「結局、何が真実?」「性加害はなくても性行為はあった?」松本人志、文春と合意し「訴え取り下げ」も、復帰を遠ざける“疑惑”

11/9 15:32 配信

東洋経済オンライン

 お笑いタレントの松本人志さんが、女性に対して性行為を強要したという『週刊文春』の記事について、文藝春秋社に訴訟を起こしていたが、11月8日、訴えを取り下げるとの声明が出された。

 今回の取り下げには、松本さんが早期に芸能活動を再開させたいという意図があるという声も聞かれる。

 本件に関して、松本さんの所属する吉本興業は「活動再開については、関係各所と相談のうえ、決まり次第お知らせする」という表明を出している。この文章を読むと、たしかに活動再開を意図しているように読める。

 しかしながら、松本さんの復帰はそう容易ではないと筆者は考えている。最低でも、数カ月の謹慎は必要になるだろうし、下手をすれば、地上波には復帰できない可能性もある。

■性加害はなくても、性行為があったら…

 法律の専門家が指摘しているように、口頭弁論の後での取り下げは、相手側、つまり今回のケースだと文春側の同意を得なければ効力を生じない。

 文春側も「本日お知らせした訴訟に関しましては、原告代理人から、心を痛められた方々に対するおわびを公表したいとの連絡があり、女性らと協議のうえ、被告として取り下げに同意することにしました」と表明している。

 つまり、松本さん側だけでなく、文春側もこれ以上争う意向はなく、係争はひとまず終了ということになるだろう。

 ただ、松本さんが以前と同様に芸能活動に復帰できるかと言えば、それは別問題となる。焦点となるのは、性行為の強要があったのか、あるいは同意だったのかという点なのだが、この点は依然として曖昧なままである。

 たとえ強要がなかったとしても、性行為、あるいはそれに類する行動があったのか?  という疑問は残る。松本さんは既婚者なので、強要はなかったとしても、「不貞行為があった」と見なされる可能性はある。

 広末涼子さんは、不倫発覚によって芸能活動を一時休止せざるを得なくなった。日本社会においては、「男女は平等だ」と謡いつつも、不貞行為に関しては、男性よりも女性に厳しい傾向がある。若手ならともかく、中高年の男性芸能人が不倫をしても、お咎めなしで芸能活動を継続している場合もある。

 松本さんの場合、すぐに復帰するのは難しいかもしれないが、強制性があったとは断定されなかったので、しばらくの謹慎期間をおいて復帰することは十分にありうる。

 活動領域は違うが、女性側から性加害の訴えが起こった西武ライオンズの山川穂高選手は5カ月、サッカー日本代表の伊東純也選手は7カ月で現役復帰をしている(ともに無罪を主張し、嫌疑不十分で不起訴処分。伊東選手は性行為自体も否定している)。

■それでも残る「疑惑」

 松本さん側のコメントには、「松本人志は裁判を進めるなかで、関係者と協議等を続けてまいりましたが、松本が訴えている内容等に関し、強制性の有無を直接に示す物的証拠はないこと等を含めて確認いたしました」という一文がある。

 強制性に関しては、「直接に示す」「物的証拠」はない、といった条件を課し、持って回ったような言い回しをしている。

 「強制性はなかった」ということが証明できれば短期での復帰は可能だろうが、それができるようであれば、訴訟を取り下げる必要はなかったのではないか。疑惑は依然として残り続けることになるだろう。

 一方で、文春側の報道がどこまで正しかったのか?  という疑惑も残り続ける結果となった。

 筆者は、メディア報道されているいくつかの事案に関して、当事者、あるいは当事者と近い人から話を聞くことも多いが、事実のすべてではなく、一部が切り取られて一面的な視点から報道されていることもあると感じる。

 そのため、読者や視聴者の大半は偏った理解をしてしまっていることも多数見られる。

 とはいえ、マスコミを「マスゴミ」と批判して、メディア報道への不信を表明している人たちも、多くは、偏ったSNSの投稿やインフルエンサーの発言、偏向した一部のメディア報道を鵜呑みにしてしまっており、やはり偏った認識から逃れることはできない。

 現在に至っても、松本さんの主張、あるいは文春の主張の、どの点がどの程度正しいのか?  ということは不明なままであり、第三者が真相に近づくことは依然としてできていない状況だ。訴訟が取り下げられた現状を鑑みても、今後真相が解明されることも期待はできない。

 疑惑が払拭できたと言えない状況においては、吉本興業が言う「関係各所」(メディアや興行主を示していると思われる)も起用を尻込みせざるを得ないだろう。

■フワちゃんがダメで、松本さんがよい理由はどこにある? 

 直近で言えば、お笑いタレントのやす子さんにX上で暴言を吐いたタレントのフワちゃんの例がある。

 フワちゃんは、やす子さんに謝罪し、やす子さん側もそれを受け入れたのだが、3カ月以上経つ現在でも、フワちゃんの芸能活動は休止状態であり、SNS等での情報発信もなされていない。実質的に無期限休業状態と言える。

 松本さんが早々に芸能活動に復帰したとしたら、「どうしてフワちゃんはダメなのに、松本人志は許されるのか?」という疑問や批判は当然出てくるだろう。

 「フワちゃんの行為は事実であることが確定しているが、松本さんの行為は疑惑にすぎない」という言い分はあるだろうが、自分から訴訟の取り下げを行っていることを考えると、「疑惑にすぎない」という説明は容易には受け入れづらい。

 係争は終わったので、今度、疑惑を払拭する機会はないわけだが、ほとぼりが冷めていくにしたがって、徐々に露出を高めていくというやり方はなくはない。

 SNSやYouTubeなどの自己完結できる媒体から活動を再開していき、吉本興業の管轄下である劇場での公演に出演し――ということであれば、比較的ハードルは低い。実際に、過去に不祥事を起こした吉本興業所属の芸人でも、そのような形で復帰をしている例も多い。

■部分復帰はあっても、完全復帰は難しい

 一方で、以前のように地上波放送、特にキー局のテレビ番組に出演できるようになるには、むしろハードルは上がってしまうだろう。闇営業問題で干された、元雨上がり決死隊のタレント、宮迫博之さんは、再びローカル局のテレビ番組に出演するまでに5年間を要している。

 「Me too」運動、さらにはジャニーズ問題以降、性加害疑惑に対しては、メディアやエンタメ関係者、そして世論も厳しい目を向けるようになっている。

 さらに厳しいのは、広告への起用である。メディアよりも、一般企業の方がコンプライアンスに対して厳しい基準を設けている。ジャニーズ問題に際し、メディアよりも先に、広告主が旧ジャニーズ所属タレントの契約を終了したことを思い出してみればわかるだろう。

 松本さんの性加害疑惑が発覚した後に、松本さんの芸風が他人を落とす「いじめ芸」として批判を浴びた。その批判の正当性はさておき、松本さんが芸能活動に復帰した際に、以前の芸風で活動できるのか?  という疑問もある。

 松本さんの言動に、セクハラ、パワハラを想起させるものが多少でもあった場合、このたびの件が蒸し返され、批判を浴びるであろうことは十分想定される。一方で、いまから芸風を変えることも難しいだろうし、芸風を変えて「面白くなくなった」と言われることも不本意なことだろう。

 係争は終了となり、強制性は確定されなかったが、このご時世において、松本さん完全復帰までの道のりはだいぶ遠いように思えてならない。

東洋経済オンライン

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最終更新:11/9(土) 15:32

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