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東武「台風で浸水」想定、列車避難計画の現実味 深夜に高架へ移動訓練、車内に「仮設本区」

7/7 4:31 配信

東洋経済オンライン

 浅草と北関東を結ぶ特急や地下鉄直通の通勤車両が行き交う東武鉄道の東武スカイツリーライン。北千住駅―北越谷駅間は、国内私鉄で最長の18.9kmを誇る複々線区間で、各駅停車と優等列車を同方向に並べて走らせることができる。そのほとんどは高架区間となっている。

 北千住駅の乗降人数は東武の本線系統で最多(2020年度1日平均)。地下鉄日比谷線への直通のほか、千代田線、JR常磐線、つくばエクスプレスに乗り換える通勤・通学客でにぎわう。2番目に多い新越谷駅は、高架のJR武蔵野線をさらに跨ぐ高さが特徴で、同線の南越谷駅との乗換駅だ。

■越谷駅に列車が“避難”

 北隣の越谷駅は、北越谷、越谷レイクタウンと周辺に「越谷」を冠した駅が複数あるなかで、市役所にも近く、古くから街の中心部に位置する。上り・下りそれぞれに島式ホームを挟んで急行線と緩行線、その外側に通過線がある2面6線の駅構造になっている。

 7月3日の終電後、静まり返った深夜の越谷駅に6本の電車が集結する光景が見られた。これは東武鉄道が東武スカイツリーライン、日光線、東武アーバンパークラインの一部区間を対象に実施した「車両避難訓練」の一場面。台風の接近を想定して「あらかじめ策定した避難計画案に基づき、車両を車両基地から非浸水エリアである高架区間に移動させる」ための手順を確認する目的だ。

 車両基地の南栗橋車両管区から2本、春日部支所から4本の列車を越谷駅まで臨時回送列車として走らせたほか、東武アーバンパークラインでも七光台支所から2本の列車を高架の野田市駅へ移動させた。乗務員は業平橋、春日部、南栗橋、七光台の各乗務管区から参加した。

 春日部からの避難車両の内訳は、日比谷線に直通する座席指定列車「THライナー」用の70090型7両編成と、特急「リバティ」用の500系6両編成が1本ずつ、通勤車両の70000型7両編成が2本。7月4日1時15分から1時35分にかけて車両基地最寄りの北春日部駅を出発した。同じころ、南栗橋駅を50000型10両編成2本が発車している。

 このうち、春日部支所所属の500系は「非常持ち出し備品」を積み込み、1時20分に北春日部駅を発車した。上り線を走り、越谷駅をいったん通過。草加駅を経て、北千住駅構内の引き上げ線で折り返し、下り線に入って北上、2時12分ごろに越谷駅の下り急行停車線に到着した。

■車内での出発点呼も

 前後してほかの列車も続々と入線。下り通過線から上り緩行線までの4線に6本の列車が収まった。越谷駅の通過線に通勤車両、急行停車線に特急車両が留まるのは、普段なら見られないはずの並びだ。2時30分ごろにはすべての対象列車の避難が完了した。

 500系に載せた非常持ち出し備品には、水やかんぱんといった食料のほか、アルコール検査器や出発点呼簿など、列車運行の必需品が含まれる。乗務管区が浸水して使えなくなった場合は「仮設本区」を設置する必要があるためだ。訓練では運転再開時を想定し、500系車内の仮設本区で乗務員のアルコール検査や出発点呼をシミュレーションした。

 車両避難訓練は2021年にスカイツリーラインで2本、アーバンパークラインで1本を使って実施したことがある。2022年は本数を拡大、関係する各部署への負荷を増やした。同社運輸部運転課の課長補佐、友寄孝信さんは「実際に逃がす場合は、車庫からどう出すか、混乱も予想されるが、訓練を積み重ねることでできる限り計画に近づけていきたい」と狙いを話す。

 運輸部管理課の課長補佐、長秀明さんも「いかに身に迫っていることなのか実感してもらう工夫が必要だ。『訓練のための訓練』にならないように、いつ大規模な命令が下っても対応できるように練度を高めておく」と強調する。

 関東平野を広くカバーする東武鉄道の沿線には利根川や荒川といった大型河川が流れている。国土交通省国土地理院が公開している「重ねるハザードマップ」を見ると、洪水によって想定される浸水深は、南栗橋車両管区で3.0~5.0m、新栃木出張所と春日部支所で0.5~3.0m、七光台支所に至っては5.0~10.0mとなっている。一方、東上線・越生線は車両留置場所としては浸水域がない。

 東武鉄道が2021年9月に発行した『安全報告書』は、大規模災害に対する備えとして「大規模な台風等で浸水被害の可能性が懸念される車両基地等については、留置している車両を浸水の及ばない高架区間等に避難させる車両避難計画を整備しています。車両の浸水被害を防ぐことで、事業継続へのリスクを低減させます」と説明している。

 同社の車両避難計画では、本線系統に所属する200本以上の編成は、パズルを組み立てるようにすべてを高架区間など安全な場所に留置できることになっている。傾斜や踏切の位置を考慮したうえで、駅の各ホームに1本、前後の閉塞区間に1本を止める。例えば、複々線区間は草加駅に13本、越谷駅に10本、途中駅は4本ずつ――といった具合だ。春日部支所所属の500系なら浅草駅の3番線と4番線、とうきょうスカイツリー駅の上りホームに1本ずつ、などと避難場所もあらかじめ決めてある。

■避難車両にも優先順位

 全列車の避難は“理論上”可能とはいえ、相手は自然災害。時間や手配できる乗務員が限られるおそれがある。そのような場合も想定し、避難させる編成の優先順位も決めてある。「資産保全」の観点から新しい車両や特急車両、また他社線への影響を考慮して地下鉄直通用車両が優先される。アーバンパークラインの場合は60000系、10000系、8000系の順になる。状況によっては浸水から救えない車両も出てくることになる。

 また、車両を避難させるには、事前に運転取りやめを予告する「計画運休」の実施が前提になる。避難作業は、夜間の車庫の状態、つまり翌朝に備えたのと同じ車両配置に戻してからスタートさせるからだ。計画運休は原則、2日前までに「実施の可能性について」、前日までに「実施について」の情報発信をすることにしている。車両避難を伴う計画運休はさらに前倒しが求められるといい、結果的に被害が軽微だった場合でも、運休開始から運転再開までに数日を要することが避けられない。

 最近は災害の激甚化で毎年のように全国のどこかで鉄道施設が被災をしていて、東武の車両避難計画の実行も現実味を帯びている。一方、計画運休についてはようやく実施のハードルが下がってきたばかり。大型台風が近づいているのはわかっているが青空が広がっている、などといった緊迫感が薄いなかで数日にわたる運休が受け入れられるのか。車両避難のためには利用者のこれまで以上の理解が欠かせない。

東洋経済オンライン

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最終更新:7/7(木) 4:31

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