混乱してしまう可能性があります。

 動力学と静力学の区別をしっかりできる人にとっては、「動力学」と翻訳したほうがいいでしょう。ですが、最初からその区別ができていない人に対して「動力学」と翻訳しても、自然な日本語とはいえません。

■思考センスにおける「一流」と「二流」の違い

 長年、翻訳という仕事をやってきてわかったことがあります。それは、一流と二流の翻訳家の思考センスの違いです。

 たとえば、いちいち辞書を引いて単語の意味を調べて翻訳している翻訳家というのは、二流の翻訳家なのではないでしょうか。

 一方で一流の翻訳家は、あまり辞書を引かずに自分の言葉で翻訳します。なぜなら一流の翻訳家は、すべての言葉が自分の頭の中に入っている、つまり言葉を「自分のもの」にしているからです。

 これは、ピアニストの場合で考えても同じことがいえると思います。たとえば、ジャズ音楽をピアノで弾くときに、楽譜を見て弾くのが二流のピアニストだとしたら、一流のピアニストは楽譜を見ずに自由な表現で演奏ができます。

 お手本がないとできないのが二流で、自分のものにしているのが一流です。

 このように捉えると、翻訳の世界にも「自然な日本語」を選ぶという思考センスがあることをご理解いただけると思います。

 翻訳における思考センスとは、「いかに辞書から離れて、自分の頭の中にある言葉で表現できるか」ということなのです。

 そしてもう1つ、私には翻訳家として自然な日本語を選ぶうえでの基準があります。それは、翻訳であるということに気づかない日本語になっているかどうかです。

 そもそも翻訳書には、「翻訳」という作業が入るわけですが、その本を読んだときに「翻訳書である」ということに気づかないまま読んでもらえる日本語が、自然な日本語であると思うからです。

 ここで、翻訳をより理解するための簡単なヒントを1つご紹介しましょう。

 私がまだ翻訳家として駆け出しの頃、英語の一文をそのまま正確に一文ごとの日本語に翻訳するということを心がけていた時期がありました。ですが、翻訳という仕事を続けているなかで、英語の一文を無理やり日本語の一文に翻訳すると、どうしてもわかりづらくなってしまうことに気づいたのです。

■型にはまらない言葉選びが「思考センス」を磨く秘訣

 それはなぜか?  いわゆる「翻訳調」の文章になってしまうからです。英語と日本語の言語構造が違うわけですから、当然といえば当然のことです。

 そこで英語の一文をわかりやすく翻訳するために、2つの文章に分けてみたところ、見事に自然で読みやすい日本語の文章に仕上がったのです。

 このように、型にはまることなく的確な言葉を選んで翻訳することが自らの思考センスを磨き、自然で読みやすく伝わりやすい日本語を選択する秘訣になるのです。

 ただし、自然な言葉を用いて自由に翻訳することと、自分本位で翻訳することは意味が違います。翻訳で心がけなければいけないのは、原著者が伝えたいことを正確に伝えることです。このことを忘れてはなりません。

 原著者の意図が伝わるような日本語訳であれば、逐語訳から離れた翻訳文であっても、問題はないと思います。翻訳書であったとしても、読者にとって、自然でわかりやすい日本語で読めるのが望ましいからです。

東洋経済オンライン

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最終更新:4/1(月) 17:02

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