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「トラックマン」から見える日本野球の問題点と未来、野球をもっとインテリジェンスなものに変える

6/26 15:01 配信

東洋経済オンライン

 プロ野球ファンの多くは、今や「トラックマン」という名前は知っている。それが投球や打球の軌道を計測し、数値化することで選手のパフォーマンス向上に資するものであることも大まかには理解している。しかし、どんな運用をしているかまでは知られていない。

 トラックマン野球部門の責任者である星川太輔氏はこう説明する。

 「NPB球団で使っているトラックマンは、各球団の本拠地球場に設置しています。設置費用は別途かかりますが、設置しても機械そのものはトラックマンのもので、球団は年間使用料を払ってレンタルします。ずっとランニングコストがかかるんですね。今は10球団がトラックマンと契約しています。これですべての選手のデータが取れます」

■トラックマンとほかのシステムとの大きな違い

 トラックマンのライバルのトラッキングシステムにはホークアイやラプソードなどがある。

 「トラックマンは各球場に設置する『試合用』の機器と、持ち運びが効く『練習用』の小型機があります。ホークアイは『試合用』の機器、ラプソードは『練習用』だけです。

 3つともボールの軌道を捕捉して数値化するのですが、ボールの捉え方が違います。トラックマンはレーダーとカメラでボールを捕捉しますが、ホークアイとラプソードはカメラで捕捉します。ホークアイは高解像度の画像として記録するのでバイオメカニクスのデータも取れますし、フィールドの選手の動きも記録できますが導入にあたり価格がネックだそうです。

 また、球団によってはトラックマンと契約したうえで、ラプソードも導入しているところもあります。春季キャンプのブルペンではトラッキングシステムの機械をいろいろ設置しているのを見ますが、捕手の後ろにあるのが練習用のトラックマン、投手と捕手の間に置いているのがラプソードです」

 試合用に球場に設置されるタイプのトラックマンは、その球団の選手のデータだけを契約している球団に提供するわけではない。その球場での全ての試合データは、トラックマンと契約している全球団に向けて公開される。各球団は、契約している敵味方問わない全選手の試合のデータを見ることができ、活用することができるのだ。

 つまり「トラックマンを導入している」だけでは、アドバンテージはない。契約している他球団と同じデータを取得して、どんな分析をするか、どんな分野に役立てるか、が問われているのだ。最近、各球団でデータアナリストの雇用が話題になっているが、これはトラックマンなどの「武器」を十分に活用できるエキスパートを各球団が育成しようとしているわけだ。

 一方で、トラックマンを導入していない2球団は、トラックマンを導入している球団の本拠地での試合では、相手球団には試合のデータを全て把握されるが、自分たちは自球団の選手のデータでさえも見ることができない、ブラインドがかかったような状態になる。

 導入していない2球団も他のトラッキングシステムを導入しているが、情報量と言う点では決定的な差があるということになる。

 このあたり、球団によって活用の目的が異なるようだ。

 「ホークアイでバイオメカニクスのデータを取りたいというところもあれば、NPB全選手のトラッキングデータを取ることで編成上の選手評価を適切にしたいという球団もある。

 投手コーチの中でも、トラックマンのデータを活用しているか、していないか、昔ながらの考え方でやっているか、今の状況をオンタイムで勉強しているかで、大きな差がついてきていますね。これからはトラッキングデータに関心・理解のあるコーチが求められて行くと思います。だから選手は、現役時代の実績がなくとも、この分野を一から勉強すればコーチとして大活躍できる可能性は十分にあると思います。

 最近、ある球団のファームの本拠地球場にトラックマンを設置したのですが、他リーグの球団の関係者から“これはでかい!”と言われました。二軍の他リーグの選手のデータについて球団がどれだけ重要視しているかがわかります」

■データアナリストの育成にも一役

 機器の進化は今も続いている。トラックマンの牙城を脅かす新たな機器も開発されるだろう。トラックマン野球部門の責任者である星川氏は、プロ野球での市場を維持発展させるとともに、守勢に回ることなく新たな販路も開拓している。

 「東京六大学野球連盟と契約しています。神宮球場での試合データを計測して提供するわけです。この場合も6つの大学にすべてのデータを提供します。東大の学生が早稲田や慶應の選手のデータを見て分析することもできるんです。特に大学の場合、優秀な野球部員がたくさんいますし、フィールドでプレイをしない“アナリスト”という部員がいる大学もいくつかあります。各大学は他学部の専門家とも連携をして活用してもらいたいです。そしてデータアナリストとしてプロやアマの野球の世界で活躍する人材が育ってほしいと思います。

 また社会人野球でも大会ごとに契約をして、出場全チーム・選手にデータ提供をしています。高校野球連盟とは何年も交渉をしていますが、なかなか難しい状況です」

 星川氏はトラックマンを動かす際のオペレーターやメンテナンスするためのアルバイトを雇用している。その中にはデータ部門を担当する大学の野球部員もいる。

 彼らはトラックマンの操作を学び、データを取得し、分析する方法を学ぶ。アルバイトをしながら、データアナリストとしての実地の経験を積んでいることになる。

 また、全国を飛び回る中で出会った高校球児の中にはアナリストを目指す野球部員が全国でたくさん出てきているという。星川氏は、こういう形で全国のプロ、アマの野球の現場へ足を運ぶうちに「野球界の現状」に強い危機感を抱くようになった。

 「うちのアルバイトで、大学まで野球をやっていた子がいて、彼は間違えたときに“すいません”しか言わないんですね。どうしてこうなったの、と聞くと“すいません”と。いや、そうじゃなくて再発防止策を打たないとけないから原因を明らかにしないと、と言っても彼は謝ることしか頭にない。

 もちろんこう言ったケースは一部だと考えたいですが、誤解を恐れずに言えば今のアマ球界の選手と指導者の関係性を考えれば、そういう子が多く出てくる可能性は否定できない。現状を把握して、改善や提案が自発的にできる優秀な人材がでてくる可能性は低いと言わざるを得ない。

 一流企業の経営者で『甲子園を目指して野球をやっていました、そこでの経験がいまに生きています』と言う人は本当に少ない。他の競技では良く見聞きするのですが、競技人口が圧倒的に多い野球でそれをほとんど聞いたことないのは一体どういうことなんだろうか? と思います」

■野球をもっとインテリジェンスなものに変えたい

 「僕は、トラックマンなどの導入を通じて、野球をもっとインテリジェンスなものに変えていきたい。アメリカンフットボールやラグビーなどは肉体がぶつかり合う激しいスポーツですが、インテリジェンスの香りがする。でも、野球はそうじゃない。アメフト、ラグビーは試合中は、監督が指示を出せないから、選手が臨機応変に判断して動かないといけない。でも野球は、他の競技と比較して監督・指導者の指示に従う、という側面が試合だけでなく練習でも強い気がします」

 「野球の監督ってなぜあんなに偉そうで指示が一方的なんでしょうか?」と星川氏は疑問を呈する。

 「いまどきの会社であんな人なかなかいないですよ。上司の顔色を伺って怒られることを避けることを常に気にしている指示待ち社員しかいない会社が成長しないのと同じで、そんな文化で育った選手が、この後それぞれの世界で活躍する可能性は低いと言わざるをえない。

 そうならないように心がけて指導されている素晴らしい監督さんを何人も存じ上げていますが、まだまだ一部です。現代の社会が求めている、自ら考えて判断して行動できる人材と、野球の指導の現場が大きく乖離しているということです。そこに強い危機感を感じています」

 星川太輔氏はトラックマンを通して「野球の未来」を展望している。トラックマンなど先進機器の導入は、同時に野球指導者、選手の意識改革をも促すのだ。今後の動きに注目したい。

東洋経済オンライン

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最終更新:6/26(日) 15:01

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