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素通り観光列車に「ドア開けて」、地元学生の奮闘 JR日下駅おもてなし活動は「乗客の下車」目指す

7/6 4:31 配信

東洋経済オンライン

運転停車ーー。駅に到着してもドアが開かず、客が乗り降りできないという扱いです。JR日下駅は観光列車が県外から来た多くの客を乗せて運行しているにもかかわらず、運転停車のため客が下車しない駅の1つです。そんな日下駅で、乗客の窓越しに懸命に観光PR活動をしている学生たちのグループがあります。メンバーの1人から手記が寄せられました。
 私は、高知大学の学生として地域住民とともに、2021年7月より高知県中部に位置する日高村の日下駅で、JR四国が運行する観光列車のおもてなし活動に携わっている。おもてなしをしている観光列車は、高知駅から窪川駅の間を運行する「志国土佐時代(トキ)の夜明けのものがたり」。所属する団体は「日高村おもてなし楽会」だ。

■トマトやオムライスが名物

 大学進学前より日本各地を旅行していた私は、さまざまな場所を訪れる中で廃屋やシャッター商店街などを目の当たりにし、なぜこのような事態になったのかたびたび疑問に感じた。それがきっかけで、地方創生に興味を持った。衰退する地方の状況を少しでも改善し地域経済を活性化しようとする活動が「地方創生」であると知った。

 高知県は人口が大正時代並みの67万人台にまで減少し、県内総生産もほぼ全国最下位という、人もいなければ経済力もないという絶望的な現状である。しかし、その一方で、ユズやナスなどの農作物の生産量は全国トップクラス。高知県には活用次第で地方創生につながるポテンシャルが十分にある。そして私たちが活動している日高村にはトマトが名産品であり、ご当地グルメのオムライスもある。

 2021年7月初旬、大学の同級生といっしょに高知県中部にある日高村を訪問した際、「村の産業環境課が観光列車のおもてなし活動におけるサポーターを募集する」という話を聞いた。高知県内のポテンシャルを地方創生に活かすためのヒントを探るために、私はこのおもてなし活動に参加することを決めた。その時点では、まだ具体的な活動内容や団体名は決まっていなかった。

 私が最初におもてなし活動に参加をしたのは2021年7月24日だ。私を含め4名の高知大生が活動に参加してまず直面したのは、日下駅は運転停車の駅ということだった。つまり、列車は駅に停車するが車両のドアは開かない。乗客がホームに降りることはないのだ。このような不利な状況で効果的に地域のPRをしなければいけないという現実だった。

 乗客が駅に降りることができないのであれば、乗客の心に残るような窓越しのおもてなし活動を充実させたい。そのため、横断幕の制作のみならず、着ぐるみを制作したりコスプレをしたりするなどの工夫を凝らすことで、乗客に視覚的に楽しんでもらえるような活動を行うことにした。

 新しい発見もあった。この観光列車に運行開始から常連客として定期的に乗車しており、一般人でありながら沿線では誰もが知っている有名人、本田昇さんの存在だ。観光列車への乗車回数は2022年5月に150回を達成。驚くのはそれだけではない。居住地の大阪府から観光列車に乗るために毎週のように夜行バスを使って高知県まで来ているという。人をそこまで惹きつける魅力がこの土地にあるということがわかった。

■団体名は「おもてなし楽会」

 日下駅でのおもてなし活動は、しばらく団体名がないまま続けられていた。だが、あるときに私はふと「日高村おもてなし学会」という名称にしてはどうかと思いついた。日高村のおもてなしをより多くの人に認知してもらうことで村のPRや活性化につなげたいということと、ありきたりな名称にしたくなかったという2点が理由だ。

 さっそく、メンバーにこのアイデアを打診したところ、名称に関しては全員一致で賛成に。読み方は同じでも「学会」より「楽会」のほうがより楽しさが感じられて良いのではという意見が出たことから「日高村おもてなし楽会」として10月に正式決定した。

 日高村おもてなし楽会の着想は、私が高校2年生の時に大学受験における総合選抜に向けた準備と情報収集のために、静岡県富士宮市のご当地グルメ団体「富士宮やきそば学会」の故渡邉英彦会長にお話を伺ったことがきっかけとなり得たものだ。

 故渡邉会長は、「富士宮やきそば」を全国区の知名度に押し上げ、B-1グランプリ主催団体の会長として日本全国にB級ご当地グルメブームを巻き起こした立役者だ。富士宮市役所と富士宮やきそば学会事務局に問い合わせをしたところ、故渡邉会長に直接お会いし話を伺うことができた。地方創生には、多くの人に興味を持ってもらうことができる魅力的なキャッチコピー作りが重要になることを学んだ。

■おもてなし活動への参加で見えた課題

 継続して観光列車のおもてなし活動に参加をしていく中で、課題も見えてきた。理想はこのおもてなし活動がきっかけとなり観光列車の乗客に日高村に興味を持ってもらうことで、日高村のトマトやオムライスといった特産品などの販売に結び付けることだ。

 しかし、おもてなしをする側が横断幕やコスプレで観光列車の乗客に楽しんでもらうことが目的化してしまい、もともと考えていた地域経済の活性化にはつながっていないようにも感じられた。

 とはいえ、車両のドアが開かない運転停車という不利な状況のなかでできることには制約もある。2022年のダイヤで下りは8分停車するが、上り列車は2021年のダイヤでは運転停車時間は3分だったが、1分短縮し2分になってしまった。

 現場でやれることは、おもてなし活動の取り組みを継続的に行うことで、日下駅や日高村に関する乗客の関心を高めて、観光列車の停車時間の引き延ばしの実現や観光列車のドアを開けてもらえるような空気感を作り出すことだ。ドアさえ開けてもらえれば、乗客がホームに降りる。ホーム上で日高村の名産品をPRしたり、販売したりすることもできる。

 そこで、なぜ日下駅ではドアの開かない運転停車なのかJR四国に問い合わせてみた。同社によると、日下駅でのおもてなしについては「列車の賑わい作りや魅力向上につながっており、今や欠かせないイベントとなり乗客からも好評であることから、引き続き沿線地域と一体になって列車の運行を盛り上げていきたい」という一方で、ドアの開閉については「日下駅停車中の車内では上下便ともに食事やドリンク等の提供をしているため、車内に虫が侵入し飲食物に付着する恐れがあることからドアが開かない運転停車としており、今後もドアを開ける予定はない」との回答だった。

 日下駅は日高村の中心部に位置しており、駅周辺には村役場のほか、複数の飲食店やスーパーマーケット、ドラッグストアなどが立地しており、決して人里離れた山奥の無人駅ではない。

 実際、窪川駅から高知駅に向かう上り列車(開花の抄)では、食事の提供時間中となる須崎駅に19分間運転停車をし、ドアを開放するため乗客がホームに降りることができる。そのため、須崎市観光協会が中心となって、お土産配布や踊りをはじめ、部活動やサークル活動による発表、各種物販といったおもてなし活動が行われている。その一方で、日高村役場が中心となっておもてなし活動を行っている日下駅では、衛生上の問題を理由にドアを開けてもらえないという点はどうも腑に落ちない話だ。

 社会経験のない大学生の私ではこれ以上はどうにもならないことから、課題解決のヒントを探るために、地方創生の観点から見た今後の日下駅のおもてなし活動がどうあるべきかについて、両備グループの小嶋光信代表兼CEOに伺うことにした。

■「ビジネスセンスとしてはいかがなものか」

 両備グループは岡山県を中心に軌道事業とバス事業を展開するほか、和歌山電鉄の「たま駅長」目玉にした事業再建をはじめ、全国各地でローカル鉄道やバス事業の再建を積極的に手がけている。

 小嶋氏は両備文化振興財団が岡山市内で運営する夢二郷土美術館の館長も務めており、私はこの夢二郷土美術館で「こども学芸員」の活動を小学6年生の時から5年間続けていたことから小嶋氏とは面識があった。そこでインタビューを申し込んだところ快諾いただいた。

 おもてなし活動をしている日下駅で観光列車のドアが開かないJR四国の対応について、小嶋氏は「ビジネスセンスとしてはいかがなものか」という見方を示した一方で、「列車のドアが開かない窓越しのおもてなし活動をしている例はほかにない」ことから「うまく情報発信ができれば日本一の取り組みとして注目されるのではないか」と話してくれた。

 一方で、「地域のビジネスに結びつかないおもてなし活動が続くようであれば、参加者のモチベーションも下がり継続できなくなるのは時間の問題ではないか」という懸念も示した。「観光列車のドアを開け乗客がホームで特産品などの購入ができるようにすること」が重要で、「短い停車時間であっても申込書を配布すれば物販はできる」という。

 今後のあり方については、まずは「窓越しのおもてなし活動」の取り組みを続けることで参加者の意識を高め、JR四国に対しては、衛生面の問題で克服をしなければならない課題があるのであれば、その点について地域としっかりと情報共有をすることを前提としながら列車のドア開放の要請活動を行っていくことが重要になりそうだ。

 小嶋氏の話をもとに、日下駅のおもてなし活動を日本一にするための方法を原点に立ち返って考えたい。

東洋経済オンライン

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最終更新:7/6(水) 4:31

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