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アメリカの「景気後退懸念」はかなり行きすぎている

7/4 6:31 配信

東洋経済オンライン

 足元では、日本やアメリカなど主要先進国の株価指数は直近の底値を割り込むまでには至っていないものの、軒並み上値が重く、低迷状態にある。ただし、それは市場全体を表す指数についてであって、業種別の指数では、アメリカのSOX指数(フィラデルフィア半導体株指数)のように、底割れしているものも見受けられる。

■アメリカ経済減速は鮮明でも景気後退は「行きすぎ」? 

 そうした株価低迷の背景として、とくにアメリカの株式市場では、景気と企業収益の急激な悪化を懸念しているといわれる。確かに先週は、同国の景気減速を示唆する経済指標が相次いだ。

 例えば、有力調査機関であるコンファレンスボードの消費者信頼感指数(6月28日)は、5月分が106.4から103.2に下方修正されたうえ、6月が98.7とさらに低下した。また個人消費前月比(6月30日)は、4月が0.9%増から0.6%増に下方修正され、5月は0.2%増と伸び悩んだ。さらにISM(サプライマネジメント協会)製造業景況感指数(7月1日)は、5月の56.1から6月は53.0に低下した。

 とはいっても、上記で挙げた統計に限っても、個人消費は対前月で今のところまだ増えているし、ISM製造業指数も好不況の分岐点とされる50の水準は上回ったままだ。今すぐ景気後退が進行すると騒ぐのは、時期尚早と感じられる。

 同国における、GDP統計で測った実質経済成長率(前期比年率ベース)については、今年1~3月期が1.6%減となった。さらに、アトランタ地区連銀が数理モデルを用いて月次統計からGDPの予想を算出している(GDPNowと呼ばれる)が、その直近7月1日時点での予想値によれば、4~6月期も2.1%減と、2期連続のマイナス成長(景気後退)が見込まれている。

 その一方で、エコノミストによる予想の集計値としてよく用いられるブルーチップ調査の結果によれば、4~6月期は平均値で前期比3%近いプラス成長になるとの予想だ。調査対象の中で最も弱気(慎重)な10人のエコノミストの予想平均値を見ても、同四半期は1.5%程度のプラス成長が見込まれている。

 確かにアトランタ地区連銀「GDPNow」の大幅なマイナス見通しは市場の話題となっているが、その数値をそのまま鵜呑みにするのはためらわれる。

■アナリストは間違っている? 

 ところが、アメリカの株式市場において、投資家や専門家は「株価が低迷しているのは景気が悪化しているからに決まっている」と、株式市場の暗い雰囲気に心理的に飲み込まれ、悪い経済指標ばかりを大いに掘り起こして騒いでいる。

 実は企業収益見通しについては、ファクトセット社が集計するアナリスト予想の平均値で見ると、いまだに堅調だ。S&P500種指数採用企業の2022暦年のEPS(1株当たり利益)予想値は、直近の7月1日時点でも前年比10.1%の増益だ。

 ところが、こうした企業アナリストたちの利益見通しに対して、「株価がこれだけ冴えないのだから、アナリストの見通しは誤っている」と決めつける声を聞く。

 そうした声を報道する例は多いが、例えば6月28日付のブルームバーグニュースでは、複数のアメリカの証券会社幹部が、株式市場における暗い展望が正しく、アナリストたちが楽観的すぎる、と述べている。

 その記事では、ある幹部は「今後の企業収益についての展開は2つしかない」と語っている。その1つは、これからアナリストが自身の収益見通しを大きく下方修正する展開。もう1つは、アナリストが見通しをあまり変えないが、実際の企業収益の結果がアナリスト見通しよりはるかに悪いものとなる展開。このどちらかしかない、との発言だ。

以下は日本国内でのエピソードだ。前回の当コラム「『それでも米国株は年内上昇する』と予想するワケ」で前掲のS&P500ベースの収益見通しについて、6月3日時点では10.2%増益見通しだったものが、同月17日には10.6%に上方修正された、と書いたのを覚えておいでの方も多いと思う(それが7月1日時点では、前述のように10.1%に下方修正され、4週間前の水準にほぼ戻っている)。

 そうした「わずか0.4%幅ではあるが、アメリカでの収益見通しが6月17日に上方修正された」という点を、筆者が某都市で講師を務めたセミナーで、披露したときのことだ。

 すると、それを語った直後、セミナー会場には水を打ったような静寂が広がったのだった。「あれっ、アメリカの企業収益動向に、皆さんあまり関心がないのかな」と思ったら、その直後に会場がざわざわし始め、手が上がり始めて、参加者の方々が「収益見通しが上方修正されるはずがありません。馬渕さんの数字の見間違いではないですか?」「そのデータベースがおかしいのではないですか?」といった、とても上方修正などは信じられない、という声が次々とあがった。

 これも、投資家が株価の軟調な動向に心理的に支配され、実態の堅調さを素直に認めることができなくなっている、という現象を示しているといえよう。現実の経済や企業収益に基づいて株価が形成されるはずが、逆に株価の振れが景況感や企業収益の展望を歪めてしまっているのだろう。この点でも、足元のアメリカの株価(ひいては、それに引きずられている主要先進国の株価)は、売られすぎだと解釈される。

■インフレ懸念や長期金利上昇懸念はどこへ? 

 こうして行きすぎたアメリカの景気悪化懸念に支配されている主要国の株式市場ではあるが、少し前まで大騒ぎしていたインフレ懸念や長期金利上昇懸念はどこに行ったのであろうか。

 インフレについては、最終的な経済への悪影響を推し量るのであれば、消費者物価などの経済統計を見るべきだろう。エネルギーや原材料価格、賃金などが上昇し、それが製品やサービスなどの最終価格に転嫁されるには時間差があるので、物価指数の前年比での高止まりはまだしばらく続きそうだ。

 しかし、市場が最も憂慮してきた国際商品市況の上昇についてはどうか。まず原油の国際指標であるWTI原油先物価格は、6月は一時1バレル=120ドルを超える局面もあったが、足元では軟化し、6月22日には一時1バレル=101.53ドルの安値をつけた。先週末も108.46ドルと、110ドルを下回った水準で引けている。

 一方、幅広い産業で用いられる銅の価格は、ニューヨークの先物で見ると、すでに5月以降は軟化が目立っていた。最近では6月上旬に1ポンド当たり4.6ドル手前で高値をつけたあと、先週末は3.61ドルまで下落して引けている(なお、ロンドンの銅先物の週末引け値は1トン当たり8055ドルで、単位が異なることに留意されたい)。

 こうした国際商品市況の落ち着きもあって、アメリカの10年国債利回りは先週は2.89%と、2.9%をも割り込んで週を終えている。時間差を伴って継続する物価指数の高い上昇率に対応するため、連銀はまだ利上げを進め、短期金利の上昇は続こうが、長期金利は上げ止まった感も出ている。

 こうした国際商品の価格下落や長期金利の反落は、景況感の悪化による部分もあり、株式市場にとって手放しでは歓迎できない。しかし、これまで騒いでいたインフレの高進、長期金利の上昇と、景況感悪化の両方が、同時には成立しにくいということが、商品市場や債券市場によって示されたということだろう。まだ株式市場では2種類の懸念の同時進行を「スタグフレーション懸念」として騒いでいる感があるが、それも悲観にすぎると考えている。

 そうした「マクロ景気が強いから企業収益はよいかもしれないが、インフレが高進して金利が上昇するから株価が心配」という懸念と「マクロ景気が弱いから企業収益が悪化するので、インフレと金利が落ち着いても株価が心配」という懸念の間で揺れ動いているのは、全体観だけではなく、一部の業種についてもみられる。

 冒頭でSOX指数の底割れについて述べたが、以前は「半導体が不足しており、さまざまな製品(とくに自動車)が十分に生産できないので、供給不足から幅広い製品価格が上がってインフレが心配」と頭を抱えていたものが、今では「景気が悪化して半導体に対する需要が減って、半導体関連企業の収益が心配」と別の不安を騒いでいる。景況感がどちらに向かおうと、心配ばかりできる市場の能力には感嘆するばかりだ。

■「かど」が取れれば丸く収まる? 

 つらつら述べてきたように、いまだにアメリカの株式市場は過度の懸念にとらわれているように判断される。そうした悲観論の横行は、6月6日付の当コラムで紹介した、Fear and Greed Indexにも表れている。同指数は先週末でも24と、極度の悲観(0~25)の範囲にある。

 昔から「角」がとれれば「丸く収まる」というが、株式市場が大いに楽観とはならなくとも、過度の悲観の「過度」が取れ、景気や企業収益の実態を正しく反映すれば、株価が上昇して丸く収まるのではないだろうか。それはアメリカに限らず、日本株も含む世界株価にとっても、プラス要因だろう。

(当記事は会社四季報オンラインにも掲載しています)

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最終更新:7/4(月) 6:31

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