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日本全国で1570軒の空き家を生き返らせた!投資家が列をなす「空き家再生集団」のすごい手腕

6/26 6:01 配信

東洋経済オンライン

 2016年5月から2021年12月末までの約5年半で西は熊本県から大阪府、京都府などの関西圏、三重県、愛知県の中京圏、そして首都圏の一都三県で1570件の空き家を再生してきた団体がある。全国の空き家再生事例は多くても1エリアで40~50件という例までであることを考えるとこの数は驚異的だ。どうやればそれだけの数を再生できるのか。そこには目から鱗の手があった。

■ニーズが高い戸建て賃貸に目をつけた

 その団体、全国古家再生推進協議会(以下全古協)は2010年、リーマンショック後の不景気に悩む東大阪市の塗装関係の町工場経営者で、現在全古協の理事長を務める大熊重之氏の新規事業模索から生まれた。

 たまたま依頼された中古賃貸改装の成功をきっかけに、賃貸不動産の可能性に開眼した大熊氏は、1人の多能工が塗料を用いて行う低予算での差別化リフォームを開発。多くの賃貸マンションリフォームを受注すると同時に、多能工を養成するスクールも立ち上げた。

 だが、せっかく多能工を育てても営業力がなければ仕事にはありつけない。次の仕組みが必要と考えていたときに、今度は一戸建てのリフォームの依頼を受ける。大熊氏はそこで賃貸市場での一戸建ての少なさを知ることになる。アパート、マンションには賃貸に出すことを想定して建てられた物件が多くあるが、賃貸目的で建てられた一戸建ては皆無に近いのだ。

 一方、ペットや子ども、音の問題などから一戸建てを借りたいというニーズは非常に高い。借りたい人は多いのに、物件は少ない。しかし、幸いというべきだろうか、世に空き家は多く、これからも増える。であれば職人、工務店と空き一戸建て、改装、賃貸化、不動産投資家をつなげることで新しいビジネスが生まれるのではないか、と大熊氏は考えた。

 それを検証するため、大熊氏は自ら戸建てを買って賃貸オーナーとなった。その経験からわかったことは、空き家を賃貸住宅として再生して使われるようにするためには入居者に選ばれる、でも多額になりすぎない改修が大事ということ。収支が合わなければ投資する人が出てこないからだ。また、不動産投資家には横のつながりがなく、孤独であることもわかった。

 その結果が現在の全古協の仕組みだ。いくつか、これまでの空き家再生と異なる点がある。

 まず、大きいのは再生の主体になっているのが小規模な工務店であるという点。これまでは建築家、不動産会社が中心だったが、そこには問題があった。

 建築家は、建物はわかるものの、収支を考えるのは業務外と考える人もいるようで、しばしば採算度外視の改修をするのを見てきた。収支を考えない改修ではいくらすばらしい物件ができたとしても、家賃が高くなりすぎて入居者が決まらない、あるいは家賃を下げざるをえないことで投資を回収できない結果となり、1軒目は再生できたとしても次には続かない。

 一方、不動産会社は基本、貸す、売るが業務のため、建物がわからない。残置物であふれ、老朽化した住宅を改修して賃貸住宅化するという発想もノウハウもない会社がほとんどなのだ。また、低額な空き家を仲介したところで受け取れる仲介手数料は低く、たいした利益にならないから面倒と考えている会社も多い。売却を頼まれた空き家情報はオフィスの引き出しの奥深くにしまわれたまま、という例が少なくないのだ。

■投資家が損をしない改修のノウハウを伝授

 そこで全古協では、戦力としている工務店に不動産取引の知識や地域の相場を学ばせるだけでなく、投資家が損をしない、入居者には喜ばれる改修のノウハウを伝授する。工務店には建築家同様、採算度外視の作業をしたがる職人が少なくないが、その意識を変革することで投資家に喜ばれる賃貸住宅化を可能にするのである。

 全古協が手がける案件では、工務店には工事費が支払われ、不動産会社には仲介手数料が支払われる。不動産会社は売り手、買い手双方から手数料を受け取れることもあり、手数料が低額だとしても損はしない。賃貸住宅化した物件を仲介・管理することになればさらにお金が入る可能性がある。そう聞いて塩漬けにしていた情報を出してくる不動産会社が相次ぐのは当然だろう。

 次に大きく異なるのは空き家を購入して改装費を出すのは投資家であるという点。空き家活用では誰が費用を出すのかという点が大きな課題だが、全古協のやり方は明快だ。空き家を購入・改修して賃貸化し、きちんと収益が出るので買いたい投資家が集まってきやすい。誰が費用を出すのかという心配はないのだ。

 具体的には全国の拠点で毎週末、「古家再生士」と呼ばれる工務店を中心としたスタッフが投資家相手に空き家・古家物件見学ツアーを行っている。1日で数件の改修中、完成済も含めた物件を見学、物件価格に加え、改修ポイントとその費用、地域の相場から算定される利回り等の説明を受け、その後、買いたい物件があれば手を挙げられる。買った後は古家再生士が改修を計画し、そのまま改修を依頼すれば当初予定どおりの費用、利回りで物件が手に入ることになる。

 ただし、誰もが購入できるわけではなく、多くのツアーには参加資格がある。会員になり、さらに全古協がオンラインで行う古家再生投資プランナーの資格を取得することである。

 簡単にいえば、会員にならなければ売ってもらえないということ。そこに怪しさを感じる人もいるだろう。だが、近年の不動産投資状況を勘案すると、これは投資家、賃貸市場にとって悪いことではない。

■戸建てに投資したいがわからない人に向く

 2014年頃から都心のこれまで投資対象となっていたアパート、マンションの値上がりが続いており、収益が落ちている。そのため、最近はそれまで一般的な投資対象として見られていなかった一戸建てに目を向け、安価に自分でDIYをして貸そうという人が増えている。

 だが、知識がないまま、収益優先で耐震性能などの安全面を軽視したDIYが行われた住宅が市場に出回ることは住む人にとっても、何かあったときに最終的な責任を負うことになる所有者にとってもプラスではない。そこまで行かなくとも知識がないままに不動産投資を始めるのは危険でもある。

 また、資格取得、空き家ツアーで仲間ができることは不動産投資仲間を作ることでもある。それが知識、ノウハウの共有、投資意欲につながるとすれば空き家解消には悪いことではない。

 そうした独自のやり方の結果が5年半で1570件という数字である。物件購入+改修で1000万円以下という地域も多く、利回りも高いところでは十数%。買うところから始まり、改修まで面倒を見てもらえ、仲間もできるとなれば3年で10軒、20軒と投資する人もでてくる。

 2022年6月17日時点では8133人の会員、430人の古家再生投資プランナー、オンライン講座受講者が累計で2092人いるそうだ。賃貸ニーズのある地域でなければ成り立たない手法ではあるが、工務店、投資家の手で空き家の賃貸住宅化は確実に進んでいるのである。

■「こんなところに人が住むわけない」地域が…

 さらにこのやり方がこれまで賃貸ニーズがないと思われていた地域を変える例も出てきた。その1つが犀川河口右岸に位置する、かつて加賀藩の交易の中心となった港町・金沢市金石だ。金沢市の歴史ある町並みを保存するための「こまちなみ保存区域」に指定されており、特徴ある町家、旧回船問屋の建物などがある風情ある地域だ。

 だが、金沢駅からはバスで20分ほどと多少距離があり、それ以上に「こんなところに人が住むわけがない」と市中心部の人たちからも、地元からも言われることが多かったと2021年に金石にオフィスを構えた古家再生士の工藤真次氏は話す。

 工藤氏はもともと東大阪で仕事をしていたが、金沢への移住を希望したクライアントがいたことで金沢とも縁ができた。物件や地元の工務店を探して仕事をするうちに、金沢でも古家再生をするようになり、ここ5年ほど金沢市中心部で町家中心に59軒手がけてきた。

 そんな中、たまたま現在オフィスとして借りている取り壊し直前だった築150年ほどの古家に遭遇。一目惚れして購入し、本拠地とすることになった。それから1年、当初目標は金石地域で10軒の購入、再生だったが、実際には11軒を購入した。

 「金石は全体で2000世帯くらいある広い地域で10軒程度再生してもたかが知れています。でも、改修中などに『誰か住んでくれるのね、よかったわ』『ありがとうな』と声を掛けられることも増え、ウチの家を見てほしいという相談も。ここでも貸せるという意識は確実に醸成されてきています。今後はオフィスの空いているスペースを利用、地域に貢献できる場やすでに何社か登録予定のあるサテライトオフィスなどを作り、より受け入れられるような方法も考えています」

 今夏からは地元の人を採用する予定で念願だった雇用を生むこともできそうである。また、地域に子どもを増やすことを考えると賃貸ではなく、分譲も必要と考え、こまちなみ保存区域メインストリートの古家を改修、初の分譲を行うことも計画している。

■首都圏以外で物件持ちたいという人も

 高齢者が多く、これまで変化のなかった地域だけに軋轢がないわけではないが、最近は自宅兼用の店舗を郊外でやりたいという声も増えている。また、首都圏などで買うよりも利回りがいいこと、全国に不動産を所有することで災害時などのリスクを分散したいと考える人がいることなどから、金沢で投資物件を買いたいと考える人も多い。買う、借りる、いずれのニーズもあるのである。

 現在の金石では蔵を利用したカフェがあるくらいで、飲食店などはほとんどないが、店ができてくれば町は変わる。その日に向けて工藤氏は鋭意根回し中だという。

 町工場の経営危機からの新規事業模索が大きく発展し、空き家を処分できる所有者や、空き家再生が仕事になる工務店、購入した空き家で収益を上げられる投資家、これまで少なかった一戸建てを借りられる入居者と四方良しの事業となった全古協。今後は空き家解消によって地域までが恩恵に預かれるかもしれない仕組みになったというわけである。

 ただ1点、問題があるとすれば全古協のホームページがいささか怪しく見えること。関西のノリなのだろうが、情報商材を売っている会社のようにも見え、私も最初は大丈夫かと疑った。もう少し、なんとかならないのだろうか(笑)。

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最終更新:6/26(日) 6:01

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