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大久保利通、人生初の海外で「円形脱毛症」になった理由 岩倉使節団として欧米視察に出かけ、どんどん寡黙に

6/26 11:01 配信

東洋経済オンライン

倒幕を果たして明治新政府の成立に大きく貢献した、大久保利通。新政府では中心人物として一大改革に尽力し、日本近代化の礎を築いた。
しかし、その実績とは裏腹に、大久保はすこぶる不人気な人物でもある。「他人を支配する独裁者」「冷酷なリアリスト」「融通の利かない権力者」……。こんなイメージすら持たれているようだ。薩摩藩で幼少期をともにした同志の西郷隆盛が、死後も国民から英雄として慕われ続けたのとは対照的である。

大久保利通はどんな人物だったのか。実像を探る連載(毎週日曜日に配信予定)第36回は、人生初の欧米視察となった「岩倉使節団」で、大久保利通がドイツに感銘を受けた理由について解説します。
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<第35回までのあらすじ>
薩摩藩の郷中教育によって政治家として活躍する素地を形作った大久保利通。21歳のときに父が島流しになり、貧苦にあえいだが、処分が解かれると、急逝した薩摩藩主・島津斉彬の弟、久光に取り入り、島流しにあっていた西郷隆盛が戻ってこられるように説得、実現させた。

ところが、戻ってきた西郷は久光の上洛計画に反対。勝手な行動をとり、再び島流しに。一方、久光は朝廷の信用を得ることに成功。大久保は朝廷と手を組んで江戸幕府に改革を迫る。その後「生麦事件」という不測の事態が襲うが、実務能力の高さをいかんなく発揮し、薩英戦争でも意外な健闘を見せ、引き分けに持ち込んだ。
勢いに乗る薩摩藩。だが、その前に立ちはだかった徳川慶喜の態度をきっかけに、大久保は倒幕の決意を固めていく。閉塞した状況を打破するため、島流しにあっていた西郷の復帰に尽力。西郷は復帰後、勝海舟と出会い、長州藩討伐の考えを一変。坂本龍馬との出会いを経て、薩長同盟を結んだ。

武力による倒幕の準備を着々と進める大久保と西郷。ところが慶喜が打った起死回生の一策「大政奉還」に困惑。さらに慶喜の立ち回りのうまさによって、薩摩藩内でも孤立してしまう。
一方、慶喜もトップリーダーとしての限界を露呈。意に反して薩摩藩と対峙することになり、戊辰戦争へと発展した。その後、西郷は江戸城無血開城を実現。大久保は明治新政府の基礎固めに奔走し、版籍奉還、廃藩置県などの改革を断行した。そして大久保は「岩倉使節団」の一員として、人生初の欧米視察に出かけ、その豊かさに衝撃を受ける。

■パリのガス灯を見てショックを受けた

 岩倉具視使節団の副使として欧米にわたり、豊かな文明に衝撃を受けた大久保利通。アメリカからイギリスに赴き、さらにフランスに着くころには、大久保はますます寡黙になっていったという。

 大久保がとりわけショックを受けたのは、フランスのセーヌ川に沿ってガス灯が灯っていたことだった。パリではこんな手紙を書いている。

 「これから日本がどれだけ開花したとしても、及ばないことばかりである」

 かなり思い悩んだせいで、大久保が円形脱毛症になっていたという証言もある。随行した外交官の田辺太一が語っている。

 「公の頭の天辺には大きなはげがあった。ちょっと左のほうへ寄った所だったから、髪の毛を長くしてそれを7分3分くらいに分けて、きれいになでつけてはげを隠されたものだ」

 苦悩の末、大久保は開き直る。アメリカ、イギリス、フランスは、あまりに日本とかけ離れすぎており、手本にはできない。その一方で、これから訪れる国に期待を寄せて、こんな言葉を書き連ねている。

 「必ずわが国のあるべき姿を示してくれるであろう、この両国に注目したい」

 大久保が日本の手本にしようと考えた2つの国。それが当時のヨーロッパでは後進となるドイツとロシアだった。

■鉄血宰相ビスマルクのスピーチに衝撃

 1873 (明治6)年3月9日、大久保らはプロシアに到着する。プロシアは2年前に独立を果たしたドイツ帝国の中心地だ。11日にドイツ皇帝ウィルヘルム一世に謁見すると、15日には宰相のビルマルクの祝宴に一向は招かれている。

 ビスマルクといえば約10年前の1862年に、こんな演説をして世界を驚かせた。

 「現下の大問題が決せられるのは演説や多数決によってではなく、鉄と血によってである」

 そう言って軍備拡張を強行したビスマルクは、3度の戦争でリーダーシップを発揮。政治的に分裂していたドイツを統一させて、1871年にドイツ帝国をつくり上げた。ついた呼び名は「鉄血宰相」。いったい、いかなる人物なのか。さすがの大久保も緊張したことだろう。

 そんななか、ビスマルクが祝宴でのスピーチや政治談議で述べた言葉は、大久保らにとって、衝撃的なものだった。

 「世界各国は表向きこそ礼儀正しく交友しているが、それはまったく表面上のことにすぎない。内面では強きが弱きをくじき、大国は小国をあなどるのが実情である」

 岩倉使節団は、これまで欧米諸国になんとか認めてもらおうとしてきた。だが、そのへつらう姿勢こそが、対等な関係を難しくしているのかもしれない。また、国際公法 (万国公法)にふさわしい振る舞いを心がけてきたが、ビスマルクはこう喝破している。

 「もし大国が利を争った場合、もし自国に利ありとみれば公法に固執する。だけれども、いったん不利となれば、一転、軍事力をもって力でものを言うにすぎない。だから、公法はつねにこれを守らなければならないというものではないのだ」

 もちろん、これは大国であるイギリスやフランスのふるまいを見て、ビスマルクが抱いている実感にすぎない。しかし、大久保には、腑に落ちるものがあったことだろう。

 薩摩藩の下級武士からここまではい上がってきた過去を振り返ってもそうだ。強い者におもねるだけでは、状況は悪くなるばかり。パワーバランスを熟考したうえで、自分の強みを生かして、時には大きな勢力とも対峙する。それこそが大久保が生きてきた道でもあった。

■ドイツでの感動をいち早く西郷に伝えようとした

 ビスマルクの言葉に、大いに感銘を受けた大久保。ベルリンの地から日本にいる西郷隆盛や吉井友実に宛てて、次のような手紙を書いている。

 「ドイツは他の欧州の各国とは大きく異なり、淳朴なところがある。ドイツの滞在時間は短いくらいだったが、ビスマルク、モルトケという大先生に面会できたのは、大きな収穫であった」

 「淳朴」とは、素直で飾りけがなく自然なさまをいう。大久保はドイツという国に親近感を覚え、その感動を西郷にいち早く伝えようとしたのだ。

 大久保がドイツに着いてから約1週間後の3月19日、岩倉のもとに太政大臣の三条実美から手紙が届く。なんでも「大久保と木戸を帰国させるように」とのことである。

 ロシアをはじめ、まだ回ってない国が残っていたため、木戸は視察を続けることを希望した。

 一方、ドイツに日本の進むべき未来を見た大久保は、もはや十分だという思いがあったのだろう。ビスマルクのこんな言葉を胸に刻みながら、大久保は帰国の道を選んでいる。

■燃え上がる情熱を胸に秘めながら帰国したが…

 「小国がその自主の権利を守ろうとすれば、その実力を培う以外に方法はない」

 これからの日本に「富国強兵」が必要なのはいうまでもない。

 だが、そのためには、近代産業技術を導入して、生産を増やして産業をさかんにする。つまり「殖産興業」から着手し、確実に一歩ずつ前進させなければならない。そうして地道に歩を歩めば、近い将来、必ず日本もドイツのように、小国からの発展を遂げることができる。

 文明の差に失望した大久保の姿はもうそこにはなかった。やるべきことがはっきりして、燃え上がる情熱を胸に秘めながら、5月26日に横浜に到着する。

 だが、日本で大久保を待ち受けていたものは、意外なものだった。武力で朝鮮を支配しようという「征韓論」である。その中心には西郷隆盛、その人がいた。

 (第37回につづく)

 【参考文献】
大久保利通著『大久保利通文書』(マツノ書店)
勝田孫彌『大久保利通伝』(マツノ書店)

松本彦三郎『郷中教育の研究』(尚古集成館)
西郷隆盛『大西郷全集』(大西郷全集刊行会)
日本史籍協会編『島津久光公実紀』(東京大学出版会)
徳川慶喜『昔夢会筆記―徳川慶喜公回想談』(東洋文庫)
渋沢栄一『徳川慶喜公伝全4巻』(東洋文庫)
勝海舟、江藤淳編、松浦玲編『氷川清話』(講談社学術文庫)
佐々木克監修『大久保利通』(講談社学術文庫)
佐々木克『大久保利通―明治維新と志の政治家(日本史リブレット)』山川出版社)

毛利敏彦『大久保利通―維新前夜の群像』(中央公論新社)
河合敦『大久保利通 西郷どんを屠った男』(徳間書店)
家近良樹『西郷隆盛 人を相手にせず、天を相手にせよ』(ミネルヴァ書房)
渋沢栄一、守屋淳『現代語訳論語と算盤』(ちくま新書)
鹿児島県歴史資料センター黎明館 編『鹿児島県史料 玉里島津家史料』(鹿児島県)
安藤優一郎『島津久光の明治維新 西郷隆盛の“敵"であり続けた男の真実』(イースト・プレス)
萩原延壽『薩英戦争 遠い崖2 アーネスト・サトウ日記抄』(朝日文庫)

家近良樹『徳川慶喜』(吉川弘文館)
家近良樹『幕末維新の個性①徳川慶喜』(吉川弘文館)
松浦玲『徳川慶喜―将軍家の明治維新増補版』(中公新書)
平尾道雄『坂本龍馬 海援隊始末記』(中公文庫)
佐々木克『大久保利通と明治維新』(吉川弘文館)
松尾正人 『木戸孝允(幕末維新の個性 8)』(吉川弘文館)
瀧井一博『文明史のなかの明治憲法』(講談社選書メチエ)
小山文雄『明治の異才 福地桜痴―忘れられた大記者』(中公新書)

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最終更新:6/26(日) 11:01

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