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台北メトロ「1日限定」駅メロディーは何のため? 宣伝媒体に活用、値上げ困難な中で収益拡大策

6/26 5:01 配信

東洋経済オンライン

 列車の発車時または到着時に流れるメロディー、通称「駅メロ」は、日常生活で自然に聴こえてくる音楽の1つだ。

 台湾でも「駅メロ」は2015年よりMRT(大量高速輸送システム、都市鉄道)にて採用され、台北MRTでは2015年より乗り間違い防止と快適な空間形成を目的として路線ごとに異なるピアノ調のものが接近メロディーとして、高雄MRTでは楽団がプロデュースした駅ごとに違う接近メロディーと路線ごとの発車メロディーがそれぞれ用意された。

 そんな台湾の「駅メロ」であるが、5月13日、台北MRTで接近メロディーが1日限定で変わるという珍事が発生、民衆の話題をさらった。

 日本でも、阿佐ケ谷駅や南越谷駅の「阿波踊り」などイベント期間中に期間限定でメロディーを変更することはある。桃園空港と台北間を結ぶ桃園MRTでもクリスマスや春節のシーズンには通常のメロディーのアレンジ版が使われるが、わずか1日限定というのは台湾でも日本でも前代未聞。その背景には一体何があったのだろうか? 

■「駅メロ」を広告媒体に

 5月13日の朝ラッシュ時間帯、台北MRTのブルーラインとグリーンラインの計41駅で、リズミカルな楽曲に合わせ、台湾の有名シンガー、韋禮安(ウェイリーアン)の爽やかな歌声が響いた。

 乗客からは「普段なら聞いたら憂鬱になる接近メロディーが今日は聴いたことのあるCMの曲で、ハッと目が覚めた」、「有名シンガーの曲で朝からノリノリで出勤できた」といった新鮮な声が。しかし、「聞き慣れた曲であるものの、普段と歌詞が違った」という。

 この音楽の正体は、台湾でトップの歯磨き粉ブランドのキャンペーンソングだ。そして駅メロに取り入れられた歌詞を直訳すると「以前の黒人歯磨き粉は、今では好来ブランドに! これからは新しく好来と呼んでね!」といった具合。そう、ブランドを宣伝するための媒体として「駅メロ」が使われたのである。

 しかし、一会社のブランド宣伝の為にここまでするか? と思う方も少なくないだろう。実際、どんな事情があったのか。スポンサーと事業者の2つの観点から探ってみたい。

 今回ブランドを変更することとなった「黒人歯磨き粉」は1949年に発売を開始した。アフリカの植物由来の成分を配合していることを特徴とし、黒い帽子に蝶ネクタイとスーツを着飾った黒人が白い歯をアピールするキャラクターをキービジュアルとして、長い間台湾のオーラルケアのトップブランドに君臨してきた。

■ブランド一新を「音」で訴える

 しかし1991年、製造元にアメリカのコルゲートが出資者として加わると、社会の変遷、差別意識の高まりを考慮し、英語名をイメージ画像の黒い肌が白い肌に変更、「Darkie」と名乗っていた英語のブランド名も「Darlie」に変更したものの、中国語表記の商品名は変えられることがなかった。

 実際、「黒人歯磨き粉」は台湾で45%、シンガポールやマレーシアといった華僑の国でも20%以上のシェアがあると言われるほど浸透しており、ブランド変更が容易でなかったことがうかがえる。

 その転機が訪れたのが2020年。アメリカでBLM運動が活発化すると、差別的として批判が上がることとなり、創業時の社名である「好来」ブランドとして再出発を決定。キャラクターの顔も白色の比率を増やすなど、一連のキャンペーンを実施してきた。今回の「駅メロ」変更もその1つであり、ビジュアルで売り出しをかけブランドを形成してきた老舗が、別の知覚に訴える新しいプロモーション手法を生んだ。ユニークなメディアの活用方法と言える。

 実は台北MRTの「音」が変わったのはこれが初めてではない。2021年12月12日には、大手通販サイトとコラボし、改札通過時の音を配送料無料をアピールするものに変更、さらに30分限定で運賃を無料とするキャンペーンを実施した。また、今年1月にはブルーラインで「Smart Display Metro(スマート・ディスプレイ・メトロ)」と題し、客室に4Kの曲面ディスプレイや電子ペーパーを設置した車両を投入するなど、広告での収益強化を図る施策を積極的に行っている。

 これには、開業時より続いた路線拡張が一段落し、収益性の改善が急務となっているという事情がある。加えて、コロナ禍による2021年度の営業損失が50億台湾ドル(約227億円)にまで達していることも無視できない。となれば、本業の運賃を上げろという声も出るが、政府が進める公共交通機関の利用促進を理由として、開業以来運賃値上げを無理に行うことができないのだ。

 実際、台北MRTの運賃は2020年、ICカード利用で一律2割引の制度を廃止、代わりに乗車回数に応じて11~20回の乗車なら10%、51回以上で最大30%の還元が受けられるキャッシュバック制と、2018年から実施しているバス・シェアサイクルを含めて1カ月1280台湾ドル(約5800円)の定額制で構成されている。区間や時間帯に限らず使うほどお得で、日本と比べ公共性が強く、収益確保を副業に頼らなければならない状況なのである。

■「駅ナカ」できない中で副業開拓

 台北MRTが取り組む副業は広告のみに限らない。台湾といえば台湾鉄道の駅弁が思い浮かぶ方もいると思うが、MRTでも温かい弁当のオーダー販売や、オリジナルコーヒーの販売などさまざまな試みを行っている。しかし、それらは大半が「駅ソト」。なぜなら、台湾には「大衆捷運法」という法律が存在し、改札内での飲食からガムを噛む事まで禁止されているためだ。

 それを克服しようと今年3月に、南京復興駅に開業したのが「Metro Corner(メトロコーナー)」と呼ばれる「駅ナカ」と「駅ソト」が融合したハイブリッド施設だ。改札内の乗り換え通路側にショップ、改札外に飲食スペースを増設し、乗り換え拠点における朝食や軽食のニーズに応えている。

 今後、台北駅などに同種の施設を設置する計画や駅ビル建設の構想もあり、TOD(公共交通指向型開発)の概念や民間の資本を取り入れることで収益力の向上を図るという。また、広告事業でも、トンネル内での動画投影など新たな展開を検討している。清潔だが素っ気ないイメージも強かった台北MRTだが、近い将来変わった景色を見せてくれるかもしれない。

東洋経済オンライン

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最終更新:6/26(日) 5:01

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