パワーカップルでももう買えない、高すぎる都心マンションに手が届く年収《楽待新聞》

5/1 11:00 配信

不動産投資の楽待

みなさまご存じの通り、マンション価格は上昇を続けています。

不動産調査会社「不動産経済研究所」によると、2024年3月に1都3県(東京、神奈川、埼玉、千葉)で発売された新築分譲マンションの1戸当たりの平均価格は、7623万円でした。平米単価は約115万1000円で、12期連続の上昇です。

都心での大規模・高額物件の供給増、施工費や用地費の高騰などから平均価格、平方メートル単価ともに3年連続で最高値を更新しています。

同調査における東京23区の新築分譲マンション1戸当たり平均価格は、1億2476万円となっています。2023年度で見ても、東京23区の新築分譲マンションの1戸当たり平均価格は1億464万円と、年度ベースで1億円を突破しています。年度の平均価格は、バブル期の1990年度以降で過去最高を更新しています。

新築マンションの価格を押し上げている要因として、夫婦共働きで住宅ローンを組む「パワーカップル」の増加があるとされてきました。先日の日経新聞では、野村不動産のマンションシリーズ「プラウド」を購入した共働き世帯の顧客において、世帯年収1500万円超の比率が4割弱となった、という報道もされていました。

このような新築分譲マンション価格を見ると、平均的な家庭では東京23区はおろか、首都圏での新築マンション購入は無理だとお考えになる方も多いのではないでしょうか。

そこで今回は、世帯年収対比でどの程度の価格の新築マンション購入が可能なのかを簡単に見て行きたいと思います。

■世帯年収1500万円でいくら借りられる?

まず、冒頭で触れた世帯年収1500万円の世帯では、どの程度のマンションが購入できるのか(=いくらぐらい住宅ローンが借りられるのか)を確認しましょう。

世帯主800万円、配偶者(連帯保証人)700万円、返済期間30年、変動金利0.475%で、三井住友銀行のWebサイトにてシミュレーションした場合、借入可能額は1億800万円、月々の返済額は32万1941円となります。10年固定金利1.69%の場合には、月々の返済額が38万2655円まで上昇します。

これはあくまで、三井住友銀行の基準としての借入上限額ですが、他の銀行も基準はそこまで変わりません。世帯年収1500万円あれば、銀行は1億円程度の住宅ローンを貸してくれると考えておけばよいでしょう。

■一般的な年収の世帯では…

では、一般的な世帯年収の場合はどの程度まで借入が可能なのでしょうか? 厚生労働省が公開する「2022(令和4)年国民生活基礎調査の概況」によると、2022年時点における日本全体の平均世帯年収は545万7000円です。

ただ、この平均世帯年収は上位世帯が引き上げていることもあるため、調査対象のちょうど中間に当たる中央値も確認すると、世帯年収の中央値は423万円となっています。

この数字を参考として、世帯主年収が500万円、配偶者収入無し、返済期間30年、変動金利0.475%の場合を想定します。

上記と同じ三井住友銀行のシミュレーションでは、借入可能額は3600万円、月々の返済額は10万7313円となります。

日本の世帯年収の平均、もしくは中央値では、とてもではないですが東京23区で新築マンションは諦めるしかないことは明白です。

■返済比率で検証

続いては、年収ごとの返済比率でも検証してみます。まずは、前述の世帯年収1500万円の場合を想定しましょう。

世帯主年収800万円の場合、税金・社会保険料を除いた手取りは590万円程度です。ボーナスを含めて月額に換算すると、約49万円です。配偶者の年収が700万円の場合、手取りは525万円程度、月額換算で約44万円です。

したがって、世帯年収が800万円+700万円=合計1500万円の場合、月当たり93万円程度の手取り収入があることになります(ボーナスを月当たりに換算したものを含みます)。

この93万円のうち、変動金利で32万円、10年固定金利で38万円が返済となりますので、変動金利であれば手取りの34%、固定金利で40%程度を返済に回していることになります。

これはボーナスを含めた月の手取り額との比較です。もう少し一般的な世帯の家計を考えるために、ボーナスが年間で月額給与の5カ月分だと仮定しましょう。

上記の世帯事例の場合、年間の手取りは世帯合計で1115万円(=590万円+525万円)です。この1115万円をボーナスを除いた月額の手取りを試算すると65万5000円(=1115万円÷17カ月)となります。

上記事例の32万円とか38万円の返済というのは、実際には月の手取りの半分程度が住宅ローンの返済に充てられていることに他なりません。ボーナスが別にあるとはいえ、かなり限界に近いことが分かるのではないでしょうか(ボーナスは将来のための貯蓄にする方が多いでしょうから)。

民間の金融機関は、住宅ローン融資の際に、上記のように手取りではなく「年収対比」で返済比率上限を決めています。

一般的には返済比率上限は30~40%ですので、世帯年収1500万円=月収125万円に比べると、上記32~38万円の返済はまだ余裕があるように思えます。

ただ、実際には返済比率の上限は住宅ローン以外にもオートローン(自動車ローン)、教育ローン等の返済も含まれたものです。手取り対比では、前述の通りボーナスを除くと半分程度を住宅ローンの返済に回さざるを得ません。年収対比の返済比率だけで上限を判断するのは危険だと思われます。

■パワーカップルの購買力は日本の「課税体系」のおかげ?

パワーカップルが注目され、新築分譲マンション価格が上昇した理由(=パワーカップルに購買力がある理由)には、日本の課税体系があります。

例えば、単独で年収1500万円を稼いでいる場合には、手取りは1020万円、月額で85万円程度です。一方で、先ほどの事例のように世帯主800万円、配偶者700万円の世帯合計1500万円の世帯年収の場合、月の手取りは合計で93万円程度です。

「一馬力」の世帯と「二馬力」の世帯では、手取りが大きく異なることが分かります。これは、日本の所得税が累進課税となっているためです。

単独の課税所得が695万~900万円の個人に課される所得税率は23%です。一方で、課税所得が900万~1800万円の個人に課される所得税率は33%です。日本は同じ世帯年収であったとしても、世帯主と配偶者がそれぞれ稼いでいる方が、税制面では有利となります。

日本は共働き世帯の増加と共に、新築マンション価格も上昇してきました。もちろん、それ以外にもさまざまな要因はありますが、実需層が購入する新築マンションの価格を上昇させ続けることができたのはパワーカップルの購買力でしょう。

ただ、これ以上の価格上昇を、実需層が許容できるかというと疑問を持たざるを得ません。



前述の通り、世帯年収が1500万円もある世帯であっても、住宅ローンの借入は1億円程度が限界です。女性は出産・育児というイベントもあり、その間は収入が伸び悩むもしくは落ちる可能性が十分にあります。

もう一段の価格上昇が起きた場合には、背伸びして購入する世帯が増えてしまうというよりは、需要が低下するのではないでしょうか。住宅ローンの返済をシミュレーションすれば容易に厳しさが分かるためです。

今後の新築マンション価格がどのように推移していくのか、誰が買い続けるのか、注目していきたいと思います。

旦直土/楽待新聞編集部

不動産投資の楽待

関連ニュース

最終更新:5/1(水) 11:00

不動産投資の楽待

最近見た銘柄

ヘッドラインニュース

マーケット指標

株式ランキング