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「休めない日本人」いまだ生み出す抵抗勢力の正体

6/25 16:01 配信

東洋経済オンライン

会議時間とストレスの相関を調べた調査では、1日4件の会議参加を境に高ストレス者が急増する一方で、連続する会議で5分程度の休憩を挟む「会議間インターバル」と、7時間以上の睡眠時間を確保する「勤務間インターバル」2つの休みを取り入れることで、そのリスクを軽減できることが明らかになりました。(「ネット会議やたら多いエリートの体調が危ない訳」4月1日配信)

有給取得率が60%に到達せず、生理休暇の取得率は1%前後。「休めない日本人」と揶揄されるほど、日本では休暇を取らずに働きづめのビジネスパーソンが大多数です。

「休めない空気」を生み出す、抵抗勢力の正体は?  テレワーク時代に求められる「休む技術」とは? 
心療内科医/産業医として、「休めない日本人」に向き合い続けてきた鈴木裕介医師と、男性の育児休暇取得や勤務間インターバルなど、「休む」に関連する法律を政策提言し続ける中で、その抵抗勢力とも向き合い続けた、株式会社ワーク・ライフバランス代表取締役・小室淑恵氏が語り合いました。

■小室淑恵氏が「休む」ことの重要性を痛感した大失敗

 鈴木 裕介(以下、鈴木):私は臨床現場で患者さんにお休みすることを提言する立場にいます。しかしこれまでの経験から、休むことに対して、申し訳なさや恥ずかしさ、恐怖といった心理的ハードルがあると感じてきました。

 疲労がたまりすぎて危険な水域に入っていても、休職などまとまった休みを取ることに対する抵抗が強い方はとても多いです。ある方は、休職することに「目標や指示もない部署にいきなり放り込まれるような怖さ」を感じるとおっしゃっていました。これまでの日常から切り離されて、先の見えないところに飛ばされる恐怖があるのだと考えています。

 また、その方の性格や状態にもよりますが、罪悪感を持たずに“ただ休む”ことができるようになるまでだいたい1カ月くらいはかかるんですね。

 その後、やっと自分の体にとって休むことが大事だと実感できるんです。その経過を見ていると、休んでみないとわからないことがあるんだなと、常々患者さんから学んでいます。

 小室 淑恵(以下、小室):私自身は元々は、仕事をどこで終わりにするか線が引けないタイプでした。前職では持ち帰りの仕事は当たり前。ですが、長男を出産後、同じスタイルは継続できないとすぐにわかりました。

 日中の育児に加えて夜中も続く授乳。当時は育児や仕事も、できるタイミングでできる限りやらないとと考えていました。しかしながら、睡眠が不足していくと、ちょっとしたことにネガティブな感情を抱くようになっていきました。そしてある日の夜中に、授乳のために起きたタイミングでメールチェックしてしまい、気になったことを指摘する社内向けに書いた強い口調のメールを、お客様に誤送信してしまったんです!! 。大反省しました。

 そこから生活スタイルを大転換しました。夜9時半には子どもと一緒に寝て、翌朝5時半に起きる生活にしました。授乳が必要な時には夫と交代制にするなど、もちろん育児の工夫もいろいろと凝らした結果、それまで喧嘩が増え続けていた家族関係も改善に向かったんです。大きなターニングポイントでした。睡眠、休息を取ることの大切さを痛感しましたね。休むことが物事の捉え方や認知の歪みも解消することを体感した時期でした。

 鈴木:そうですね、まずご自身が休むことの必要性に気づいてもらうのはとても大切なポイントになります。

 休むこと、睡眠不足に陥ると小室さんのような失敗が起こるのは、睡眠不足が、交感神経優位のバトルモード状態だからです。

 交感神経は身体を興奮させ、動きを活発にする「バトルモード」で、副交感神経は身体をリラックスさせ、休んで元気をためる「休息モード」です。

 人は「ここは安心だ」と思える環境や感覚を得て、自律神経が副交感神経優位の時になったときにのみゆっくり寝たりご飯を食べたりできるようにプログラムされているんですね。裏を返すと、睡眠不足とは「ここは安心だ」と思えない環境にいる状態で、言動も「バトルモード」になりがちです。

■休むことに抵抗感が強い会社で最初にやる施策とは

 小室さんは、ご自身の経験から、7時間以上の睡眠時間確保を目指す「勤務間インターバル」を政策提言されています。

 しかし、経済同友会が、国内のスタートアップ企業について、一定条件のもとで「時間外労働の上限規制の適用対象から除外すべき」とする提言を発表したことが象徴するように、休むことへの抵抗勢力が、日本には根強く存在します。
企業の働き方改革コンサルティングの場面でも、そうした抵抗感の強い会社と対峙することも多いと思いますが、どのように向き合ってきたのでしょうか? 

 小室:休むことに抵抗感が強い職場で最初にやる施策があります。それが「マニュアル休暇」です。全員が2週間程度のまとまった休みを取る練習をするんです。まず休みが取れたら何をしたいかを全員で書き出してもらいます。育児や介護などの理由がなくても、独身者も全員でカレンダーに休む予定を入れます。そして休む期間の仕事の引き継ぎの問題が発生するので、その際に利用するマニュアルを作成していくんです。マニュアルは、仕事を引き継ぐ側が書くと、いざその仕事をやってみる際に機能するマニュアルが作れます。

 マニュアル休暇の効果はいくつかあります。独身/既婚・子どもの有無等にかかわらずみんなが休みを取ることによって、お互い様になるので肩身が狭くなく休めるようになります。また、マニュアル化が行われるので劇的に仕事の属人化が解消されます。個人商店的な雰囲気から、チームへの配慮も生まれます。

 従来個人商店の働き方だと、誰かが困っていても助けられないので放っておくしかなかった状況が生まれてしまっていました。属人化を脱することが助け合える土壌を作るんです。

 鈴木:土壌作り、マニュアルもできて一挙両得ですね。それは当院でもぜひやってみたいです。

 ある日突然休職する方の傾向として、自分の都合よりも周りを優先して、環境や他者からの期待に完璧に近い形で従おうとする「過剰適応」傾向が挙げられます。そうした方の95%が、口癖のように「大丈夫です」と言ってしまうという結果が出ていますが、SOSを出すのが苦手な方にとっては、誰かが日常的に休暇を取得している状態というのは、安心して休暇を取得できますね。

■抵抗勢力を生み出す、アドレナリンの罠

 休みやすい土壌作りができても、次にハードルになるのが、ストレスは自覚するのが難しく、そもそも休む必要性を感じづらい点です。

 高ストレス者の57%が、自身が高ストレス者であることを自覚していないという結果が明らかになっています。

 対策としては次のようなことが考えられます。開発者によって精度にばらつきはあり発展途上の領域ではありますが、声や自律神経など生体情報を活用したストレスチェックのアプリなども存在します。自身の感覚だけに頼らず、そうしたテクノロジーを活用するのも、選択肢の1つだと思います。

 実はストレス状況下では、アドレナリンやコルチゾールなどの抗ストレスホルモンが分泌されることで、一時的にパフォーマンスが上がっていることが多いんですね。そうなると、ますますストレスを実感することが難しく、むしろ「調子がいい」とすら感じるので、注意が必要です。疲労感が伴わないまま、密かに進行する疲労というのがいちばん厄介です。

 小室:このアドレナリンによる罠も、抵抗勢力が根強く存在する理由の1つです。

 DawsonとReidの1997年の研究によると、人間の脳が集中力を発揮できるのは、起床から13時間以内で、それ以降は酒気帯び運転と同程度の集中力しか保てません。

 さらに怖いのは、アドレナリンやコルチゾールによって、起きてから24時間を超えると集中力が一時的に上がってしまう点です。

 ここで一時的に仕事が進んだ感覚を経験すると、それが強い成功体験になってしまいます。実際には朝起きて13時間から24時間までの11時間は、著しく生産性が落ちているわけですから、トータルで見た時には企業にとっても本人にとっても大きなマイナスなのですが、最後の数時間の記憶が、長時間労働を成功体験にしてしまい、休むことを軽視しがちです。

 そうした背景もあり、私は7時間以上の睡眠時間確保を目指す「勤務間インターバル」を政策提言しています。

 ストレスと密接な関係がある睡眠時間の確保を、法律で仕組み化することで、自覚できていないストレスにも対策可能にすることが狙いです。

■抵抗勢力が押し黙る、データの正体

 鈴木:小室さんは「一時的に仕事が進んだ感覚を経験した」抵抗勢力の方々に遭遇したときは、どのように向き合っていますか? 

 小室:2021年6月科学雑誌『ネイチャー』に、現役時代に 6時間以下の睡眠を続けた人は、定年後の認知症の発症率1.3倍、というデータが掲載されました。このデータを管理職研修などで紹介すると、場の空気が変わります。人生100年時代ということは、約40年も続く定年後の人生です。そのQOLを決めるのは、現役時代の働き方・休み方なのだ、ということですね。

 また、抵抗勢力の人たちは「正義感が強い」ことも理解する必要があります。

 以前「もし有休が取れたら本当は何をしたいか」をテーマに付箋を使ったワークショップを実施しました。

 出てきた回答は「ライブに行きたい」「ディズニーランドに行きたい」など、もし休みが取れたらやりたいことが沢山ある!  そんな思いが詰まった回答がたくさん出てきたんですね。

 それを見た抵抗勢力だった人は驚かれていました。「休むよりも仕事をしたいと思っていたのは自分だけ?」とハッとしたと言います。

 その方はみんなと一緒に成果を出したい、みんなの役に立ちたい気持ちが高い人でもありましたが、そこで初めて自分の考え方や行動が、みんなが休めない状況を作っていたことに気がついたんです。

 悪気なく自分の考え方を強制していたことに最初はショックを受けていたようでした。

■権力と影響力を理解することは重要

 鈴木:自分の背後に流れるパワー(権力)とその影響力を理解することは重要ですよね。自覚していなくても強制力を持ってしまったり、本音を聞けていなかったり。いつのまにか自分が権力側に立っていて、自分にとって耳当たりのいいことばかりしか耳に入らないようになってくる。これはとても恐ろしいことだと思います。

 それに、「強者」だけでなく、「弱者」にあたる人の背後にもパワーが流れている、ということも重要な点だと思います。

 最近では「心理的安全性」の重要性が言われるようになって久しいですが、それを意識しするあまり上司が部下に何も言えなくなる場合が出てきて、かえってコミュニケーションの質が下がっているケースが少なくありません。「強者」と「弱者」は容易に入れ替わります。新しい仕組みやカルチャーを推進していくうえで、こうしたパワーの感覚への深い理解が欠かせないと思います。

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最終更新:6/25(土) 16:01

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