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「台湾海峡は中国の主権」と発言する中国の思惑、国連海洋法条約に未加盟のアメリカの弱点を突く

6/25 7:41 配信

東洋経済オンライン

 中国政府が台湾海峡について、アメリカと台湾が主張する「国際水域」とする主張を否定し、中国が「主権と管轄権を有する」との法的地位を初めて表明した。台湾側は「台湾併呑の野心の表れ」として武力行使への警戒を強めるが、果たしてそうだろうか。米中対立が激化する中、発言の意図を読み解く。

■中国「国連海洋法には国際水域はない」

 中国外務省の汪文斌報道官は2022年6月13日の記者会見で、「中国軍当局者は台湾海峡が国際水域ではないと主張しているが、外務省のコメントは」との質問に次のように答えた。

 ① 台湾は中国の不可分な領土の一部、② 国連海洋法条約と中国国内法では、台湾海峡の海域は海峡の中心線に向かい両岸の海岸から延伸し、中国の内海、領海、接続水域、排他的経済水域(EEZ)の順、③ 中国は台湾海峡に対する主権および主権権利と管轄権を有し、当該海域における他国の正当な権利を尊重する、④ 国連海洋法には「国際水域」(international waters)は存在しない、⑤ ある国は台湾海峡を「国際水域」と呼んでいるが、これは台湾問題に干渉・操作し、中国の主権と安全保障に脅威を与える口実であり反対。

 中国はこれまで、台湾海峡を中国EEZ(排他的経済水域)の一部と主張してきたが、「国際水域」を否定し、主権と管轄権が及ぶ法的地位を明確にするのは、これが初めてだった。②の主張は、中国主権論に基づく「EEZの範囲」の解釈であろう。

 台湾海峡上空では、中国軍機が台湾防衛識別圏(ADIZ)に大量進入し、一方でアメリカ軍機もたびたび台湾領空を飛行し、台北の空港を離発着、アメリカ米軍艦が頻繁に台湾海峡を通過するなど、海峡の海上と上空で、米中軍事的緊張が高まってきた。そんな折の発言だけに、中国がアメリカ軍艦船や軍機の活動を妨害する「新たな軍事行動」に出るのではないかなど、その意図と狙いをめぐってさまざまな観測を呼んだ。

 まず台湾の反応だ。台湾外交部は2022年6月14日の記者会見で、「台湾海峡は国際水域だ。台湾の領海以外は国際法が定めた公海であり、自由航行の原則が適用される」と反論した。その狙いについて「故意に国際法の規則をねじ曲げ、台湾海峡を中国の排他的経済水域と矮小化するのは、台湾併合の野心の表れ」と、台湾への武力行使への警戒をあらわにした。

 アメリカも台湾の立場を支持した。ロイター通信は2022年6月15日の記事(「U.S. rebuffs China by calling Taiwan Strait an international waterway」)で「国務省のプライス報道官は、ロイター記者のEメールに『台湾海峡は国際水路(international waterway)である。台湾海峡は、国際法の下で高度な航行の自由と飛行の自由が保証されている』」と書いたとし「アメリカは台湾海峡を国際水路とする台湾の主張を支持し、戦略的な航行に対し中国は主権を行使するとの中国側主張を拒否した」と伝えた。

 ここで注意してほしいのは、「国際水域」(international waters)という用語は、国連海洋法条約(UNCLOS)に規定はない。その点で中国側の主張は正しい。プライス報道官もそれを意識したのか、ロイター記者への回答では「international waterway」(国際水路)と言い換えている。

■アメリカが行う「砲艦外交」

 台湾海軍の上陸用舟艇の艦長を務めた張競氏(台湾「中華戦略学会」研究員)によれば、「国際水域」とは、アメリカ海軍の「司令官海戦法ハンドブック」に登場する用語で、アメリカ軍が一方的に定義した概念という。ロイターの記事は「(アメリカ政府は)戦略的な航行に対し、中国は主権を行使するとの中国側主張を拒否した」と書く。「戦略的航行」とはアメリカ軍艦の台湾海峡通過を指す。アメリカのインド太平洋軍は、台湾をめぐる米中関係激化する中、2017年には年1回に過ぎなかった米軍艦の台湾海峡通過を、2019~20年から平均月1回に激増させた。

 通過の目的は何か。アメリカは1970年代から他国が領海や排他的経済水域といった海洋権益を「過剰に主張している」と判断した場合、それを認めない意思表示のため、海域を航行する「航行の自由」作戦を展開してきた。

 台湾海峡通過は「自由航行」原則に基づく航行であり、南シナ海で展開する「自由航行作戦」ではない。しかし先に引用した台湾海軍出身の張競は、台湾海峡通過は、アメリカの国防予算に関する「国防授権法」に定められた「軍事行動」であり、海洋覇権を維持するための「砲艦外交」と見なしている。

 ところで、アメリカがUNCLOSに加盟していないことはあまり知られていない。その理由は「海洋覇権」を維持するうえで、有利ではない「領海12海里」や「200海里排他的経済水域」に反対しているからだ。

 アメリカは、「法の支配」を強調し中国が不法に「自由で開かれた」海洋秩序を破壊しているとの印象を拡散しているが、アメリカ自身が国際的に広く承認されているUNCLOSに入っていない。だから、他国の領海12海里に侵入しても「違法性はない」と主張できる。

 一方、中国は1990年代から国際法の精神に沿うよう、遅れた国内法の整備を急いできた。国連海洋法条約の発効に併せて1992年に「領海法」を制定したのもその例だ。また2021年2月には「海警法」を制定した。日本政府やメディアは、中国が海警局を「準軍隊化」し、「武力で尖閣諸島(釣魚島)を奪おうとしている」と脅威論を煽った。だがその後の尖閣情勢をみれば、挑発が目立つのは右派組織が雇った漁船の行動であり、「海警法」は「国際法と国際慣行に合致する国内法整備の一環」という主張は合理的だと思う。

 中国の意図については、習近平国家主席が同じ2022年6月13日、「非戦争軍事行動要綱」に署名したことと関連付ける観測も出た。「行動要綱」の全文は公表されていないため、制定の意図もはっきりしない。だからその名称から、ロシアのウクライナ侵攻を「戦争」ではなく「特別軍事行動」と規定したことを想起する人もいると思う。

 台湾では、同要綱と台湾海峡の法的定位を重ね合わせ「台湾海峡の内海化を目指す動き」とみる解釈も出た。しかし新華社電では、要項は「リスクの挑戦を未然に防ぎ、緊急事態に対処し、人々の生命と財産の安全を保護し、国家の主権、安全、開発の利益を保護」とされ、主要には、洪水など自然災害での軍救援活動や新型コロナ救援など、国内安定を目的した規定と見るべきだ。「台湾独立」に対しては、2005年成立の「反国家分裂法」があり、台湾海峡の法的地位と結びつけるのは無理がある。

■中国にアメリカ軍艦を阻止する意思と能力はない

 結論を急ぐ。その狙いは、①国際法に規定されていない「国際水域」を否定し、国連海洋法条約に未加盟のアメリカの「弱点」を突くこと。国際法を順守せず「砲艦外交」を展開しているのは、中国ではなくアメリカとの政治的メッセージを発信、②中国は、バイデン米政権が「一つの中国」政策の「空洞化」を狙っていると警戒する。これを機に「台湾海峡両岸は統一していないといえども、中国の主権・領土は分裂していない」という現状認識に基づき、台湾海峡の主権を強調し「空洞化」を牽制、③中国外務省は「他国の関連海域での合法的権利を尊重する」と、外国船舶の通過通航権を認める方針を示した。UNCLOSの排他的経済水域での航行に関する規定は、公海と同じ扱いであり、軍艦と商船の区別はない。アメリカ軍艦の海峡通過にはこれまで同様、抗議するものの、阻止行動に出る意思も能力もない、ということだ。

 今回の法的定位は、より深刻な問題も提起した。それは「中国の主権・領土は分裂していない」という現状認識は、「(中国が)実効支配していない海域(台湾)で、第三国の船舶航行に対し、非支配側(中国)が異議を唱え、行動を制約することは可能か」という、法的で政治的な問いである。

 アメリカは「1つの中国」政策の順守を約束しているが、台湾問題を「中国の内政問題」とする中国の立場を認める可能性は低い。台湾をめぐる米中双方の軍事的、政治的力関係が大きく変化するまで、「法的定位」をめぐる米中確執は継続する。

東洋経済オンライン

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最終更新:6/25(土) 7:41

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