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28歳書評家が「ブックオフ」に愛と感謝を語る理由 「チェーン=貧困の代名詞」という考えに疑問

8/6 9:01 配信

東洋経済オンライン

古本屋チェーンとして一世を風靡し、現在ではCDやDVD、家電やブランド品なども扱う総合リユース店として知られるブックオフ。創業当初は「出版文化を破壊する」存在として、業界内外から批判されることも多かったが、はたしてそれは本当なのか。
この連載ではそんな疑問を土台に、10代~30代の若者の目線から、ブックオフという存在を再考していく。筆者は『ドンキにはなぜペンギンがいるのか』(集英社新書/以下、『ドンペン』)を刊行し、チェーンストアを通して現代の消費空間、都市空間を語る24歳のライター・谷頭和希氏だ。

初回となる今回は、初エッセイ『それを読むたび思い出す』(青土社)を今年2月に上梓し、ブックオフへの愛を語ったことで話題となった書評家・三宅香帆氏と谷頭氏の、20代同士の対談をお届けする。

■「ブックオフは出版業界を壊す」は本当だったのか? 

 谷頭:最初に、三宅さんの自己紹介をお願いします。

 三宅:1994年生まれで、出身は高知県です。大学・大学院時代は京都にいて、大学院在学中に『人生を狂わす名著50』(ライツ社)という本を出し、それから書評家として活動しています。最近では『それを読むたび思い出す』という、初めてのエッセイ集を刊行して、その中にブックオフの思い出も書いています。

 谷頭:三宅さんと僕とでは、生まれや書いているものはかなり違うんですが、それでもブックオフについては同じような経験をして、同じことを感じている気がします。とくに、ブックオフに代表されるチェーンストアが、地域の文化や共同体を壊していく、という紋切り型の批判に対する疑問。

 「2000年代、ロードサイド型のチェーン店が増え、ローカルな店舗が潰れていった」という教科書の記述を、学校の先生が「グローバリゼーションがローカル性を略奪する」と批判的に説明する一方、チェーン店の恩恵をたっぷり受けていた三宅さんは「そうかなあ」と首を傾げていた……『それを読むたび思い出す』ではそんな学生時代の思い出が描かれていますが、僕も『ドンペン』の中で、まさに同じことを指摘しているんです。

 三宅:本当に同じことを書いてて、私もびっくりしました。谷頭さんの本の中では、多木浩二の評論「世界中がハンバーガー」(※)について言及されていますよね。

編注1:多木浩二(たきこうじ、1928年12月27日ー2011年4月13日)。日本の美術評論家・写真評論家・建築批評家
編注2:初出は『都市の政治学』(岩波新書)
 谷頭:ファストフードの普及によって、その土地にもともと根付いていたオリジナルな食文化が希薄になって、「世界中どこでも同じ」食の風景が生まれたことを批判的に書いていまよね。

 三宅:私も国語の授業で読んだ記憶があるんですが、あれってけっこう、私たちの世代の中では共通の思い出なんじゃないかと思っているんですよ。当時は「グローバルvsローカル」みたいな構図が、授業でも取り上げられていましたね。

■「チェーンストア=良くないもの」なのか? 

 谷頭:多木は戦争を経験した世代ですし、その後、日本に訪れたアメリカ化の波に危機感を覚えたのも理解できるんですが、これだけチェーンストアが社会に根付いた今でも、「チェーンストア=良くないもの」と扱われるのが、あまり納得できないんです。今も高校国語の教科書には「世界中がハンバーガー」が掲載されているんですよ。

 三宅:今も載ってるんですね。

 谷頭:そうなんです。実際、古本屋チェーンのブックオフも、創業してからしばらくは「地域の書店を廃業に追い込み、出版業界を破壊する」と非難されていたわけですが、チェーンストアが地域の文化を駆逐し、その町の固有性を希薄化する、という認識は今でも根強いですよね。

 要するに、どこも同じような街並みになるということなんですが、そのせいか、チェーンストアは「文化の貧困さ」を表す記号としても働いている。

 三宅:たしかに、ローカルな地元らしさを失わせた面もあったのかもしれないけど、私としてはチェーンストアはむしろ「文化の分配」だと感じていました。友達と喋るココスやミスドも、好きな本や映画に出会わせてくれたTSUTAYAもチェーン店ですから。逆にチェーン店がなければ、本当に何もなくなってしまうんじゃないかな。

 谷頭:「無」の状態と言いますか。

 三宅:高知って流通が遅い場所で、当時も漫画の新刊がだいたい遅れて入ってきてたんです。また、首都圏の書店なら置いてあるような本がないこともあって、自分が本や漫画が好きなのに、それにアクセスしづらい状況でした。だからこそ、本好きとしては新旧やジャンルを問わず、さまざまな本が雑多に置いてあるブックオフがあって、とてもありがたかったんです。

 谷頭:東京で過ごしているとわからなくなりがちですけど、「文化を摂取できる場所が、TSUTAYAとブックオフぐらいしかなかった」人ってたくさんいますからね。それに、そもそも生まれた時からチェーンが側にある世代としては、「町の固有性を……」と批判されても「そう言われても、自分はあそこのチェーン店が原風景の一部だし、思い入れもあるし」となってしまう。

 三宅:本当にそうなんですよ! 

 谷頭:ちなみに、『ドンペン』を発売したのは今年の2月なんですが、三宅さんの『それを読むたび思い出す』も2月発売で、執筆期間を考慮してもほぼ同じ時期に書いているんです。同時代性を感じますし、上の世代の人と僕らの世代では、ブックオフを始めとする、チェーンストアに対する感じ方も変わってきているんじゃないかと思っています。

■本好きの子どもたちの味方な「105円コーナー」

 谷頭:そういうチェーンストア批判があることを踏まえたうえで、本連載はブックオフを再考するという企画なんですが、そもそもブックオフとの出会いはいつだったんですか? 

 三宅:出会ったというよりも、気づいた時にはあった、という感じです。小学校2年生のとき、はじめてひとりで漫画を買ったのもブックオフだったんですよ。京都に引っ越してもブックオフが近くにあって。いつもの集合場所の横にブックオフがあったので、つねに行ってましたね。

 谷頭:ブックオフの歴史を見ても、直営1号店のオープンは1990年で、2000年には500店舗に達していたので、30代中盤ぐらいまでの人はわりと「気づいた時にはあった」「原風景の一部になっていた」んだと思います。そこは、40代以降の人との違いですよね。

 僕はと言うと1997年の生まれで、東京・池袋で育ったんですが、三宅さんと同じように、気づいたらブックオフの中にいましたね。家族がよく行っていたので、自然と足を運ぶようになっていた。中高生だと、本と出会う場所として学校や地域の図書館もあるけど、揃ってない本も多いですよね。シリーズ物だと途中が欠けてたり……そうするとブックオフの出番になる。

 三宅:私も、学校の図書室で見つけた作家さんの本を、ブックオフの105円棚(現在は110円)で片っ端から買ってました。

 谷頭:どんな作家さんの本を買っていたんですか? 

 三宅:俵万智さんや、恩田陸さんなどですね。恩田さんって、とても作品数が多いじゃないですか。全部は図書館で借りられないので、ブックオフで買ってましたね。

 谷頭:105円コーナーで目当ての商品を探した思い出って、絶対にみんな持ってますよね。僕もディズニーランドの昔のガイドブックをそこで集めたりして。ブックオフだからこそ出会える本なんですよ。

■ブックオフが「職業・書評家」につながった訳

 谷頭:とはいえ、今はネットが発達して、オンラインで本を買うことも増えています。でも、Amazonのサイト内で本を探す感じと、ブックオフの中で本を探す感覚って絶対に違うと思うんです。

 「では、なぜ自分はブックオフの空間に惹かれるんだろうか?」っていうのはずっと思ってて。三宅さんは、ブックオフの空間の面白さはどこにあると思います? 

 三宅:ブックオフって「これが売れてますよ」ってレコメンドしてくる棚がほとんどないじゃないですか。私はそこが魅力だと思います。売れ筋の棚みたいなものもあまり見かけないし、あと、何が新刊かわからないのもいいですよね。文脈がない。

 谷頭:全部がフラットに扱われてる感じというか。

 三宅:そんな中に入って、「いくらでも居て良いからさ、何でも好きな本見て」っていう感じが好きかもしれない。そこに誰の意図もなく、さまざまな本が置いてあることが、一番の魅力に感じますね。

 谷頭:書店チェーンでいうと、蔦屋書店の対極ですね。もちろんそれは蔦屋書店の魅力でもあるのですが、あそこは店がテーマ性に基づいた商品を徹底的に押し出しているので。

 三宅:だから、ブックオフが「こういう本を売ります」って言い出したらちょっとショックですよね(笑)。

 谷頭:とてもわかります(笑)。三宅さんの本では、『源氏物語』から『推し、燃ゆ』、果ては『トーマの心臓』までが紹介されてますよね。時代もジャンルもバラバラなものが全部フラットに入ってるところに、今話されたブックオフっぽさを感じました。

 三宅:そうですね、そういう感覚はあるかも。今、自分が書評家として活動できているのも、売れ筋の本だけを読んでたわけじゃなかったのも大きいなと思っていて。みんなと同じように、流行の本だけを読んでたら、差別化ができてなかったと思うんです。ブックオフみたいに、昔の本も今の本も雑多にある中で本を探して読んでたのが今につながっているな、と感じますね。

 谷頭:三宅さんを作ったのは、まさにブックオフという環境だったんですね。

■ブックオフのエモさと、それでも潜む愛好家たち

 谷頭:ただ、こうやってチェーンストアを大きく話題にすることってなかなかないですよね。あんまり他人とチェーンストアの話とかしないし。

 三宅:ブックオフにしても、友達と行くよりもやっぱり自分ひとりでフラッと行く場所ですよね。だから、 周りがどれぐらい行ってたのか知らないですね。でも、『それを読むたび思い出す』の感想で、意外とブックオフの部分に言及してくれる人が多いんですよね。みんなひとりでふらっと行ってたのかな、と思います。

 谷頭:じつは潜伏してるんですよね。

 三宅:そう、わざわざ言わないんですよ。

 谷頭:「これからブックオフに行きます!」とか友達に言いませんしね(笑)。隠れキリシタンならぬ、隠れブックオフ好き、みたいな感じで、意外とそこかしこに潜伏している可能性があると思います。

 これは伝わるかわからないんですが、自分は「ブックオフの異様に明るい店内」ってのを想像しただけで、なんだか“エモさ“を感じるんですよね。

 三宅:あ、すごいわかります。あそこでしか接取できない、謎の明るさ栄養分がありますよね。

 谷頭:その感覚を理解してもらえるのはすごくうれしいです。”エモ”って漠然とした感覚だから、言い切っていいのかって不安で。でも、ブックオフに対してこういうエモーショナルな感情を抱いてる20~30代ぐらいの人って、結構いるんじゃないかなと思うんですよね。

 三宅:やっぱり、みんな10代の時によく使ってた場所にはエモさを感じるんじゃないですかね。ブックオフっていうと、どこにでもある感じがするけど、故郷のあの場所にあった「あのブックオフ」っていう具体的な場所が思い浮かぶからこそ、懐かしさを覚えて、エモく感じるんじゃないかなと。

 谷頭:各々の思い出にとても具体的に関わっているからこそエモく感じられるし、それはある意味では故郷の風景なのではないか、と。面白いです。

■ブックオフの「入り口」としての機能

 谷頭:出版を経験した今では、ブックオフで時々、自分の本を見つけることもあるんです。

 三宅:自分の本を見つけるとめちゃくちゃうれしいですよね。

 谷頭:著者の立場からすると「新刊書店で買ってほしい」と思う人も多いでしょうけど、そこにはあまりこだわりはないんですよね。

 三宅:そうですね。ブックオフにあるというのはそれだけ新刊が売れている証拠でもありますし、あとは私自身が、ブックオフで育ってきて、ブックオフでお金のない時代を過ごしてきたのもあります。

 谷頭:感謝というか、恩返しというか。

 三宅:そうそう。そもそも最初に、ブックオフという入り口がなかったら、本好きになってないよなって思うんですよ。

 谷頭:僕自身は、個人経営の書店を批判するつもりはなく、かと言ってブックオフと比べてよりローカルで文化的に優れていると主張するつもりもなく、「ブックオフも個人経営の書店も、どちらもあったほうが豊かだよね」と思っている人間です。

 三宅:私も同感です。

 谷頭:そういう意味では、最近は個人経営の凝った書店も増えてきている印象なんですが、小中学生ぐらいだと敷居が高くて入りにくいと感じます。その年代だとやっぱりブックオフがいちばん入りやすい。入り口としての機能は、地方も都心も関係なく同じなんじゃないかなと思うんです。

 三宅:あとは、現実的に子どもたちにはお金の問題もありますよね。今は書籍の値段が昔よりも上がってますし、マンガだと巻数も多いし。たくさん読みたい子どもにとって、ブックオフは読書へのハードルを下げてくれてると思いますし、それぐらいの余裕すらないと、結局業界も衰退するんじゃないかなって。

 私自身、そうやって本好きになりましたし、大人になった今でも「新刊を買いに本屋さんに行くか」ってなるのも、ブックオフという入り口があったからだと思うんですよね。

 谷頭:最後に、一応読者の皆さんにお伝えしておくと、僕たちのような考えを持ってる人が同世代の中でも多数派かと言われると、まだ確信が持てないところもあって。本好きって時点で今や少数派ですし、こういうことを語る機会もなかったから、同世代の共通認識じゃないかと思いつつも、問いかけている最中なんです。

 カルチャー系のメディアならさておき、東洋経済オンラインだと、僕たちの考えが20代の総意のように見えるかもしれないからそこはきちんと言っておきたい(笑)。

 でも一方で、こういうことって、いざ誰かが口に出し始めたら、共感する人は少なくないという確信もあって。だからこそ、僕としてはこの対談がブックオフをはじめとする、チェーンストア再評価の議論の出発点になればいいなと思っています。

東洋経済オンライン

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最終更新:8/6(土) 9:01

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