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「観客フル動員」になってもプロ野球が伸び悩む訳、カギを握るのは応援解禁か、野球の魅力アップ

5/29 14:01 配信

東洋経済オンライン

 筆者は新型コロナ禍でもプロ野球の観戦を続けていた。2020年7月、無観客から上限を設定しての有観客試合が始まった直後からスタジアムに出かけ、厳重な感染症対策を守りながら試合を見てきた。以来2年、閑散とした球場で野球を見るのが当たり前のようになっていたが、今年3月、オープン戦で隣のシートに人が座って驚いた。

■上限緩和で入場者100%に

 昨年11月、日本野球機構(NPB)とJリーグは、新型コロナウイルス対策連絡会議を行い、2022年は入場者100%をターゲットに置き、対策、研究を進めると発表した。10月中旬には、12球団でワクチン・検査パッケージを活用して上限を緩和する技術実証を実施。観客数を制限しなくても、大きなリスクがないことを確認したうえでの決断だった。

 その背景には、12球団の深刻な経営状態がある。NPB球団は経営情報を開示していないが、NPBと歩調を合わせて感染症対策を実施してきたJリーグは昨年7月に「2020年度クラブ経営情報開示資料」を発表、これによるとJ1~J3の56クラブのうち43が前年より営業収益を減らし、35が単年度赤字、10が債務超過に陥っているとのことだった。

 NPB各球団もここ2年は厳しい経営状態だったと考えられる。1954年の国税庁通達によってNPB球団の親会社は、球団の経営支援のために支出した金銭を「広告宣伝費」として算入することが認められている。広島を除く11球団は親会社の連結子会社になっているので、その多くが広告宣伝費名義の損失補填を受けたものと思われる。

 今年1月、筆者はこのコラムで埼玉西武ライオンズ、横浜DeNAベイスターズの営業部門の責任者の話を聞いたが「一番の肝となる観客動員が作れなかったというのは、率直に言って非常に苦しかった」(DeNA、林裕幸ビジネス統括本部長)、「すでに球場の改修が進んでおり、これから観客動員を増やしていこうと意気込んでいた矢先でのコロナ禍でしたから、なおさらダメージが大きかった」(西武、光岡宏明経営企画部長)と口をそろえて苦境を訴えた。

 今シーズンの「観客フル動員」は大げさでなく「NPB存続」に関わる喫緊の課題だったのだ。

■開幕から2カ月後の各球団の状況は? 

 12球団の要望を受けて「フル動員」で始まった今季、開幕から約2か月の状況でどうなっているのだろうか? 

 交流戦前の5月23日時点での各球団の数字を見ていこう。コロナ直前の2019年と今季の1試合当たりの観客数と動員率(=観客数÷収容人員)、2022年の%は、2022年の動員率の2019年との比較。

 なお、NPB球団は地方球場でも主催試合を行うが、これは除外した。12球団の本拠地(オリックスは京セラドーム大阪とほっともっとフィールド)13球場のみの比較とした。球場によっては2019年と2022年で収容人員が異なる場合もあるが、これも加味した。

セ・リーグ
ヤクルト(神宮)
2019年67試28,359人(91.57%)
2022年18試18,627人(51.55%)56.30%
阪神(甲子園/京セラD)

2019年71試43,124人(93.61%)
2022年26試36,765人(86.60%)92.51%
巨人(東京D/京セラD)
2019年67試43,873人(97.45%)
2022年23試32,934人(71.60%)73.47%
広島(マツダ)
2019年70試31,766人(96.26%)
2022年24試27,500人(83.33%)86.57%
中日(ナゴヤD・バンテリンD)
2019年71試32,188人(88.50%)

2022年22試23,631人(64.97%)73.42%
DeNA(横浜)
2019年71試32,162人(98.59%)
2022年22試24,384人(71.62%)72.65%

 昨年の日本一、ヤクルトの観客動員は収容人員のほぼ半分と厳しい。コロナ前との比較でも56.3%だ。今年の3月の東京の気温が前年より低かったこと、開幕カードが他球場で行われたこと、土日の試合が少なかったことなどが原因かと思われるが「神宮球場ガラガラ、ヤバい」とSNSで話題になっている。

 開幕から最下位に沈む阪神だが、コロナ前との比は92.51%とかなり善戦している。対照的に巨人はコロナ前の4分の3程度の入り。「当日券が普通に買えた」との声もきいた。広島は2019年の9割弱の入り。今季は好調で首位争いをしていることが大きいか。

 DeNAは本拠地の横浜スタジアムが東京五輪会場に決まったことを受けて改装工事に着手。2020年2月には、収容人員は2019年よりも2,812人多い34,046人まで拡大した。しかしコロナ禍のためにここ2シーズン一度も「満員御礼」を出していなかった。今年は開幕戦で32,436人、5月14日には史上最多の32,481人を動員し「満員御礼」が出た。しかしトータルでは71.62%の動員率、2019年との比較でも72.65%にとどまっている。

 セ・リーグ全体の数字は以下の通り。

2019年417試35237人(94.37%)
2022年130試27548人(72.48%)76.80%
 2019年の4分の3強の動員ということになる。

■パ・リーグの動員はセ・リーグよりも少ない

 より深刻なのはパ・リーグの観客動員だ。

パ・リーグ
オリックス(京セラD/ほっともっと)
2019年71試 24,423人(67.90%)
2022年26試18,542人(51.42%)75.31%

ロッテ(ZOZOマリン/東京D)
2019年71試23,463人(77.33%)
2022年22試21,713人(72.09%)92.23%
楽天(楽天生命)
2019年67試26,489人(86.17%)
2022年16試19,048人(62.43%)72.45%
ソフトバンク(ヤフオク・PayPay他)
2019年67試38,253人(94.94%)
2022年17試29,874人(74.68%)78.66%

日本ハム(札幌D/東京D)
2019年67試28,422人(68.01%)
2022年25試14,111人(33.82%)49.73% ※入場制限あり
西武(メットライフD・ベルーナD)
2019年67試26,074人(79.68%)
2022年22試16,075人(50.95%)63.94%

 昨年のパの覇者、オリックスもヤクルト同様、半分強しか観客席を埋めていない。2019年比では75.31%だ。ただし5月17、18日の神戸、ほっともっとフィールドでの日本ハム戦は両日ともに21,000人余を動員、2019年実績を上回った。チーム状況の好転とともに動員は上向きだ。

 ロッテはパ・リーグでは動員の落ち込みが最も少ない。2019年と比して92.23%、1試合当たり1700人ほどの減少でとどめている。首位を走る楽天だが、収容人員の6割強しかお客が入っていない。これまで本拠地の楽天生命スタジアムは改装を重ねお客を呼んできたが、厳しい状況だ。

 2019年までソフトバンクはヤフオクドームをほぼ満員にしてきた。しかし今年は74.68%の動員率、2019年比で8割弱にとどまっている。

 深刻なのが日本ハムだ。開幕から入場制限をかけていたが、パ・リーグ最大の収容人員(41,138人)の札幌ドームで14,000人ほどしか入っていない。動員率は30%台、コロナ前の半分以下だ。4月6日のロッテ戦の7,953人など1万人以下の試合が4試合もある。

 西武は2021年に球場、周辺施設を大改修し名称もメットライフドームからベルーナドームに代わったが4月23日の26,257人が最多で、収容人員(31,552)いっぱいまでお客が来たことはない。

■コロナ前の4分の3の動員率に

 パ・リーグ全体では以下の通り。

2019年409試27,782人(78.76%)
2022年128試19,366人(55.02%)69.86%
 セ・リーグよりも観客動員は厳しい。そしてNPB全体では以下のようになる。

2019年826試31,546人(86.86%)
2022年258試23,488人(64.15%)73.85%

 2019年のプロ野球は9割弱の動員率。両リーグ合わせて26,536,962人は史上最多。しかしコロナ禍で無観客から入場制限をして行われた2020年は4,823,578人と2019年比18.17%まで激減、2021年は規制が多少緩和されたものの7,840,773人、2019年比29.54%だった。それだけに今季の「フル動員」は、12球団の悲願でもあったのだ。

 各球団の今季への期待は大きかったが、コロナ前の7割強の動員率は厳しいと言わざるを得ない。オミクロン株になって重症者、死者数は減少したが、陽性者数は減っていない。国は段階的に規制を緩和しつつあるが、客足に影響しているのは間違いないだろう。

 それ以上にプロ野球の場合、「応援が規制されていること」が大きい。「ずっとレフト側の応援席で応援歌を歌ったり大声で声援を送ったりしてきた。ストレス発散できたし、生きがいだったが、今は球場に行っても手拍子以外何もできないから、かえってストレスがたまる。だから行かない」

 関西在住のロッテファンは語る。今の球場は歌ったり声を上げるのは禁止。ハイタッチもできないしジェット風船なども禁止、客席の移動もできない。

■外野の応援席の動員は芳しくない

 一部に禁を破って大声を出して顰蹙を買うファンもいるが、概ねファンは規制を順守している。警備員が定期的に巡回して大声をあげたり、マスクを着用していない客を注意している。

 外野の応援席の動員は芳しくない。プロ野球の魅力は「観戦」だけでなく「応援で試合参加」することにある。それができない今の球場は「魅力が半減」していると感じるファンも多いのだろう。

 Jリーグは政府の基本的対処方針に基づき効果的な感染症対策を講じながら声を出して応援できる「声出し応援エリア/声出し応援席」を段階的に導入していくことを決定した。NPBも同様の措置を取ると思われる。今後の観客動員の動向に注視したい。

 それにしても日本ハムの観客動員の低迷は衝撃的でさえある。日本ハムは実質的にMLBでいう解体モード(高年俸のベテランを放出し、若手中心のチーム編成で数年後の飛躍を期すこと)だ。チームの低迷は織り込み済みで、今年は来年の北広島市の新球場移転へ向けての「前景気」をより重視していたはずだ。BIGBOSSこと新庄剛志監督の起用は、まさにそのためであり、話題作りで注目を集めたかったはずだ。

 事実、前評判は上々で、一部メディアは「日本ハム戦は黄金カードになる」とまで書き立てたが、ふたを開ければ入場制限下でも満員は開幕戦だけと惨憺たる状況だ。結局、日本ハムファンは「チームの活躍」が見たいのであって「野球以外での盛り上がり」は求めていなかったのではないか。

■ロッテの観客動員が善戦している理由

 対照的に同じパ・リーグではロッテが動員率72.09%、コロナ禍前の93.23%と善戦している。これは明らかに「佐々木朗希効果」だ。佐々木が登板した試合に限れば、本拠地ZOZOマリンスタジアムの動員率は79.00%(1試合平均20,800人)、4月10日の完全試合の次戦以降に限定すれば97.55%(29,383人)になる。

 またビジターでも4月24日のオリックス戦(京セラD)は80.13%(28,967人)、5月21日のソフトバンク戦(PayPayD)は92.39%(36,956人)を動員した。要するに野球ファンは「BIGBOSSより佐々木朗希を見たい」と思ったのだ。

 日本ハムとロッテの対比は「プロ野球の魅力とは何なのか?」を端的に表している。話題作りも大事だろうが、コロナ明けの野球は「競技としての本質的な魅力」をよりアピールすべきではないかと思う。

東洋経済オンライン

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最終更新:5/29(日) 18:41

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