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トラックマンを日本で広めるアナリストの生き様、星川太輔氏が野球部門の責任者になったわけ

6/25 13:01 配信

東洋経済オンライン

 6月3日、東京ドームで行われた巨人―ロッテの交流戦は、“完全試合投手”佐々木朗希と巨人打線の対戦が注目されたが、BS放送では「トラックマン」のデータが表示された。佐々木は普通の先発投手の数値を大きく上回る2600回転以上の速球を投げ込み、改めてそのすごさが数字でも確かめられた。この「トラックマン」の日本代表をつとめるのが星川太輔氏だ。

 「トラックマン」はボールの軌跡を追跡・記録・分析するトラッキングシステムの代表的な製品の一つだ。一般にはなじみのない名前だろうが、NPBの現場スタッフでトラックマンの野球部門の責任者である星川氏を知らない人はいないだろう。

■トラックマンは現在野球界に深く浸透している

 MLBでは情報化、データ化は高度に進化している。

 今やチームの戦略はアナリストが立てていると言っても過言ではないが、NPBでも情報化は進展している。星川氏はその先端にいて、さらなる進化を推進している。

 もともとトラックマンは、軍事用に使用されていたドップラーレーダー式弾道追尾システムをスポーツに応用したものであり、ゴルフでの弾道計測に使われていたが、野球やテニスなど他の競技でも使用され、選手の評価や戦略立案などに大きな成果を上げている。

 なぜ星川氏が「トラックマン」を扱うようになったのか? 彼のキャリアも非常に興味深い。

 「中学までは野球をしていましたが、慶應義塾志木高校では応援指導部に入りました。学校で一番厳しい部活に入りたくて上級生に聞いたらみなさんが応援指導部だというので入りました。

 慶應義塾大学でも体育会が肌に合うなと思って野球部に入りました。野球部に問い合わせしたら経験なくてもいいよ、おいでと言っていただいて。でも高校時代の実績もないし、実力もないから裏方に回ることになる。慶應にはデータ班というのが昔からあって、当然そちらにいくことになった。

 当時、アソボウズという会社が、野球やサッカー関係のソフトウェア開発をしていて、僕らがアルバイトで試作品を担当することになった。きっかけはたまたまだったのですが、そのソフトで年間何百試合ものプロ野球の1球毎のデータをつける仕事をしたんです。

 すると、いろんなことが見えてきた。テレビの解説者がいろいろ話をするけど、ほとんどが結果論で予想は余り当たらない。自分の経験則だけで話をしているんだなとわかってきた。他方自分の予想はデータに基づいているので結構当たる。元プロ野球選手の解説を決して否定するわけじゃないけど、データの知見は武器になる、と思いました」

■データスタジアム時代に世界一を経験

 卒業後はそのままアソボウズに入社。アソボウズは2001年株主が変わりデータスタジアムになる。NHK BS1放送の「球辞苑」のデータ担当でおなじみの、スポーツデータを提供する企業の誕生だ。

 「はじめはデータアナリストの仕事をしてその後はビジネスを事業拡大する役割も担っていました。2009年のWBCで僕は侍ジャパンのデータ担当としてチームに帯同し、世界一を現地で経験しました。そのとき、あぁ、この仕事はもういいかなと感じました」

 星川氏は、いずれは「野球界に貢献したい」とは思っていたが、その前に「ビジネス」の経験を積みたいと考えていた。

 「野球界を良くするには外を知らないとだめだなと思ったんですね。閉鎖的で競争原理が働かない既得権益マーケットでは他の業界に比べてどうしても遅れをとってしまう。外でも活躍できる人材や外部の知見がないとこの業界は良くならない。それで機械部品を扱う商社である株式会社ミスミに入社した。

 この会社は自分の担当する商品に関して仕入れから生産、物流、販売、プロモーションまですべて自分でマネジメントしないといけない。さらに日本だけではなくグローバルで全責任を持ちます。自分が社長みたいなものです。ミスミで僕は一からビジネスについて勉強し、マネジメントや経営を学びました。その後にとっても大きな4年間でした」

 再び野球の世界に戻ってきた星川氏はトラックマンと出会う。

 「2015年くらいから日本のプロ野球チームが導入を始めましたが、はじめはみなさん半信半疑でした」

 星川氏は、アメリカで進化を続けるトラッキングシステムには、以前から強い関心を抱いていた。

 「データスタジアム時代に、投手の投球速度や投球軌道を追跡するスピード測定システムであるPITCHf/xがMLBで普及しだした。これはすごいと思って会社に事前に許可を得て、開発したスポーツビジョン社に連絡をして、MLBのウィンターミーティングに英語もできないのに一人で乗り込んだ。

 ウィンターミーティング開催中のホテルのスイートルームで、作った資料を見せて一緒にやろうと持ち掛けたんですね。それがトラッキングシステムとの出会いでした。その時のスポーツビジョンの担当者は僕と同い年で現在はMLB(リーグ)で働いていますね、たまに連絡をとっています」

 イチローがMLBで活躍していた時代、MLBの公式サイトでは投手の投球の軌道をオンタイムで表示していたが、これがPITCHf/xだ。2006年からMLB30球団で導入されていた。このシステムがトラックマンに置き換わったわけだ。

 しかしPITCHf/xは日本では普及しなかった。アメリカでは「スポーツの情報化」は猛烈な勢いで進んでいるが、日本では普及は遅々として進まなかった。

■日本とアメリカで野球に対する文化が大きく異なる

 「データスタジアム時代はPITCHf/xだけでなくセイバーメトリクス系(統計学に基づいたスポーツデータの分析学)のデータもいろいろ紹介したんですが、なかなか受け入れられなかった。トラックマンの導入はそれから数年経っていましたが、状況はあまり変わらなかった。

 正確な理由はわかりませんが、一つは文化の違いだと思います。日本とアメリカでは“ファンが何に感動するか”が全然違う。日本は“汗と涙のストーリーに感動”するわけですが、アメリカはそれだけではなく選手のパフォーマンスそのものとそれを数字で表現する習慣が末端の野球ファンまで浸透している。ファンが求めるものが違うんですね。

 それから市場、ビジネスの違いもありました。MLBは全米とカナダに30球団あります。その傘下にも多くのマイナー球団がある。選手がたくさんいて、しかも雇用の流動性が高いので、常に多くの選手が移動している。選手を売る側・買う側がより良い取引をするためには、選手のパフォーマンスを数値化しないといけなかったんです。選手の評価は株価みたいなものです。選手の将来をふまえた現在価値を算出している。

 これに対しNPBは12球団しかないし、市場に出てくる選手の数はすごく限られています。トレードも少ないし、自由契約になった選手は、数字で評価しなくてもプロのスカウトが普段から見ているのである程度わかります。

 日本のプロ野球選手は1000人しかいませんが、MLBはマイナーなども含めれば1万人以上もいます。また契約をする球団も、アメリカでは定性的な評価もしますが、データ、数字も非常に重要な要素として参考にします。しかし日本の場合、必ずしも数字に重きをおきません。チームとの相性、人柄、学歴などもふまえて判断します」

 当時、MLBではトラックマンに光学カメラによる画像解析を組み合わせた「スタットキャスト」と言う解析システムが30球団すべてで導入されていた。今、MLBの公式サイトでは一般的な記録(STAT)とともにスタットキャストのデータも公表されている。しかし日本でのトラックマンの普及はなかなか進まなかった。

 「球団によって価値基準や文化が違いますから。どちらかといえばIT系の親会社の球団は速かったですね。中にはアメリカに飛んで行って直で交渉した球団もありました。でもそれを活用するまでが、また時間がかかりました。

 導入しても1年目は“選手に見せません”と言う球団も中にはありました。“まず自分たちで理解しないといけない”みたいな感じで、2015年にスタートして浸透するまでに2~3年かかりました」

■投手が数値化されることに注目し始めていた

 「当時、ある球団にシーズン通して張り付いていたのですが、その球団のエースは登板の翌日、アナリストのところに必ずやってきて“あの時の投球のデータはどうだったか?”を確かめていました。自分の投球の感覚とデータを照合しているんですね。

 これを見たときに、時間がかかってもこれは間違いなく普及する、と思いました。投手は昔からボールの切れや回転の話をしていましたが、それが数値化されることに注目し始めたんですね。日本代表クラスのエースが言い始めたんだから、これは確実に広がるし広げていかないといけない、と思いました」

東洋経済オンライン

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最終更新:6/25(土) 13:01

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