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アメリカ株の反転上昇がそう簡単ではないワケ

7/3 19:31 配信

東洋経済オンライン

 日本経済は輸入物価上昇に直面しつつも、周回遅れで経済活動の正常化過程にあり、先行きも政策支援とインバウンド再開に支えられながら対面型サービス業を中心に回復が予想される。日本株を取り巻く環境として、国内経済は比較的順調と評価して良さそうだ。

 実際、速報性に優れた6月PMI(企業景況感指数)はそうした見方を裏付けた。製造業PMIは52.7へと0.6ポイント低下したものの、2001年の統計開始以来の平均値50.7を上回って推移している。調査項目の内訳をみると、生産が(51.5から51.0)と新規受注(50.4から49.4)が分岐点とされる50超を維持し、雇用(51.9から52.0)も一段と水準を切り上げた。

 そうした中、サプライヤー納期は短縮化し、サプライチェーン問題の緩和を示唆している。また新規輸出受注(46.2から47.3)が増加方向に転じるといった前向きな動きもみられた。生産活動は半導体不足によって自動車生産の回復が遅々としているなか、非自動車・家電向けのIT関連財(半導体製造装置、部材、電子部品)の増産傾向が一服した可能性があるいっぽうで、内需回復により国内向けが持ち直し傾向を強めているとみられる。

■アメリカの「4つのインフレ要因」とは? 

 経産省公表の出荷内訳表によると4月までの傾向として国内向け出荷が息を吹き返しつつあることが示されていたが、こうした傾向は6月現在も続いているとみられる。そうなると夏場の日本株はアメリカの動向が重要になってくる。まずは現在のアメリカ経済を混乱に陥れているインフレの動向を整理する。アメリカのインフレの理由は大きく4つに大別できる。

 1つ目は「サプライチェーン問題」だ。自動車が作れず中古車を中心に耐久消費財の価格が上がっている。2つ目は「エネルギー」。ガソリンを含め一次産品価格が上昇し広範な影響をもたらしている。3つ目は「家賃」。消費者物価の約3割を占める家賃、直近は住宅ローン金利の急上昇などから住宅販売が落ち込んでいるため、来年までには低下が予想されるが、少なくとも現在は上昇傾向を強めている。そして4つ目は、一番厄介な「賃金」である。

 5月雇用統計の平均時給は前年比プラス5.2%と極端な伸び率にある。細かくみれば前月比の伸び率が減速傾向にあるなど瞬間風速は弱まっているが、依然としてFRB(アメリカ連邦準備制度理事会)が許容できるレベルではない。通常は好ましい現象である賃金の上昇も、ここまで極端になってしまうと高インフレの「原因」になってしまい、経済にさまざまな歪みをもたらす。特に影響が懸念されるのは低所得層だ。

 たとえば食費を例にとると、食料品価格が著しく上昇した場合に、中・高所得層は外食を控えたり、ふだん買っている食料品を安価なモノに切り替えたりすることで生活防衛が可能であるのに対して、元から最も安価なレベルの食料品を購入している低所得層はそうした選択肢を多く持たないため、生活コスト上昇を受け入れざるを得ず、結果として生活が苦しくなってしまう。賃金が上がっていたとしても、ベースの賃金が低い場合、物価上昇を全て吸収できるとは限らない。

 賃金インフレが沈静化に向かうか否かは、労働参加率にかかっていると思われる。労働参加率とは16歳以上の人口に占める働く意思のある人(就業者と求職者)の割合であるから、その低下は労働力の減少を意味する。需要が不変なら供給側要因でインフレが起きる。では直近の労働参加率はというと、5月に62.34%まで戻したが、依然としてパンデミック発生後に生じた「断層」は埋まっていない。

■今後は「労働参加率が戻るか」に注目

 そこで労働参加率を年代別にみると、25~54歳がパンデミック前の水準に接近するまで回復しているのに対して、55歳以上の戻りが鈍いという特徴が浮かび上がる。55歳以上の労働参加率が低いのは、いわゆるアーリー・リタイアによる労働市場からの退出が主因である。つまり労働者不足の主因、換言すればインフレの根源はこれら年代の早期退職であると考えることができる。

 今後、インフレに伴う生活コスト上昇、株価下落によって労働市場への再参入を検討する人々が増加し、55歳以上の労働参加率が回復すれば、賃金と物価の相互刺激的な上昇は一服し、全体としてインフレが落ち着く可能性は高いと判断される。今後、金融市場では労働参加率に対する注目が高まっていくだろう。

 労働参加率の上昇は、インフレの先行指標になり得る。同時にこのことはFRBの金融政策にも一定の影響を与えるだろう。もしFRBがインフレの最悪期脱出を認識して、金融引き締めの手を緩めるとしたら、8月のジャクソンホール講演がポイントになりそうだ。

 仮に7月26~27日開催のFOMC(アメリカ連邦公開市場委員会)の利上げ幅が0.75%だった場合、8月時点である程度インフレ沈静化の兆しが見えていれば、9月FOMCの利上げ幅を0.5%に縮小することを示す可能性があるからだ。そうなれば、アメリカの長期金利が安定し、世界の株価に追い風となると期待される。

 もっとも、金融引き締めの度合いが緩やかになるからと言って、株価が上昇基調に転じるかは別問題である。長期金利の安定はバリュエーション修正(PERの低下)に歯止めをかけるが、その間、企業業績の見通しが悪化すれば株価は下落する。その点、速報性に優れたアメリカ製造業PMI速報値は企業業績の悪化を想起させる結果であった。6月のヘッドラインは52.4へと4.6ポイントもの低下を記録した。すでに発表のNY連銀製造業景況指数、フィラデルフィア連銀製造業景況が共に弱い結果になっていたため、ある程度の弱さは想像できたが、それでもこの弱さは驚きであった。

■当面の日経平均は2万6000~2万8000円で推移か

 5月末まで続いた中国のロックダウン影響によって一時的に下押しされた可能性はあるが、高インフレによる個人消費の下押し、金融引き締めによる住宅関連需要の減退が効いたとみられる。サービス業PMIも51.6へと1.8ポイント低下するなど、インフレ退治の代償が大きいことを浮き彫りする結果であった。

 先行きのアメリカ株は金融引き締めの度合いがいつピークアウトするのか、景気後退懸念がどれくらい強まるか、この2点のバランスが重要になってくる。筆者は8月のジャクソンホール講演で9月FOMCの利上げ幅縮小がアナウンスされ、そこで長期金利が安定し、株価に対する逆風が止むと予想しているが、最近のアメリカ指標は景気後退懸念をそうさせるものが増加しており、仮に金融引き締めが終了したとしても業績不安がくすぶることで、株価が基調的に上昇していくかは微妙になってきたと言わざるをえない。

 そうしたなかで日経平均株価が上値を試すのは難しいだろう。国内景気の底堅さから判断して年初来安値を更新するとは考えにくいが、一方で3万円に近づく姿は想像できない。当面は2万6000円前後から~2万8000円のレンジで推移するのではないか。

(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

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最終更新:7/3(日) 19:31

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