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ゼレンスキー「俳優時代の主演ドラマ」の見どころは?ウクライナ大統領になったきっかけ「国民の僕」

5/27 14:01 配信

東洋経済オンライン

Netflix、Amazon プライム・ビデオ、Huluなど、気づけば世の中にあふれているネット動画配信サービス。時流に乗って利用してみたいけれど、「何を見たらいいかわからない」「配信のオリジナル番組は本当に面白いの?」という読者も多いのではないでしょうか。本記事ではそんな迷える読者のために、テレビ業界に詳しい長谷川朋子氏が「今見るべきネット動画」とその魅力を解説します。

■大統領になるきっかけを作ったドラマ

 ウクライナ現職の大統領、ウォロディミル・ゼレンスキーの名を誰もが知ることになったのは、くしくもロシアによる恐ろしく痛ましい軍事侵攻がきっかけ。そして今、彼自身の軌跡を知りうる作品も世界的に話題になっています。それがゼレンスキー主演ドラマ「国民の僕(しもべ)」です。5月16日からNetflixの作品に並び、日本語字幕付きで視聴できるようになりました。笑いと機知に富み、巧みに作られた中身はさることながら、役柄の姿と現在のニュース越しの姿があまりにも重ね合わさって見えることに驚きを覚えるドラマなのです。

 何より、ゼレンスキーが「国民の僕」で演じた役がそのまま「大統領」ということが大きいです。経緯としては、このドラマの成功後の2019年に、実際の大統領に当選し、現在に至るので、正確には自伝物語ではありません。それでも、不思議と延長線上として映ります。

 ドラマの中では高校教師役から始まります。バツイチ出戻りで先立つものもなく、一見すると頼りなさそうにも見えますが、実直さを取柄に生徒から愛される歴史教師、ヴァシリ・ゴロボロジコという役名の主人公です。掴みのこのキャラクター設定からも、メディアで見せるゼレンスキー本人の親密さや誠実さを彷彿とさせるものがあります。加えて、ゼレンスキーはもともとコメディー俳優です。政治の世界を知らない高校教師がある日突然、大統領になってしまうこのドラマの展開とも少なからず似ています。

 冒頭、大統領に転身したワケも興味深いものがあります。普段は温厚で謙虚なゼレンスキー演じるゴロボロジコが、自国の状況のふがいなさを爆発させたシーンが引き金となります。その内容は、腐りきった政治の現実や、国民の無関心、プーチン政権を支持する新興財閥オリガルヒに対する不満でした。実際、このドラマがウクライナで初放送された2015年当時の状況とも被ります。ポロシェンコ大統領の統治下で汚職や癒着問題が問われていました。

■自転車で通勤する新たなリーダー

 そして、ドラマでは何ら意図せず発言したその様子を生徒がこっそり撮影。動画投稿したら思いもよらずバズります。さらに生徒がクラウドファンディングで出馬のための費用を集め、あれよあれよと当選。そこからタイトルどおり、古いアパートに住んだまま、自転車で通勤する「国民に仕える僕」のような新たなリーダー像の物語が始まっていくのです。

 インパクトのあるメッセージを発信し続けるゼレンスキー大統領自身もリーダー像に独自のこだわりがあるように見えます。だから余計にドラマの中で大統領役としての話が進んでいくと、実際のイメージと重なることがあります。なかでも、第3話で描かれる就任演説シーンは見ものです。そこで発せられたせりふがこれ。

 「人間として恥じない行動を子どもたちに、親たちに、あなた方に、ウクライナの皆さんに約束する」

 理想的なリーダー像がシンプルに伝わってきます。上書きしたような原稿を読まず、誰のためにもならない言葉ではなく、国民が今、欲する言葉を選んだという演出もあおります。同時に、ドラマの愛されキャラクターがここで早くも完成します。

■歴史上のリーダーたちの言葉を引用

 この重要なシーンは、亡霊のように現れたエイブラハム・リンカーンが「エリートたちの家やリムジンのため、ウクライナの国民は奴隷のように働いてはいないか」と訴えかけ、鼓舞したことで生まれた言葉としても描かれています。

 これもまた、ゼレンスキー大統領が各国で行っている演説の中で、ウィンストン・チャーチルやキング牧師など、歴史上のリーダーたちの言葉を積極的にかつ効果的に引用する手法とも似ています。

 ドラマの中でも、たびたびさまざまな歴史上のリーダーたちが意図的に現れます。指導者としての方向性に思い悩むときに革命家チェ・ゲバラは汚職改革にハッパをかけ、古代ローマの政治家ジュリアス・シーザーは身内の裏切りを暗示し、フランス革命で断頭台に消えたルイ16世は同情を誘います。そして、「逃げろ!」とアドバイスした後、首が転がるルイ16世のくだりの演出などは、芸が細かく、ブラックユーモアたっぷりで秀逸です。

 登場するのは歴史上の人物ばかりだけではありません。なかでも、“プーチン”ネタは多岐にわたります。そっくりさんまで引っ張り出され、高級時計好きを皮肉ったせりふからパンチのあるジョークまで、たびたび使われています。

 ウクライナ国民ばかりか、世界中の人々も思わず笑えて、政治問題に共感できるストーリーを展開する「国民の僕」はゼレンスキーが主役を演じた話題性だけに終わらないところにこそ関心を持て、価値があるように思います。中身あってのソフトパワーであることをゼレンスキーは初めから承知のことだったのではないかと思う事実があります。

 というのも、ゼレンスキーは演じただけではありませんでした。自ら企画し、制作プロデュースしたのです。制作プロダクション「クバルタル95(Kvartal 95)」を2003年に立ち上げ、演者としてだけでなく、ドラマやバラエティー番組のクリエーティブプロデューサーとしての肩書も持っていました。放送された当時、ウクライナ国内のテレビ局で最も視聴率を獲得した「国民の僕」はクバルタル95の代表作でもあります。全3シーズン、49話で構成され、長編映画も作られています。

■Netflixとは2016年に契約

 海外展開にも積極的です。「国民の僕」はアメリカのメジャーネットワークが初めてライツを獲得したウクライナ発ドラマでもあります。またNetflixとは配給会社のEccho Rights (エコーライツ)を通じて2016年に契約が交わされ、その当時、クバルタル95の共同設立者として、ゼレンスキーがこのように公式コメントを発表していました。

 「Netflixが全世界の権利を獲得したウクライナのドラマのプロデューサーであることを大変誇りに思います。この契約は、ウクライナが世界中に配信できる優れたコンテンツを制作できることを世界に示すと同時に、ウクライナのプロダクションに新たな機会をもたらすものです。ストーリーは普遍的で、世界中の人々が理解できるもの。Netflixの視聴者も楽しんで見てくれると信じています」

 どの時代も、誰もが理解できる作品に、本人の信念も込められているとなると、本人と重なる部分があるのは決して偶然ではなく、必然的なものだったと理解せざるをえません。新たにゼレンスキーの生涯そのものを描いた伝記コミック『Political Power』(英語版)が5月18日より発売されたところでもあります。ウクライナの平和を願いながら、ソフトパワーの価値を活用するリーダー像から学べることは多いはずです。

東洋経済オンライン

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最終更新:5/27(金) 14:01

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