裏金事件再発防止の法改正で「与党内対立」の混乱 自民独自案にも批判噴出、会期内成立に暗雲

5/21 6:32 配信

東洋経済オンライン

 終盤国会の最大の焦点となる巨額裏金事件を受けた政治資金規正法改正を巡り、岸田文雄首相(自民党総裁)が窮地に追い込まれている。いったんは与党案取りまとめで合意した公明党が、土壇場で自民との共同提出を拒否したことで、「与党内対立」が露呈したからだ。

 慌てた岸田首相(自民総裁)や茂木敏充幹事長ら自民執行部は、やむなく5月17日に党独自案をまとめて国会に提出、これを受けて同22日から衆参の政治改革特別委員会での法改正を巡る与野党協議が本格化する。ただ、この自民案には野党だけでなく与党内からも「極めて不誠実な内容」(閣僚経験者)との声が噴出しており、政権の命運も懸けて早期決着を目指す岸田首相は、厳しい対応を迫られることになる。

■法改正の具体的内容について足並みそろわず

 その一方で、法改正の具体的内容については、野党側も足並みがそろっておらず、会期末が1カ月後に迫る中、与野党双方に「会期内決着は困難」(公明党幹部)との見方も広がる。その場合、政府は会期を延長せざるをえないが、これには岸田首相がなお執念を燃やす会期末解散の可否が絡むため、終盤国会での政局大混乱の要因にもなりかねない。

 しかも、そのこと自体が「与野党双方が裏金事件再発防止のための法改正より、政局的対応を優先する異常事態」(政治ジャーナリスト)ともなり、裏金事件に対する国民の政治不信をさらに拡大させることは避けられない。規正法改正での拙劣な対応もあって支持率低迷が続く岸田政権にとって、「近い将来、破れかぶれ解散か早期退陣かの重大な選択を迫られる」(自民長老)ことも想定され、政局は会期末に向け緊迫化しそうだ。

 今回の規正法改正を巡る与党内調整では、大型連休明けから岸田首相が自ら陣頭指揮する形で、公明の説得工作に腐心した。しかし、山口那津男同党代表は最終調整の場となった5月13日の政府与党連絡会議で、「現状では与党案の法案化は困難」と宣言、野党との協議先行を求めた。

■「同じ穴のムジナ」批判を恐れる公明

 公明が自民との共同歩調を避けた背景には、「法改正で安易に自民と妥協すれば、同じ穴のムジナとみられる」(幹部)との強い危機感があったとされ、「与野党協議を優先した形で決着させないと、国民の批判をかわせない」(同)との思惑からの対応だったことは間違いない。

 そうした状況を受けて自民がまとめた独自案は①パーティー券の公開基準額を現行の「20万円超」から「10万円超」に引き下げる②党から50万円超の政策活動費を受け取った議員は項目別の支出額を党の収支報告書に記載する――などが主な内容。注目された政治資金パーティーに関する「公開基準額」については、当初から「5万円超」を主張した公明に対し、自民側は「受け入れられない」として折り合わなかった結果だ。

 一方、野党側はパーティーの全面禁止や企業・団体献金の禁止を掲げているが、自民はいずれも無視する形で独自案をまとめて国会提出。これを踏まえ、立憲民主は国民民主、衆院会派「有志の会」と連携して対案をまとめ、20日に共同で国会に提出した。

 この対案は、国会議員の責任を厳格化する「連座制」導入や、政策活動費の禁止が主な内容。具体的には①議員に政治資金収支報告書の記載・提出義務を課す②不記載で有罪になれば公民権停止③政策活動費の根拠規定の削除――などとしており、3党派は自民案への対案として、成立を求める方針。

 これに先立ち、与野党は国対レベルの協議で、まず週明けの20日と22日に衆参予算委員会での「政治と金」をテーマとする集中審議を設定、岸田首相に自民の規正法改正案についての見解をただすことを決めた。このため、特別委での同改正案を巡る審議は、22日の各提案者の趣旨説明とこれに対する質疑で本格化することになる。

 野党第1党として審議の主導権を握りたい立憲は、他野党とも連携して自民案より厳格な「連座制」の導入や、「政策活動費の禁止」などを掲げ、「与党は野党案を丸呑みすべきだ」と攻勢をかける構えだ。

 これに対し、自民党は独自案を土台とした規正法改正案の月内衆院通過を狙い、公明も含めた各党との調整に全力を挙げる方針。自民党としては「野党の主張にも一定の配慮をしての軟着陸」(国対幹部)を目指すが、今後の与野党協議は難航必至で、首相が“公約”した当初会期末までの改正法成立は、「全く見通せない状況」(自民国対幹部)だ。

 しかも、攻勢をかける野党側にも足並みに乱れが目立つことがさらに事態を複雑化させている。立憲は政治資金パーティーの全面禁止案を同党単独で20日に衆院に提出。日本維新の会は調査研究広報滞在費(旧文書通信交通滞在費)の使途公開について、独自に自民党と折衝して前向きに対応す
るよう要求している。一方、共産党はすでに「企業団体献金全面禁止案」を国会提出するなど、野党の対応にもばらつきが目立つ。

■シナリオなき各党協議の行方は「予測不能」

 こうした状況から、今後の特別委での審議と各党協議は「最近例のない、シナリオなきぶっつけ本番で、しかも各党入り乱れての駆け引きばかりが前面に出る異常事態」(閣僚経験者)となるため、「結末は予測不能の状態が続く」(自民長老)との見方が広がる。

 週明けの20日午後に開かれた衆院予算委集中審議では、野党側が自民の独自案について「提出が遅いうえに中身が薄っぺら」「抜け穴だらけで絶望的にお粗末な案」などとそろって厳しく批判し、企業団体献金などについて、それぞれの立場から、岸田首相の踏み込んだ決断を求めた。

 これに対し、岸田首相は「裏金事件の再発防止に向けて実効性のある案を作った」「企業団体献金と政党助成金の関係については、他の収入とのバランスを考慮してまず透明度を上げるのが重要」などと従来通りの建前論を繰り返すにとどめた。

 さらに、裏金事件の中心人物とされる森喜朗元首相への再聴取についても、「推測の域を超えて具体的な関与は確認できていない」とこれまで通りの答弁をしたうえで、「再聴取は考えていない」と明言した。

 ただ、自民が過半数割れしている参院での22日の予算委集中審議での野党側の追及は、さらに厳しくなるのは必至。このため、自民は公明とも連携しつつ水面下での対野党折衝に臨むことになるが、その過程で岸田首相が自民総裁として踏み込んだ決断をできるかどうかが当面、最大の焦点となりそうだ。

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最終更新:5/21(火) 6:32

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