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終末期患者を看てきたナースが思う「幸せな最期」~「つらい終末期を明るくすることはできる」

7/1 8:01 配信

東洋経済オンライン

終末期医療患者を中心に、病や障がいを抱える人の願いをかなえる付き添い看護サービス、「かなえるナース」。この事業を運営する株式会社ハレ代表の前田和哉さんによる初の著書、『自分らしい最期を生きた人の9つの物語』が6月に刊行された。

本書は、現役の看護師でもある前田さんがこれまでに出会った、「自分らしく悔いのない最期」を送った9人のドキュメンタリー短編集。自分や自分の大切な人がいつかこの世を去るときに、「後悔しないためのヒント」が実話を通してつづられている。

今回は、多くの終末期患者に寄り添ってきた前田さんに、「最期の日々を悔いなく生きるためのヒント」について、全3回でインタビュー。最終回は、誰もがいつかは迎える終末期をより幸せに過ごすための方法について伺った。
1回目:『「最期にビール飲みたい」願い叶えた看護師の想い』
2回目:『83歳、余命2カ月だった彼女が最期に味わった奇跡』

■つらい終末期を明るくすることはできる

 これまで救命医療や訪問看護の現場で、多くの終末期患者とかかわってきた前田さん。その現場経験で痛感したのは、終末期にさしかかると、どうしても病気の進行や症状を抑えることに重きが置かれ、それ自体が“生きる目的化”してしまう人が多いということだった。

 病の進行と闘う時間が1日の大半を占め、日常の喜びや楽しみを求めることが少なくなっていく。

 次第に身体の機能が低下し、少しずつ歩行ができなくなったり、食事もとりづらくなったりと、“できないこと”が増えていくことも、ますます患者の心に閉塞感をもたらす。その姿を間近で見ている家族も同様だ。

 死に向かって進んでいるのは事実なのだから、患者も家族もふさぎ込むのは当然かもしれない。だが、前田さんはそんな中でも「希望を持つことはできる」と話す。

 前田さんは、「かなえるナース」を立ち上げる少し前、訪問看護師をしていた頃に、末期がんだった義母を見送った経験がある。

 当時、まだ結婚前で交際中の時期に、彼女の母親が余命わずかであることを知った前田さんは、「亡くなる前に娘の晴れ姿を見せて、安心させてあげたい」と、急きょプロポーズ。婚約した彼女とともに、義母に「フォトウェディング(記念撮影のみの結婚式)」を贈ることにした。

 その計画を義母に伝えると、「お母さん、撮影の日までがんばるわ」と張り切り、早速入院先に外出届を出しに行くほど足取りが軽やかに。

 「彼女の衣装合わせにも同行するぐらい、いきいきとし始めたんです」

 だが、がんの進行までは食い止めることはできなかった。次第に肺に水がたまり、呼吸がしづらくなると、体力はガクッと低下。寝ている時間が増えていった。

 ベッドの上で天井をぼーっと見つめる義母の姿を目にするたび、胸が痛んだ前田さん。寝ている義母が少しでも楽しい時間を過ごせるようにと、病室にプロジェクターを持ち込み、天井に写真を映すことにした。

 病室の真っ白な天井に投影したのは、娘や息子たちの子ども時代の写真。彼女の実家の家族に頼んで、数百枚もの写真を集めたのだ。

 3人の子どもたちが生まれたときからの成長の記録をスライドショーにして映し出すと、義母は「わぁ、懐かしい。皆ちっちゃくてかわいいわね」と声を上げ、しばし昔話に花を咲かせた。

 「天井シアター」のアイデアは功を奏し、病に苦しむ義母を元気づけることができた。

■身体の痛みが不思議と消え、一気に元気に

 フォトウェディング当日は、身体の痛みが強く、起き上がるのもつらい状態だったが、痛み止めで抑え、なんとか無事に写真館に到着。少し前の元気だった頃の髪型に似たウィッグをつけ、黒留袖を着付けてもらうと、すっかりやせ細っていた義母が一気に華やいだ。

 そこに鮮やかな赤地の色打掛を羽織った娘が登場すると、「あら、馬子にも衣装ね!  成人式のときと同じで赤がとっても似合うわ!」と、一段と声が弾んだ。

 念願の撮影タイムでは、母と娘のツーショット撮影も行われた。母が娘の手を握りしめると、感極まった娘が思わず涙する場面も。母と一緒に晴れの日を迎えられた喜びと、もうすぐ別れが近づいていることの悲しみが入り混じったようだった。

 「体調のことを考え、和装の撮影が終わったら、義母は病院に戻る予定でした。でも、彼女の晴れ姿を見て気持ちが高揚したのか、『洋装の撮影も見たい』と言い出したんです。朝の痛みに耐えていた姿が嘘のように思えるほど、調子がよくなりましたね」

 義母は病室に戻ると、でき上がったばかりのフォトウェディングのアルバムを自分の胸元に置いて、眺めてはまた自分の胸元に置く。看護師が病室に来るたびに、うれしそうに写真を披露した。

 娘の結婚を見届けた安心感からか、その直後から起きられる時間が短くなった。撮影の日から3週間後。義母はもう苦しむことなく、穏やかな顔で息を引き取った。

■病に苦しむ母に目標をつくってあげたかった

 「妻はフォトウェディングを母に贈ることによって、『目標をつくりたかった』と言っていました。治る見込みがない中で闘病生活を送っていると、どうしても明るい話題がなくなっていきます。それがフォトウェディングを企画したことで、義母や僕たち家族に心が湧き立つような目標が生まれたんです。

 がんが進行するにつれ、身体はそうとうしんどかったと思いますが、それ以上に幸せを感じてくれたのではないかと。その証拠に、義母は最期に屈託のない笑顔をたくさん見せてくれました」

 この経験は、前田さんが「かなえるナース」の事業をスタートする、大きなきっかけにもなったと語る。

 結婚式など家族のお祝い事に出席する、あるいは行きたい土地に旅行に行くなど、イベント事を企画することで「未来への楽しみ」が生まれ、治療のためだけの日々が、生きがいのある毎日に変わる。

 「かなえるナースでお手伝いした患者さんの中には、行事に向けて気力や活力が増し、それまでもうろうとしていた意識がはっきりする方もいます。ベッドから起き上がれるようになったり、食事がとれるようになったりすることもありますね。実際、宣告された余命を大幅に超えて、半年以上長生きした方もいます。生きがいを見いだしたことによって、生命力が上がったのかもしれません」

 もちろん病状によっては、行事に参加することすら厳しい場合もある。それでも「できること」はあるという。

 例えば、本人が会いたい人に声をかけて病室に呼んだり、オンラインでつないで会話をしたりするだけでも、楽しい時間は生み出せる。状況が許すなら、前田さんが実践したように、病室や自宅の天井に本人の好きな映像や画像を映すこともできそうだ。

 「身体への負担をあまりかけずにできることって、実はたくさんあると思うんです。病室にお花を飾るように、毎日に小さな楽しみという“彩り”を添えていく。そうすることで、暗くなりがちな闘病生活を少しでも明るくすることができると感じます」

 また、闘病生活をより快適に過ごすには、身体の苦痛を和らげることも大切だと付け加える。

 「医師から『そろそろ緩和ケアに移行しましょう』と告げられると、『もう積極的な治療をしてもらえないのか』と悲観して、断ってしまう患者さんが多いんです。緩和治療を拒否したことで、すごく痛い思いをされながら入院している方も大勢います。

 緩和ケアにおいては、身体の苦痛を和らげつつ、化学療法など積極的な治療を行うこともできるので、医師に相談してみるといいかもしれません。治療も生きがいのある暮らしも、あきらめる必要はないと考えます」

■エンディングノートに書くだけでは不十分

 終末期を幸せに過ごすために、もう1つ重要なことがあると前田さん。それは、終末期をどこでどう過ごしたいのか、どのような最期を迎えたいのか、延命治療の有無も含めて、本人と家族、医療従事者の間で話し合っておくことだ。

 いわゆるアドバンス・ケア・プランニング(ACP)、通称「人生会議」の必要性を訴える。

 「『自分の意思はエンディングノートに書いておいたから大丈夫』という人がいますが、それだけでは不十分なんですね。その意思が家族や身近な人に伝わっていなければ、いざというときに周りが適切な対応ができなくなり、結果的に自分が望まない最期を迎える危険性があります」

 厚生労働省が推進する「ACP(人生会議)」においては、本人が自分の意思を一方的に伝えるというより、「家族や医療・ケアチームと繰り返し話し合うこと」を勧めている。

 「なぜ、話し合いを重ねる必要があるかというと、状況によって本人の意思が変わる可能性があることと、家族の側が本人に対して望むこともあるからです。

 自分は『家族に迷惑をかけたくないから、延命治療はしないでほしい』と思っていても、家族は『それでも本人に長く生きてほしい』と、できる限りの治療を望んでいる場合があります。お互いが納得のいく答えを見いだすためにも話し合いを重ねて、思いをすり合わせることが大切です」

■延命治療は悪ではない。望まない治療が不幸

 話し合いの際には、「かかりつけ医や担当の医師など、医療従事者もぜひ交えてほしい」と前田さんは強調する。

 例えば、延命治療にはどういうものがあり、治療を行うことによって実際にどのようなリスクがあるのか、当事者と家族だけでは把握しきれない部分がある。医療者の立場からの意見や情報を得ることによって、より適切で納得のいく選択がしやすくなる。

 「医師の意見を踏まえたうえで、延命治療を望まれる患者さんやご家族もいます。延命治療自体が悪いわけではなく、『望まない治療』が不幸を招いてしまうんですね。

 例えば、『いざというときに延命治療をされるのは嫌だけど、痛みなど苦痛だけは緩和してほしい』といった希望も医師に相談することができます。

 自身の望む最期を迎えるためにも、意思表示ができる状態のうちに、もっと言うと元気なうちに、家族や医療従事者も交えて人生会議を始められるとベストです」

東洋経済オンライン

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最終更新:7/1(金) 8:01

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