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円安が日本人に望ましくないのは結局、損だから 企業には恩恵あっても消費者にとっては不利益

6/26 8:01 配信

東洋経済オンライン

円安になると、企業利益が増える。それだけでなく、名目GDP(国内総生産)も増える。しかし、これは、輸入額増加分を企業が消費者に転嫁するからだ。このため、消費者は、実質賃金低下という形で負担を負う。いまの円安局面で、これがはっきり意識されるようになった。
昨今の経済現象を鮮やかに斬り、矛盾を指摘し、人々が信じて疑わない「通説」を粉砕する──。野口悠紀雄氏による連載第72回。

■円安で輸出が増え、企業利益が増えた

 円安が進んでいる。

 しかし、日本銀行は、「円安は日本にとって望ましい」として、金融緩和維持の姿勢を変えていない。

 円安は、日本にとって本当に望ましいのだろうか? 

 以下では、為替レートの変動によって輸出、輸入価格が変動したとき、企業の付加価値やGDPにいかなる影響が生じるかを分析する。

 異次元金融緩和による大規模な国債の購入によって、円安が進んだ。これによって、日本の財サービスの輸出額は、2012年の63.75兆円から、2015年の75.61兆円まで、11.87兆円増加した

 (図表1参照、外部配信先では図表などの画像を全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください)。

 一方、法人企業(金融業を除く全産業)の売上高は、2012年度の1374.51兆円から、2015年度の1431.53兆円まで、57.02兆円増加した。

 輸出の増加が企業の売り上げ増に貢献したことは間違いない。

 これによって、企業の利益が増えた。それだけでなく、名目GDPも増えた。

 円安が企業の利益を増やすことはよく知られている。それだけでなく、経済全体の活動水準を表わすGDPが増えたのである。

 だから、円安は企業だけではなく、日本経済全体にプラスの影響をもたらしたように見える。

 しかし、詳しく見ると、そうは言えない。その理由を以下で述べる。

 まず注意すべきは、ドル建ての輸出額は減少していることだ。輸出数量で見ても、同様の傾向が見られる(図表1参照)。

 つまり、輸出品を作るための生産活動が活発化したのではなく、単に、帳簿上の輸出額が、為替レートの変動にともなって増大しただけなのである。

 これは、この間の鉱工業生産指数がほとんど一定で、上昇しないことを見ても確かめられる。

 このため、雇用の増加や賃金の上昇といった変化は生じなかった。

 そうは言っても、GDPが増えたのは、事実だ。

 では、やはり円安は望ましいことなのか? 

 そうは言えない。なぜなら、以上の議論は、円安になれば円建ての輸入額も増大することを無視しているからだ。

■企業が輸入価格上昇を転嫁すれば、付加価値は減らない

 輸入額増加の影響を検討するため、まず、円建ての輸出額は不変で、輸入額だけが何らかの理由で上昇する場合を考えよう。

 輸入額が上昇すると、企業の原価が上昇する。しかし企業は、これを売り上げに上乗せして、付加価値(=売上高ー原価)の減少を抑えようとする。このような転嫁の過程が、素原材料から中間財へ、そして最終財へと続いていく。

 仮に、この過程のすべての購入者が、購入量を減らさずに値上げをすべて受け入れれば、各段階での企業の付加価値は変わらず、その合計額も変わらない。

 したがって、円安になった場合には、円建て輸出増による付加価値増効果だけが残ることになる。

 GDPは付加価値の合計なので、以上の議論により、円安で増えることがわかる。

 以上は生産面からの検討だが、これを支出面から確かめておこう。

 GDPを支出面から見ると、国内最終財(消費、投資、政府支出など)への支出と、純輸出(財サービスの貿易収支)の合計だ。

 円安になると、円建ての輸出額と輸入額が増える。これらを、DXとDMで表そう。

 純輸出の増加はDXーDMだ。

 他方で、国内最終財への名目支出は、前述の仮定(各段階の購入者が、購入量を減らさず、値上げをすべて受け入れる)により、DMだけ増加する。

 したがって、結局のところ、名目GDPは、DM+(DXーDM)=DXだけ増加することになる。これは、生産面での変化と同じだ。

 これまで、輸入物価上昇は、基本的にはこのパターンで処理されてきた。

 円安による輸入額増加の大部分は、国内最終財の中で大半を占める民間最終消費支出が負担してきたと思われる。

 なお、以上の議論は、原油価格高騰などによって、ドル建て輸入額が変動する場合にも、当てはまる(ただし、後で述べるように、原油価格が低下した際には、企業は売上価格を低下させていない)。

■実質賃金低下は必然的に起きたこと

 実際に起きたことを見ると、次のとおりだ。

 2013年から2015年頃にかけては、円安が進み、企業はそれによる原価増を最終財の価格に転嫁した。したがって、実態的な生産活動は変わらなかったのだが、企業利益が増大した。これが、すでに述べたことである。

 他方で、消費者は、それまでと同じものを高い価格で買うことになったので、生活水準が低下したことになる。

 これは、実質賃金が低下したことに現われている。

 毎月勤労統計調査によれば、2012年に105.9だった実質賃金指数が、2015には101.3となり、3年間で約4.5%低下した。

 重要なのは、実質賃金の低下は、たまたま起こったことではなく、企業が輸入価格の上昇を転嫁した結果、必然的に生じたということだ。

 なお、2015年から2017年頃には、原油価格が大幅に下落した。しかし、企業はこの大部分を消費者物価引き下げに転嫁しなかった。このため、企業の利益は大幅に増加した。

 以上をまとめれば、つぎのとおりだ。

 完全転嫁の仮定の下では、円安によって企業利益が増える。だから、企業の保有者(株主)にとっては望ましい。

 しかし、消費者にとっては望ましくない。なぜなら、賃金が増えず物価が上がるからだ。

 株主の数に比べれば、消費者の数はずっと多い。

 だから、数の上では円安によって損失を被る人のほうが、利益を受ける人よりはるかに多い。

 それにもかかわらず、日本では、これまで円安が政治問題化されることがなかった。

 それは、この国の政治体制が正常に機能していないことの証拠だ。

■物価高騰に対する消費者の不満は高まっている

 もっとも、消費者が被る不利益は、1人当たりではさして大きなものではなかったために、政治問題化しなかったとも言える。実質賃金が低下したといっても、さして大きな変化ではないから、はっきりとは意識できない。

 しかし、今回は違う。原材料価格の高騰と円安が同時に生じているため、価格上昇率が高く、物価高騰に対する消費者の不満は高まっている。

 それだけではない。企業が完全には転嫁できない可能性がある。したがって、上で述べた完全転嫁の場合とは異なり、企業の付加価値も減る可能性がある。だから、株主の立場から見ても、円安が望ましいとはいえなくなっている。

 このため、為替レートの行方に強い関心が集まっている。この機会に、円安の評価に関する議論を十分に深める必要性が強まっている。

東洋経済オンライン

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最終更新:6/26(日) 8:01

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