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サクラ/eKクロスEVは軽BEV普及の起爆力になるか? 新車購入者「1万人調査」に見る軽BEVの可能性

6/26 7:01 配信

東洋経済オンライン

 2022年5月20日、日産から「サクラ」、三菱から「eKクロスEV」が発表された。それぞれ、日産「デイズ」、三菱「eKクロス」をベースとした、軽自動車BEV(電気自動車)だ。

 今回は、サクラ/eKクロスEV発売を受け、軽自動車BEVは普及するのかを次の4つの観点から分析していきたい。

(1)車両本体価格
(2)ボディタイプ
(3)航続距離
(4)諸課題
 分析に使用するデータは、市場調査会社のインテージが毎月約70万人から回答を集める自動車に関する調査「Car-kit®」。加えてインテージが行った自主調査の結果も紹介する。

■軽自動車も200万円の時代に

 車両本体価格は、サクラ:239万9100円~294万300円、eKクロスEV:239万8000円~293万2600円と発表された。

 国からの55万円の補助金(令和3年度補正予算「クリーンエネルギー自動車・インフラ導入促進補助金」、令和4年度「クリーンエネルギー自動車導入促進補助金」)の対象であるため、ベースグレードであれば180万円台から購入可能である。上級グレードのサクラ「G」、eKクロスEV「P」でも、55万円の補助金を考慮すれば240万円程度だ。

 さらに、自治体によっては追加の補助金がある。例えば、東京都では「令和4年度 電気自動車等の普及促進事業」として45万円補助される。つまり、計100万円もの補助金がおりるのだ。

 デイズの最上級グレード「ハイウェイスターGターボ アーバンクロム プロパイロットエディション」が178万900円であることを考えれば、補助金適用で180万円台~という価格は、軽自動車として十二分に選択肢に入る。

 2021年度の軽自動車販売台数ランキングは、1位:ホンダ「N-BOX」(19万1534台)、2位:スズキ「スペーシア」(10万3605台)、3位:ダイハツ「タント」(10万1112台)とスーパーハイトワゴンが上位を独占しているが、この3車種の購入者の支払い金額を見てみると、いずれも200万円超だ。

 N-BOXの登場直後は「軽自動車なのに200万円オーバー」などと、価格面でネガティブな評価をされることもあったが、完成度やユーティリティの高さ、日常生活への貢献度といった点が評価され、文句なしで売れ続けている。

 2011年にN-BOXが登場して以降、軽自動車検討者にとって、200万円は購入の視野に入る価格帯になったのだ。もちろん、「以前より高くなっている」という実感はあるはずだが、サクラ/eKクロスEVの補助金適用後の価格は、既存の軽自動車と張り合えるものだといえる。これは、軽自動車BEV普及に向けた好材料である。

 ただし、サクラ/eKクロスEVは、スライドドアを持つスーパーハイトワゴンではなく、「ワゴンR」や「ムーブ」などと同じハイトワゴンである。これがどれくらい響くか。調査結果から考察してみよう。

 販売台数ランキングでトップ3のN-BOX、スペーシア、タント購入者に、スーパーハイトワゴンの購入理由を聞いてみた。

 すると、「スライドドア」と答えた人は、N-BOX:46%、スペーシア:60%、タント:55%と、ほかの選択肢と比較して多い。スライドドアは、スーパーハイトワゴンの主要な購入理由になっている。

 一般に、ボディタイプは車の役割を規定するため、ライフステージが紐づいてくる。スーパーハイトワゴンであれば、子どものいるファミリーや乗り降りのしやすさから60代以上が多くなる。また、セカンドカー需要も多いため、男女比では女性が6割程度と多数派になる。

 サクラ/eKクロスEVがもたらすBEVとしての新価値や、質の高い内装などがどれだけ購入意欲を押し上げるのか。軽自動車のサイズ・コストという制限下で、スライドドアを求めるような人々の需要を取り込むことができるのかに注目である。

■180kmの航続距離は足りるのか? 

 サクラ/eKクロスEVの航続距離(1回の充電で走れる距離)は、180km(WLTCモード)となっている。日産が軽自動車ユーザー(ガソリン車)の利用動向を調べたところ、半数以上の人の走行距離は1日「30km以下」であり、「30~100km未満」まで広げると全体の8割を超えるそうだ。航続距離が180kmあれば利用者の94%の需要に対応できる、という結果も出ているようである。

 とはいえ、ガソリン車の燃費がカタログ数値どおりにいかないように、BEVの航続距離も実際の使用状況では数値よりも短くなると考えると、もう少し航続距離がほしいと思われるかもしれない。

 その点については、インテージが新車購入者1万人(パワートレーン問わず)に対して行った調査が参考になる。調査の中で、「BEVに最低限求める航続距離」を聞いたところ、次のような結果が得られた。

 回答者の約7割が「200km以上」の航続距離を求めている。瞬間的な値ではなく2019年、2020年、2021年と続いている調査だが、各年とも結果は同じだ。この結果を見ると、今回のサクラ/eKクロスEVの航続距離は短いように感じる。

 一方で、「片道50~100km未満の移動」「片道100km以上の移動」について、週1回以上の頻度で移動する人の割合は下記の通り、1割にも満たない。直接的な比較はできないが、この結果は前述の日産発表のデータとも概ね一致すると言えよう。

 求める航続距離を生活者に問えば、180kmという答えはなかなか出てこない。ただし、その車の役割を新たに定義し、2台目以降の需要(併有車としての需要)に割り切っていけば、今回発表された航続距離は特定の層にしっかりマッチするだろう。

 これまで見てきた「車両本体価格」「ボディタイプ」「航続距離」の調査データから、サクラ/eKクロスEVは狙いとするターゲットに対して“十分に売れるBEV”となりそうである。一方で「軽自動車BEVは普及するのか」の問いを考えていくうえでは、いくつか超えなければならない壁がある。

■自宅充電設備構築のワンストップ化

 新車は、ディーラーで購入するのが一般的である。しかし、車好き以外の人の中には、ディーラーでのコミュニケーションがわずらわしいと感じる人も多い。

 SNSでは、声の大きい人(車好きな人)が発信しているので目に入ってくるが、そうでない人はディーラーでの商談状況や、購入車種、納車日などを逐一報告するようなことはあまりしない。新車購入だけでもコミュニケーションのハードルがあるのに、そこに加えて充電設備の話までとなると、さらに感じる負担は大きくなるだろう。

 特に軽自動車を購入する層には、これまでも軽自動車を乗り継いできている人が多い。軽自動車ユーザーは、登録車ユーザーと比べると車に対する感度は低く、こだわりが少ない傾向がある。そういった人たちが、家に充電設備を設置する必要のある(マンションなど既に設置されている場合もある)BEVをわざわざ買うだろうか。

 そう考えると、現状のBEVはまだまだ車好きや“車にこだわりのある人“が買う車であることは否定できない。大衆化に向けては、充電設備の構築へのハードルを下げる必要がある。

 2台目以降の需要(併有車としての需要)を考えたとき、日本の場合、雪国は避けられない。しかし、BEVは寒冷地と相性が悪いとされている。豪雪地帯では4WD仕様に乗るのが一般的だが現状、サクラにもeKクロスEVにも4WDは用意されていない。

 国土交通省によれば、全国1719市町村のうち、532市町村(30.9%)が豪雪地帯である。さらにそのうち201市町村(11.7%)は、特別豪雪地帯だ。国土のうち、実に50.8%が豪雪地帯なのである(特別豪雪地帯=同19.8%)。

 自動車検査登録情報協会によれば、全国の乗用車の保有台数6180万台のうち、特別豪雪地帯を有する都道府県(北海道、青森、岩手、宮城、秋田、山形、福島、群馬、新潟、富山、石川、福井、長野、岐阜、滋賀)の保有台数は、1629万台と26.4%になる。

 これに、豪雪地帯を有する都道府県(栃木、京都など)も加えれば、さらに雪国で保有されている自動車は多い。「世帯あたり保有台数」の多い都道府県は降雪地帯であることが多いので、軽自動車BEVの普及を考えた際に、雪国は決して無視できるボリュームではない。

■市場活性は他メーカーの参入次第? 

 これはサクラ/eKクロスEVそのものの話ではなく、軽自動車BEV全体の話となるが、普及速度を上げるためには、市場内に“どれだけの選択肢があるか”が重要だ。そのためには、日産と三菱だけではなく、軽自動車でいえばダイハツ、スズキ、ホンダの参戦も必要である。

 というのも、新車販売は既存顧客からの代替需要が売り上げの大部分をしめる。そのためメーカースイッチ(他メーカー車へ乗り換えること)が非常に高い割合で起こり、「他社から顧客を奪取し続けシェアを拡大する」というシナリオを描くには限界があるのだ。

 メーカーごとのディーラーの数も有限であることから、各社の参戦が待たれる。補助金のあるうちに販売することが、既存顧客の流出を防ぐうえで重要になるだろう。

 今、日本の新車販売の約4割を軽自動車が占めている。そのため、軽自動車BEVが普及するかどうかは、日本でのBEVの普及、ひいては国内メーカーのグローバルでのプレゼンス向上という意味でも試金石となる。サクラ/eKクロスEVの車としての評価は高い。この2車が軽自動車BEV普及のきっかけになるかは、他メーカーの手にかかっているといってもいいかもしれない。

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最終更新:6/26(日) 7:01

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