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ロンドン「女王陛下の鉄道新線」で何が変わるか 都心横断「エリザベス線」開業、新たな大動脈に

5/27 5:41 配信

東洋経済オンライン

 ロンドンを横断する鉄道新線「エリザベス線」が5月24日、ついに開業した。ロンドン中心部を東西に結ぶ新たなトンネルを建設、両端の既存の近郊鉄道やヒースロー空港へのアクセス路線をつないで新たに一体のルートとした路線で、既存路線区間を含む総延長は100km超に及ぶ。

 この大規模プロジェクトは「クロスレール」と呼ばれ、新規開業のトンネル区間は2009年に着工。建設中は度重なるトラブルに見舞われ、一時は「完成しないのではないか」とささやかれるほどだったが、当初の開業予定だった2018年12月から3年半遅れで開業へとこぎつけた。

 年間利用者数は2億人と予想され、新たな住宅開発や雇用創出による経済効果は420億ポンド(約6兆7300億円)に達するとも言われる。コロナ禍による大きな痛手から経済復興を目指すイギリスにとって、エリザベス線は「新時代の大動脈」になるものと期待されている。

■新規開業区間は約21km

 待ちに待ったエリザベス線開業の初列車は午前6時33分、都心のパディントン駅を出発し、ロンドン南西郊外のアビーウッドに向けて走り出した。この両駅を結ぶ区間こそが「クロスレール」プロジェクトで新たに建設した開業部分(全長約21km)だ。当面は月曜~土曜の6時30分~23時00分に平均5分間隔で列車が走り、日曜は運休する。

 新規建設区間は、ほぼ全体がトンネルからなる。パディントン駅から東に延びるトンネルは、ロンドン東部のホワイトチャペル駅の先でY字型に分岐している。一方は新金融街のカナリーウォーフ駅を経てテムズ川をくぐり、その先で地上に出てアビーウッド駅に至る上述のルートだ。もう一方は、ロンドン五輪のメイン会場最寄りの東部のストラットフォード駅へ向かう。

 ロンドン交通局(TfL)は当初、パディントン―アビーウッド間の今回の新規開業部分のほか、ストラットフォード駅から先のグレート・イースタン本線区間(東側)、パディントン駅から先のグレート・ウェスタン本線(西側)の2つの既存路線を結ぶ全面的な開業を目指した。

 しかし、5月24日の時点ではそれはかなわず、3つに分割された線区として出発進行となった。これらが全面的に直通運転するのは、2024年の5月ごろを予定している。

<5月24日の新規開業部分>(左が西側・右が東側)
パディントン駅―ホワイトチャペル駅―カナリーウォーフ駅―アビーウッド駅
<東側>既存路線
・グレート・イースタン本線
リバプールストリート駅(地上駅)―ストラットフォード駅―シェンフィールド駅
<西側>既存路線

・グレート・ウェスタン本線およびヒースローコネクト
パディントン駅(地上駅)―ヘイズ&ハリンドン駅―レディング駅/ヒースロー空港

■「ロンドンの交通史を書き換えた」

 全面開通とはならなかったものの、ロンドン中心部の地下を最高時速145kmで高速運転できる電車が走り出したのは大きなインパクトとなる。

 ロンドンのサディク・カーン市長は、いよいよ念願のロンドン都心部を貫く区間の営業運転が始まったことについて「この真新しい鉄道路線は、数十年ぶりに公共交通網の歴史を書き換えた最大のプロジェクトだ。ロンドンに何十億もの経済効果をもたらすだろう」と期待感を示す。運行会社も、「市民に対し、新しい地下鉄利用ルートの選択肢を提供し、コロナ禍からのより広範な経済再生と回復を後押しするものとなる」と強調する。

 エリザベス線はロンドンでも特にオフィスワーカーの多いエリアを結ぶ。今回の開業でロンドン中心部の鉄道の旅客輸送容量が10%増えたが、これは過去70年以上で最大の公共交通の輸送容量の増加となる。

 路線名称は、女王の名にちなみ「エリザベス線」と命名された。地下鉄の路線図には、紫色をシンボルカラーとした新たな線区が書き加えられている。

 開通予定日の1週間前となった5月17日、新規開業部分の起点であるパディントン駅で開催された式典には、路線名の由来となったエリザベス女王(96)がサプライズ出席し、市民を大いに驚かせた。この式典で女王は、自身の三男ウェセックス伯爵エドワード王子を伴い、明るい黄色のドレスをまとって登場。杖をついてはいたものの、元気な姿を見せていた。新規開業部分は当面、日曜は運休するが、6月5日に予定されている女王の即位70周年式典「プラチナ・ジュビリー」当日は、女王に敬意を表して運行されることが決まっている。

■開業1番列車には長蛇の列

 では、市民は開通日をどう過ごしたのだろうか。

 驚くべきことに、前日の夜から1番列車乗車を待つ人々も出現。新規開業部分の起終点となるパディントン、アビーウッド両駅には早朝の段階で長い列ができた。

 ロンドンでは昨年9月、地下鉄ノーザン線を2駅延伸した「バタシー・エクステンション」と呼ばれる新区間開業があったが、この際は鉄道ファンらが深夜バスに乗って新駅に三々五々集まるといった雰囲気だった。一方、今回はうって変わって、雨が降り気温も低かったにもかかわらず1番列車に乗ろうとする一般市民が大挙して集まり、関心の高さをうかがわせた。

 開業による所要時間の短縮は顕著だ。パディントン―アビーウッド間の新規開業区間全線を乗り通しても約21kmをわずか29分で走破し、パディントン―カナリーウォーフ間は従来の地下鉄利用に比べて約半分の17分に短縮される。その一方で、運賃は従来の地下鉄ネットワーク利用時と基本的に同水準だ。

 ロンドン交通局の代表に当たるアンディー・バイフォード・コミッショナーは「エリザベス線は公共交通網を劇的に改善し、所要時間の短縮や輸送能力の増強を実現する。広々としてすっきりした新駅、連結部分を通行できる『ウォークスルー車両』(旧型地下鉄車両は車両間の通り抜けができない)となったことによって、利用者の機動性に変化が訪れるだろう」「新しい鉄道は、ロンドンとイングランド南東部に住む人々の生活と移動手段の変化に貢献する」とその意義を強調する。

 だが、コミッショナーによる力強い発言をよそに、ロンドン交通局は厳しい財政難に陥っている。

 5月現在のロンドンの全公共交通機関の利用者数はコロナ禍前の72%にとどまっており、コロナ禍前の80%まで回復するのは2024年度になるという予測もある。

 一方、毎年補正される運賃は、インフレ率上昇に合わせて引き上げられるが、現在のガス・原油などエネルギー価格の上昇もあり、23年度の運賃は確実に大きく上がる。その結果、自転車利用に切り替える通勤者が増加するなど、それなりの旅客離れが予想される。

■バス路線削減、地下鉄減便の可能性も

 さまざまな要因を受け、2023年度の旅客収入は昨年時点の予想より1割程度減るとも言われており、収支の健全化への道のりはまだ遠そうだ。

 ひとまずエリザベス線の営業運転は始まったものの、6月下旬には交通局の財政状況に関するレビューが行われる予定で、「収益化改善のため大ナタを振るうべき」という提言もある。抜本的な改革のために、バス路線の約18%の整理・削減が求められそうだ、との声もある。

 エリザベス線は、市民はもとより、コロナ禍後のロンドンを訪れる観光客らにとって便利な乗り物として評価されうるだろう。しかし、その一方で交通局の経営難から「2割近くのバス路線廃止・地下鉄は減便」というプランも取り沙汰される。新線開業に沸く中、将来のロンドンの公共交通網についてどのように見直しが行われるかも、今後の焦点となるだろう。

東洋経済オンライン

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最終更新:5/27(金) 5:41

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