「飽和するコンビニ」に成長余地が残っている意外なワケ

5/17 9:41 配信

東洋経済オンライン

 大手コンビニの2023年度決算は、セブン&アイ・ホールディングスの営業利益、ファミリーマート、ローソンは事業利益が過去最高益となり、各社ともに順調な業績と報じられている。

 コロナ期には、都市部の人流が大きく落ち込んだ影響で、コンビニ各社も業績が停滞したが、コロナ収束とともに回復してきた人流、インバウンド需要等にも後押しされて、売り上げが順調に伸びた。

 各社ともに商品・サービスの拡充には余念なく、平均日販(店舗あたり一日あたり平均売り上げ)を順調に伸ばしており、3社ともコロナ前である2019年度の数字を上回っている。

 極めて順調にも見えるが、これはコロナ禍を乗り越えたということであって、コンビニ各社に安堵感はあまりないだろう。「国内コンビニ市場飽和」という大きな課題を乗り越えるのはこれからだから、である。

■コロナ前にはコンビニ店舗数の伸びが鈍化

 国内コンビニ市場は順調に拡大を続けてきたものの、コロナ前には店舗数の伸びが鈍化し、2019年度には初めてマイナスに転じたことで、市場の拡大にも陰りが見えていた。

 その後のコロナ禍による落ち込みがわかりにくくしているが、コンビニの出店余地が少ないことは間違いないだろう。コンビニ本部とフランチャイズ加盟店の争議が頻発し、問題視した公正取引委員会が調査に乗り出し、コンビニ本部に改善要請したのも、この頃のことだ。

 コンビニの出店余地が乏しくなっているにもかかわらず、各社が出店を継続したことによって、加盟店間でのカニバリが厳しくなったことが背景にあり、こうした経緯を踏まえて、コンビニ本部は事実上、既存店に対する配慮を欠いた新規出店を控えざるをえなくなった。

 その後、コンビニの店舗数は全体として横ばい、微減での推移となっている。最近は日販の向上に依存した成長に頼っている、というのが現状である。

 【2024年5月17日14時00分追記】初出時、表の一部に謝りがあったため修正しました。

■コンビニ市場拡大は店舗数増加が牽引

 国内コンビニ市場拡大の経緯を振り返れば、その主たる成長要因は店舗数増加にあったことは、データで見ればすぐにわかる。次の図は、コンビニ販売額、店舗数、店舗あたり売り上げを、1999年を100として、長期時系列推移を見たものだ。店舗あたり売り上げも拡大してはいるものの、店舗数の増加が牽引して大きくなってきたことは明らかであろう。

 こうした構造の業界にとって店舗を増やすことが難しくなれば、今後の成長が鈍化することは避けられない。ただ、国内コンビニ市場がもう成長しない、ということではなく、これまでのビジネスモデルを転換せざるをえない、と解釈すべきであろう。ビジネスモデルの転換とは、ざっくり言えば、①商圏を細分化して出店余地を生み出す、②新たな需要を取り込む、といった2点ということになる。

 「商圏の細分化」とは、店舗の損益分岐点を下げて、これまでは出店できなかった小さい商圏にきめ細かく出店していく、といったイメージである。コンビニに限らず、小売店では人手不足を見越した省人化、無人化に取り組んでいることは、よく知られていることだろう。

 小売店舗における最大のコストは人件費であり、この削減は人手不足への対策であるとともに、店舗のコストを下げることで、損益分岐点を大きく引き下げることが可能になる。

 これにより、従来は商圏規模が小さく出店できなかった場所への出店が可能になる。例えば、ビルイン型店舗をビルの各階に配置したり、中小工場、事業所、人口規模が少ない集落への出店を拡大したり、といったイメージだ。出店余地を再び拡大することが十分可能となる。

■おにぎり、おでん、コーヒーに続いて…

 「新たな需要の取り込み」に関しては、コンビニ各社は以前から積極的に取り組んできた。弁当、総菜、日用品から始まって、おにぎり、おでん、持ち帰りコーヒーなどの商品を開発してきたことは、ご存じのとおり。

 また、来店動機の多様化が主目的ながら、公共料金、自治体サービス、複合機サービス、ATM、宅配便受付、各種チケット受取、といったサービスを提供することで、売り上げを積み上げてきた。

 そして、今ではリテールメディアと言われる、さまざまな顧客接点を生かした店舗のメディア化も進行中であると聞いたことがあるかもしれない。各社とも宅配事業の強化を本格化しており、ラストワンマイルを超えて顧客に近づくという、超コンビニエンスの実現も目指しており、これも確実に新たな需要を開拓しつつある。

 次に取り込むとすれば、隣接する巨大市場であるスーパーマーケット業界の需要を取り込むということになるだろう。

 食を中心とした生活必需品の提供というニーズに対しては、スーパーが担っている役割は大きいのだが、これまではコンビニとスーパーは似て非なる業界として共存してきた。主に「即食」という時間を買うニーズに対応してきたコンビニが、スーパーが担っていた「内食」というニーズに対応できる環境が整ってきた。

 人口減少・高齢化という社会構造変化を背景に、生活必需品の買い物需要が小商圏化しつつある、ということが背景である。人口が少なかったり、高齢化して遠くに出かけにくいといった理由でスーパー業態が成立しがたい場所が増えつつある中、そうした商圏で損益分岐点の低いコンビニが、スーパーのニーズにも対応するということだ。

■北海道におけるコンビニの存在感の大きさ

 実際に北海道におけるコンビニの存在感の大きさは、その先行事例として参考になるかもしれない。次の図表は、経済産業省の商業動態統計からコンビニ販売額と人口規模から地域別に一人あたり年間利用額を計算したものだ。北海道におけるコンビニ利用額は他の地域に比べてずば抜けて高いことが見て取れる。

 この背景としては、人口密度が低く広がって居住している北海道においては、スーパーが少ない地域も多く、コンビニがその機能の一定部分を担っていると言われている。

 また、冬季は遠くに買い物に行きにくいことも、近くにあるコンビニの利用度を高めているという事情もある。仮に、このような存在に本州以南のコンビニが進化して、北海道レベルまで利用度を上げることができたとすれば、コンビニ市場は2.8兆円拡張可能、そしてさらに1割アップすることができるなら、理論上は4.3兆円以上も市場拡大が可能なのである。

 国内の買い物環境が、より小商圏化(遠くまで買い物に行けなくなるうえに、人口が減ってスーパーが成立しない地域が増える)という方向性に進んでいるのなら、コンビニの成長余地はここにもある、ということになる。

■スーパーマーケットの内食ニーズを取りにいく

 セブンイレブンは、2019年以降、「ワンフォーマットからの脱却」という方針を打ち出している。これは、個店の立地する商圏のニーズを詳細に把握して、すべてを取り込むことができることを目指して、きめ細かい対応を行っていく、という趣旨だ。その最大の対象ニーズといえば、スーパーマーケットが担ってきた地域の内食ニーズそのものを取りにいく、ということだろう。

 少し前、話題になった、「SIPストア」という生鮮や日配品の品揃えを強化した実験店舗は、まさにこの方向性を目指した新たなフォーマット開発である。1号店は大都市郊外の住宅地における実験だったが、この成功をもって多店舗展開をするものではないことも表明されている。

 これこそ、全国各地のさまざまなニーズに合わせて多様なフォーマットとして開発し、分散展開するという趣旨だと解する。経済産業省の商業動態統計によれば、飲食料品小売業販売額(食品を主として販売する小売業)だけでも48兆円あり、コンビニはこれを取り込むことで再成長ステージに立つことを目論んでいるのである。

 今年の1月、イオングループの中四国地方のスーパーを統合したフジの経営方針発表会における岡田元也会長の発言が注目された。「今後の競合の大本命はコンビニとEC」「コンビニと共存できなくなる時代になり」という言葉の背景は、内食攻略を目論むコンビニを迎え撃つ、というスーパー最大手イオンの意思表示であるとみるべきであろう。生鮮、日配、冷凍食品などを中心に、どこまで内食需要に迫れるか、コンビニのチャレンジに注目したい。

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最終更新:5/17(金) 14:11

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