アジアで新たな通貨戦争のリスク、円安長期化なら高まる恐れ

5/9 7:58 配信

Bloomberg

(ブルームバーグ): 円安が続く中、各国が自国通貨を支えようと躍起になっているアジア地域でほとんど想像もできないシナリオを一部の投資家は考えている。競争的な通貨切り下げが相次ぐことでアジアで新たな通貨戦争を始まるといったものだ。

円は対ドルで34年ぶりの安値を付けた後、通貨当局の介入と見られる動きで持ち直したが、日本が単独で介入を続けても効果が長続きする公算は小さいと見られており、円が再び売り込まれる可能性が高まっている。そうなれば、輸出で競合する韓国や台湾との緊張がピークに達し、既に人民元切り下げの可能性が取り沙汰されている中国に圧力をかけることになりかねない。

人民元切り下げ議論ひっそりと浮上、中国経済下支えで-物議醸す措置

アジア諸国はこれまで、自国通貨を支えようと取り組んできたが、円の不安定化は理論上、日本の近隣諸国に極端な行動をとらせる引き金になり得る。これは少数意見であり、アジア金融危機の再来を示唆するものではないが、ドル高が長期化するというシナリオで、この説は一定の支持を集めつつある。

長引くドル高、想定外の市場に再考迫る-堅調な米経済や粘着インフレ

ステート・ストリートのアジア太平洋グローバルマーケッツ責任者、ヘンリー・クエック氏は、「競争的な通貨切り下げという言葉を耳にするのは久しぶりだ」と指摘。だが、「もし円安がずっと長く続けば、一連の競争的切り下げが起こり得る状況にある」と述べた。

アジア各国の中央銀行が自国通貨を対ドルで積極的に下支えする中、円のパフォーマンスはこの地域で最悪となっており、日本の近隣諸国の輸出競争力を低下させている。日本と他国との金利差や、投資家の米国資産選好なども背景にあるが、たとえ円安の理由が日本の当局だけでコントロールできるものではないにしても、あつれきを生じさせるだろう。

日本の最大の貿易相手国である中国の人民元に対し、円は4月下旬に1992年以来の安値に下落。対韓国ウォンでは2008年以来の安値付近にあり、対台湾ドルでは31年ぶりの安値だ。

マニュライフ・インベストメント・マネジメントのシニアポートフォリオマネジャー、パク・キス氏は、競争的な通貨切り下げに関する質問に対し「それは起こっている」と答え、「意図的であろうとなかろうと、それは起きており、他の地域にも影響を及ぼしている」と指摘した。

無秩序な円安はアジア通貨の重しに

複数の市場関係者によると、以前ほど強い影響力はないものの、無秩序な円の下落は依然としてアジア地域の通貨の重しとなり得る。

JPモルガン・アセット・マネジメントのポートフォリオマネジャー、アルジュン・ビジ氏は、「最も直接的な影響としては、大幅な円安につれて、韓国ウォンや台湾ドルなど他のアジア通貨の相場が押し下げられるだろう」と指摘する。

オーストラリア・ニュージーランド銀行(ANZ)のアジア調査責任者、クーン・ゴー氏によれば、円安が反転するまでは、韓国ウォンと台湾ドルが国内の人工知能(AI)投資ブームの恩恵を受けにくくなる可能性が高いという。

確かに、日本の当局がこれ以上の円安進行を容認しない可能性を示すサインは出ている。ドル・円相場が先週、34年ぶりに心理的な節目の1ドル=160円台に乗せた後、2回にわたって当局による介入とみられる動きがみられ、その後は155円台での安定した推移につながった。

また、アジアの国・地域の大半は1990年代後半に起こった混乱の再発防止体制を整えており、域内で金融危機の懸念はほとんどない。外貨準備の増強、金融セクターの監督強化による改革、地域資本市場の深化が背景にある。

一方、マニュライフのパク氏は、対ドルで170円から180円程度まで円安が進めば、アジア域内だけの問題にとどまらず、新興国通貨全般に影響が波及するとみる。低金利の通貨で資金を調達して金利の高い新興国通貨に投資するキャリー取引で、調達通貨としての円の役割が大きな要因として挙げられる。

リターン際立つ円キャリー取引、ボラティリティーが阻む恐れ

パク氏は、「ドル高によってアジア通貨の価値が下がれば、現地の市場に投資する各ファンドは資金を引き揚げざるを得なくなるだろう」と指摘。「EM(新興国)市場全体が崩れ、米国債相場の上昇と株式が売られるリスクオフの動きを引き起こすことになるだろう」として、確率は低いものの、排除できないシナリオだと付け加えた。

ワイルドカード

波乱要因となるワイルドカードとしては、中国が人民元に対してどのような対応を取るかが重要になる。人民元が円につれて下落し、アジア域内の不安定化につながるリスクがある。中国の管理相場制の下にある人民元は、他通貨のアンカー役としてみられており、小さな動きでも非常に大きな影響を及ぼしかねない。

市場では、中国当局が低迷する経済を下支えるために、人民元の切り下げといった極端な措置を余儀なくされるのではとの観測が、ひっそりと高まっている。

ロンバー・オディエ(香港オフィス)のアジア太平洋地域担当の最高投資責任者(CIO)、ジョン・ウッズ氏は、「アジア全体を見て、これまでに進んだ異常なまでの円安を目の当たりにすると、特に中国と比較した相対的な競争力が気になり始める」と指摘。「それが今、アジアで私がかなり注目しているリスクだ」としている。

原題:Yen’s Fragility Raises Specter of a New Currency War in Asia(抜粋)

(c)2024 Bloomberg L.P.

Bloomberg

関連ニュース

最終更新:5/9(木) 12:17

Bloomberg

最近見た銘柄

ヘッドラインニュース

マーケット指標

株式ランキング