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一橋大「入試流出」中国人受験生が東大を避けた訳

6/18 9:01 配信

東洋経済オンライン

 今年1月に行われた一橋大学(東京都国立市)の外国人留学生向け入学試験中に問題が外部に流出した事件で、中国人2人が偽計業務妨害容疑で逮捕された。

 カンニングありきなら海外でも知名度が高い東京大学の受験を選びそうだが、なぜ一橋大学だったのか。捜査中のため詳細は明らかになっていないが、コロナ禍であることを考慮した一橋大学の「配慮」が、悪用された可能性もある。

 逮捕されたのは一橋大学1年生の王嘉璐容疑者(22)と、大学院生で王容疑者の家庭教師をしていた李歳寒容疑者(28)。報道によると王容疑者は入試問題を動画撮影して李容疑者に送信。王容疑者の自宅からは超小型のワイヤレスイヤホンが押収されており、李容疑者が問題を解いて解答を伝えたと見られる。

 ただ、李容疑者は苦手だった数学の解答を別の中国人に依頼し、この中国人がSNSを通じて協力を呼び掛けたことから、不正を疑った投稿閲覧者が一橋大学に通報。問題流出が発覚した。

 両容疑者の逮捕後、事件を取材する複数の記者から中国の受験事情について質問を受けたが、筆者が疑問に思ったのは、「不正ありきならなぜ東京大学を受けなかったのか」という点だ。

■なぜ東大にしなかったのか

 一橋大学はたしかに難関だが、総合大学でないこともあってグローバルでの知名度は日本国内ほど高くない。イギリスのクアクアレリ・シモンズ(QS:Quacquarelli Symond)が先日発表した2023年版「世界大学ランキング」では上位500位に入っておらず、筑波大学、広島大学、千葉大学より下位にある

 (※ただし大学ランキングでは理系学部が充実した総合大学のランクが高くなりやすく、中国で社会科学系大学としてトップレベルにある中国人民大学も、今年5月にランキング不参加を表明している)。

中国の学歴社会、受験戦争の激しさは日本の比ではなく、「母国に比べたらトップ大学に入学しやすい」と日本に来る中国人は少なくない(中国の入試で起きたカンニング事件に関しては、こちらから)。カンニング前提なら、日本最難関の東大を受けるのが最もコスパがいいはずだ。

 だが気になって調べると、一橋大学の外国人向け入試は他の難関国立大に比べ、カンニングの効果が高い方式であることが分かった。

 日本の大学の多くは、年に2回行われる「日本留学試験」の成績を学部入試の合否判定に利用する。日本の大学の講義についていけるかを測る同試験は「日本語」「総合科目」「数学」「理科」から構成され、留学生版「共通テスト」という位置づけだ。

 東大の文系学部は日本留学試験の「日本語」「総合科目」「数学」の成績と英語力を測るTOEFLのスコアで一次選考を行い、二次試験は小論文と面接となっている。

 京都大学の経済学部と法学部は、小論文の代わりに日本人学生が二次試験で受験する「国語」を課すなど、細部に違いはあるものの、難関国立大はTOEFLと日本留学試験、志望理由書などで一次選考を行い、小論文や面接で二次選考を実施するのがおおむねスタンダードとなっている。

 この形式だと、問題を外部に送って協力者が回答を送信するという不正行為は難しい。

■マーク中心で合否が決まる一橋

 対して一橋大学は私費外国人向け入試で日本留学試験の成績提出を求めていない。その代わりに王容疑者も受験した個別試験で「日本留学試験相当」の数学と総合科目の試験を行っている。募集要項によると、コロナ禍で日本留学試験が受けられなかった受験生に配慮した措置で、2021年度、2022年度の特例のようだ。

 2020年度までは満点2000点のうち1420点は出願時に提出する外部テストの成績が使われ、入試当日の試験の配点は580点だった。しかし2021年、2022年は入試当日の試験の配点が1580点となった。

 日本留学試験の総合科目、数学はいずれも複数の選択肢から正答を選ぶマーク試験なので、一橋大学が実施した「日本留学試験相当」の試験もその形式を踏襲し、マーク中心だった。マーク試験なら、イヤホンを使って解答を教えるのは難しくない。

 事件を取材している警視庁担当記者によると、李容疑者は「王容疑者の実力では合格が難しいから不正に協力した」と供述しているという。

 王容疑者が過去に受験した日本留学試験の成績が振るわなかったことから、そのスコアを必要とせず、不正をしにくい小論文や面接も行わず、マーク中心の学力試験で合否が決まる一橋大学に目を付けたのではないか。「コロナ禍」を考慮した受験生への配慮が悪用された可能性がある。

 警視庁担当記者によると、22歳の王容疑者は「日本の他の大学に在籍しながら一橋大学を受験して再入学した」という。つまり仮面浪人だったようだ。

 今年1月の共通テストで不正を行った女子学生も他大に通いながら再受験しており、「試験会場から動画で問題を外部の協力者に送る」「協力者が第三者に解答を依頼し、不審に思われて通報される」と共通点が多い。

 仮面浪人に関するデータはないが、コロナ禍によるオンライン授業を背景に非常に増えているように思う。

 大学の合格発表が集中する2月下旬から3月上旬にかけて、ツイッターで合否をツイートしたアカウントには仮面浪人を名乗る受験生が少なくなかった。

 早稲田大学3年生の田中さん(仮名、22)は、オンライン授業で単位を取りながら受験勉強を継続し、2021年、2022年と東大を受験して不合格だった。今年は対面授業が増えたが、大学には週1回しか行かず、ほかの日は予備校に通って「三度目の正直」を目指している。

 「入学式がなくて大学生になった実感がなく、この2年は家で受験勉強をしていたので友達もいない。今さら早稲田には戻れない」と話す。

■孤独感を感じやすい留学生

 コロナ前に来日し、日本での生活になじむ前に自粛生活に突入した留学生は、より挫折と孤立感を感じやすい。日本の大学院進学を目指して中国・大連市から2019年9月に来日した韓陽さん(仮名、24)は、1年~1年半日本語学校に通い、国立大学の大学院に進学する計画だったが、日常会話を習得する前にコロナ禍で日本語学校が休校したことで歯車が狂った。

 飲食店の一斉休業などでアルバイトの機会もなく、2020年7月には、年間100万人以上が受験し、多くの企業が外国人採用の判断に使う日本語能力試験も中止された。

 韓さんは日本語の学習を中断し、英語カリキュラムで学べる大学院の受験に切り替えた。進学はできたものの、来日3年経っても日本人の友人は1人もいない。

 中国の強烈な学歴社会を反映していると同時に、日本の入試不正対策の甘さが改めて浮き彫りになった事件でもある。

東洋経済オンライン

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最終更新:6/18(土) 9:01

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