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ピアニスト「反田恭平」が飛び抜けている理由、新しい形でオーケストラを運営する意味とは?

5/28 17:01 配信

東洋経済オンライン

 今最も話題のピアニスト、反田恭平氏。2021年第18回ショパン国際ピアノコンクールで、日本人としては51年ぶりに2位受賞を果たした。

 2016年のデビュー・リサイタル以後、ピアニストとして精力的に活動しており、メディアにも多数出演。コロナ禍、コンサートの中止や延期が続いていた時期にいち早く有料動画配信を始めるなど、新しい取り組みに意欲的なことでも知られる。

 さらに敢えて世界最高峰のショパンコンクールコンクールに挑戦し見事輝かしい賞を獲得したことは、実力をさらに確実に示すとともに、自らの夢に向かう道を大きく広げた。

■「代表取締役」としての顔

 そんな反田氏のコンサートが5月10日、サントリーホールにおいて開催された。氏がいわゆるアンバサダーの役割としてのブランド・フレンド契約を結ぶ、ビーエムダブリュー(BMW)の主催による「BMW Presents 反田恭平&フレンド スペシャルコンサート」だ。

 車とクラシック音楽。一見して異質な印象のある、このコラボレーションはどのように生まれたのだろうか。今回、コンサート前のひととき、反田氏へのインタビューの機会を得た。

 まず、反田氏をクラシック音楽界において特異な存在たらしめているのが、「“株式会社”ジャパン・ナショナル・オーケストラ(JNO)」代表取締役としての顔だ。一般的にオーケストラは利益を追求しない「財団法人」という形で運営されており、株式会社化は世界的に見ても非常に珍しい。

 こうした新しい形でオーケストラを運営する意味を、反田氏は次のように説明する。

 「オーケストラの奏者にあって、僕たちピアニストや指揮者にないのが定年退職なんです。奏者にもぜひ同じ気持ちを味わってもらいたいと(笑)。いい意味としては、JNOで培った音楽性や技術を世界で発揮してもらうべく、終身雇用のない短期契約にしているわけです。でも、希望すればいつでも帰ってこられるホームグラウンドでもある。これだけで、フレキシブルで新しいオーケストラの形を示すことができたと思っています」

 細部を補足すると、JNOはDMG森精機の寄付による森記念製造技術研究財団と、これも反田氏が代表を務める音楽事務所、NEXUSが共同出資して2021年5月に設立。奈良を拠点にしながら、定期公演やソリストのコンサート、音楽配信、音楽サロンでのファンとの交流や音楽指導を軸に活動していく。

■若手ソリストを育成する学校が夢

 反田氏がJNOで目指す夢が、若手ソリストを育成する音楽学校の設立だ。理想とするのは「オーケストラを擁し、優れたソリストの輩出を支える学校」という。

 「野球の練習でも、壁打ちばかりなのと、キャッチャーがいてアドバイスしてくれるのとではステップアップの速さがまったく違いますよね。同じように、一人で弾いているよりはオーケストラが伴奏をしてあげれば、歴然とした差が出てくる。ですが、専属のオケをもって親身に授業をやっている学校は世界的にもなかなか存在しません。ソリストを育てるうえでは絶対に必要だという、その思いが僕の原点です」

 またJNOをウィーンフィルやベルリンフィルなどに比肩しうる、日本を代表するオーケストラに育てたいという思いもある。

 ロシアやポーランドといった留学先でさまざまな海外の学生と接し、日本のクラシック音楽界について感じるのは「お国柄なのか、音楽をやるうえでの覚悟、ハングリー精神が低い」ことだそうだ。確かにある程度豊かな日本では、音楽に携わる人が多い一方、皆が皆、音楽で経済的に自立できているわけではない。

 一つには、芸術を精神的なもの、お金は世俗的なものと考える国民性がある。そのため芸術とビジネスを切り離して考えがちだが、実際にはそんなことはない。ハイドン、モーツァルトを始め、クラシック音楽の作曲家にとって、スポンサー探しや活動費用の捻出も仕事の一部。大作曲家と言えど生活苦と隣り合わせだった。それゆえ、ハングリー精神をもって音楽に取り組んでいたのである。

 そうした歴史を振り返ると、反田氏の目指すクラシック音楽業界のあり方も理解できる。

 では今回BMWのブランド・フレンドに起用されたことに対し、反田氏はどのような期待を抱いているのだろうか。

 「音楽なら音楽に懸命に打ち込むことでBMWのような車に乗れることを示して、若い世代の活力になればいいなという思いがありました」と反田氏。

 というのも、フレンド契約の一環としてブランドの車両をレンタルできることも、氏にとって大きな魅力だったからだ。留学続きで免許を取得していなかった氏だが、すぐに免許合宿を受け合格。「運転経験があるのか」と教習所の教官に驚かれたほどスムーズだったそうだ。

 ただ、氏の初見と暗譜能力の高さはよく知られており、例えばピアノ協奏曲なら2日程度で暗譜(譜面を見ずに演奏すること)してしまうという。記憶力と集中力、そして、頭の中にあるイメージを身体で表現するパフォーマンス力が傑出しているということだろう。その力が運転にも現れるのかもしれない。

■「運転は自分に合っている」

 現在は、「X7」という6気筒の4輪駆動車を乗り回している。一般に自家用としてイメージする車よりは一回り大きく、都内で乗りこなすためには発達した車幅感覚を必要としそうな車だ。

 「免許をとったときに“クリープ現象”(ブレーキを放すとアクセルペダルを踏まなくても車が動き出すオートマチック車で起こる現象)に感動しました。そのぐらい、車のことは何も知りませんでした。でも運転は自分に合っていると感じます。職人が手がけた細かな部品から成り立っているという点は、ピアノと似通っているものがありますね。あと、具体的に音楽活動にも非常に役立っているんですよ。現代の日本で雑音のない環境ってなかなかないですよね。でも、車の中だとそれが可能。音楽を聴きながらスコア(総譜)の勉強をしたり、リハーサルのための最終チェックをしたりで車を活用しています」(反田氏)

 このように、車というツールになじみ、音楽活動においてBMWを大いに活用している反田氏。ビジネス面での利点は別にしても、協業し合うコラボレーションというあり方に深く興味を抱いているそうだ。これは反田氏の「一人でピアノを弾くよりは連弾や室内楽で演奏したり、指揮者として多くの人と音楽をつくりあげることに喜びを感じる」という音楽面の性質とも通じ合う。

 5月10日のコンサートでは、反田氏によるショパンの楽曲のほか、会場の聴衆がJNOを指揮できる演目、反田氏が指揮を務めるピアノ協奏曲などバラエティーに富んだものとなった。ピアノ協奏曲でソロを弾いたのは2012年に日本音楽コンクールで反田氏とともに1位に輝き、今も“バディ”として音楽活動を共にする務川慧悟氏。

 一般的なコンサートでは2人のピアニストの演奏を聴ける機会はあまりない。またアンコールでは2人による連弾も行われ、両氏のファンのみならず、日頃クラシックに親しんでいない人にとっても楽しめるコンサートとなった。2023年には両氏の連弾コンサートツアーが開催される見込みだそうだ。

■ウクライナを始めとする世界情勢について

 最後に、ウクライナを始めとする世界情勢についても思いを聞いた。

 「ロシアにもウクライナにも友達がいるので複雑な気持ち、いたたまれない気持ちということしかありません。僕がすごくお世話になった先生もウクライナ人による曲をロシアで弾いて捕まってしまった。音楽と政治をくっつけてはならないが、難しいですね。ショスタコーヴィチなど、戦争を背景に作品をつくった作曲家もいます。今そういうことがまた起こってしまっているのかな。不思議な時代と感じています。だから自ら進んで音楽で発信したりはなかなかできないし、何をすればよいかもわからない。でも、たまに演奏しているときに、そういうことをこっそり思ったりすることはあるんです」(反田氏)

 音楽に国境はないと言われる。ベートーヴェンの第九交響曲では「すべての人は兄弟になる」と歌われる。コロナ禍では多くの人が音楽に救われた。音楽とは善なるものであり、人の心を結びつける力を持つ。しかしそれゆえに、権力に利用され翻弄される悲しい時代もあった。再びそのときが来たのだろうか。

 この日会場に響いた音に、言葉にならぬ思いを受け取った人は多くいることだろう。

東洋経済オンライン

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最終更新:5/28(土) 17:01

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