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神宮外苑「樹木伐採」再開発の前にあった幻の計画

5/24 4:31 配信

東洋経済オンライン

 明治神宮外苑の再開発が、動き出した。

 2021年に東京オリンピック・パラリンピックが1年延期で開催された後に明らかになった計画案では、樹木約1000本が伐採され(日本イコモス調べ)、高さ60メートルのホテル併設野球場、55メートルの屋根付きラグビー場のほかに超高層ビルも建設されることが明らかになった。開発は、三井不動産、宗教法人明治神宮、独立行政法人日本スポーツ振興センター、伊藤忠商事が手がける。

 ただ、すでに再開発計画に対する疑問の声が複数上がっているように、もともと港区と新宿区にまたがり約64ヘクタールに及ぶ神宮外苑地区は都市計画公園(将来的に都市公園として整備する計画の公園のこと)に指定されたエリアだ。

 欧米の都市と比較して公園・緑地が乏しく、オープンスペースも少ないと言われる東京に残された貴重な緑の空間である。都市における公園の役割は、市民に憩いの空間を提供するだけでなく、地球温暖化によるヒートアイランド現象などの環境悪化を抑制する効果のある重要な社会インフラだといえる。

 それにもかかわらず、緑地を縮小し、超高層ビルを建設する現在の計画からは、大都市・東京における「公園」の役割とはいったい何なのかを問い直さずにはいられない。

■神宮外苑“幻”の再整備計画

 実は、現在の再開発計画の話が持ち上がる前、それとは異なる再整備計画が提案されていた。

 筆者は、2003年8月に作成された神宮外苑の再整備に関する調査報告書を入手している。これは神宮外苑の土地の大部分を所有する明治神宮の依頼を受けて、伊藤滋・東京大学名誉教授が委員長、蓑茂壽太郎・東京農業大学教授(当時)が副委員長を務め、日本スポーツ振興センター関係者などの有識者らも参加してまとめたものだ。

 再整備の背景について、副委員長の蓑茂氏は「明治神宮は、神宮外苑のスポーツ施設の老朽化が進んだことから、この先どう運営・管理していくのか困っており、相談があったと記憶している」と当時を振り返る。

 2003年の報告書が提案する再整備案は、以下のようなものだ。

 まず、外苑にある国立競技場の敷地が現在の国際大会を開催するには手狭になったことを踏まえて、メモリアルスタジアムとして規模を縮小して整備する。さらに、聖徳記念絵画館前の草野球場は閉鎖して、元の芝生公園にすることで創建当時の姿に戻す。暗渠となった渋谷川を復活・再生させる。

 明治神宮は、外苑にある明治記念館やスポーツ施設などで得た収益を、内苑・外苑の維持管理費用に充てている。そこで、老朽化した明治神宮球場を現在の第2球場の位置にズラして建て替えし、テニス場などの関連スポーツ施設は今の神宮球場の跡地などに整備する、ともある。

 都市計画公園内には宿泊施設の建設が認められているため、新たにレジデンシャルホテルや高齢者向けケアホテルを建設することで、将来の収益確保を図れるようにもしている。

■緑のネットワークシステムを整備

 注目すべきは、この再整備が神宮外苑だけにとどまらず、東京都心部の公園・緑地を連携して整備する「東京セントラル・パークシステム構想」を盛り込んでいたことだ。

 パークシステムとは、1800年代半ばにアメリカで誕生した公園整備の考え方で、公園単体で考えるのではなく、複数の公園を豊かな大並木道や街路樹 でつないで「緑のネットワーク」システムとして整備する考え方である。

 東京のヒートアイランド現象対策には「風の道」の確保が必要と言われる。東京湾から吹き込む風を通りやすくするため、川の上に建設された高速道路の撤去や暗渠となった川の復活とともに、公園や緑のネットワークも重要な役割を果たす。

 報告書では、パークシステム整備の一環として、内苑と外苑を結ぶ「裏参道」を再整備するほか、新宿御苑、青山墓地、代々木公園などを緑のネットワークでつないで快適な都市環境を構築することも提案していた。現在進んでいる再開発計画とは異なり、公園・緑地の重要性を強く意識したものだ。

 もっとも、この再整備案は“幻”となってしまった。ラグビーワールドカップの開催に伴い、国立競技場を建て替えて、神宮外苑には似つかわしくない巨大施設とする計画が動き出したからだ。それによって都市計画公園として設定されていた同エリアの建築高さ制限が大幅に緩和され、超高層ビルなどの建設も可能になった。

 明治神宮はもともと国立競技場の建て替えまでは想定していなかったのではないか。東京都もまたしかりだ。2002年のサッカーワールドカップでは、横浜国際総合競技場(日産スタジアム)や埼玉スタジアムがメーン会場として建設され、国立競技場の建て替えは行われなかった。2006年、東京都が2016年のオリンピック開催にあたって立候補し、2007年に基本計画を発表した際も、メーンスタジアムは晴海地区に移転する計画で、国立競技場を建て替える計画はなかったからだ。

 国立競技場の建て替えが本格的に動き出したのは、2009年7月にラグビーワールドカップ2019の日本開催が決定し、同年10月に2016東京五輪の落選が決まってからである。

 2010年にはラグビーWCの大会成功議員連盟(最高顧問・森喜朗氏)が発足し、2011年2月に議連総会で国立競技場建て替えを決議。東京都知事の石原慎太郎氏(当時)も、東日本大震災からの復興の一環として2020年に開催される五輪の開催地への立候補を表明し、9月の都議会で国立競技場をメーンスタジアムにする方針に転換した。

 東京五輪2020の招致決定は2013年9月であるが、1年前の2012年には新国立競技場デザインコンペ(設計競技会)が実施され、2013年5月には東京都都市計画審議会で神宮外苑地区計画を決定している。東京都でも、国立競技場の建て替え方針に合わせて、神宮外苑の再開発に動き出した、というわけだ。

 東京都議会の原田あきら議員が開示請求した神宮外苑の再整備に関する資料の中には、東京都が2012年5月に森喜朗氏に対して議員会館で神宮外苑の再整備計画の概要説明を行ったメモがある。この時には秩父宮ラグビー場と神宮球場の敷地を交換して建て替えるなど、現在の計画案の骨子がすでに出来上がっており、東京都の幹部は「2020東京五輪の招致に失敗したとしても神宮外苑の再開発を進める」と森氏に伝えている。

 東京五輪の招致が決定したあとの2015年4月1日に東京都は、「神宮外苑地区まちづくりに係する基本覚書」を明治神宮、日本スポーツ振興センター、高度技術社会推進協会(TEPIA)、伊藤忠商事、日本オラクル、三井不動産との間で締結した。

 その20日後に開催された三井不動産のオリンピック・パラリンピック東京2020スポンサーシップ契約の記者会見には森喜朗氏も出席し、三井不動産が不動産開発カテゴリーにおける「街づくりパートナー」の役割を担うと表明した。

 会見後、神宮外苑の再開発に関する筆者の質問に森氏は次のように答えていた。

 「もともとオリンピックの駐車場スペースを確保するため秩父宮ラグビー場を取り壊す話が計画の始まり。具体的な内容はこれからだ」

 国立競技場をラグビーWC、東京五輪のメーン会場として使用するために秩父宮ラグビー場を取り壊すので、それに合わせて神宮外苑の再開発が始まったというのである。

■三井不動産が開発担当になった背景

 では、なぜ三井不動産が再開発を担うことになったのだろうか。三井不動産がまちづくり覚書に名前を連ねたのは、不良債権問題で経営危機に陥った中堅ゼネコン・ハザマ(現・安藤ハザマ)の青山にあった本社(現・日本オラクル本社)を2003年に三井不動産が取得し、地権者になっていたことがきっかけだ。

 同社は、2002年に港区立青葉公園に隣接する都営アパート「南青山一丁目団地」の建て替えプロジェクトを伊藤忠商事とともにPFI(民間資金を活用した公共施設整備)事業として受託するなど、神宮外苑周辺エリアの開発に力を入れていた。

 さらに明治神宮の協力を得るために、三井不動産の岩沙弘道会長が明治神宮総代を務めており、神宮外苑の再開発に早い段階から関わっていたと考えられる。

 ただ、こうして進む再開発計画に対して市民からは疑問の声が上がっている。「神宮外苑の再開発について公的な場で一切議論がされないまま、東京都は事業者側の計画案をそのまま受け入れている」ーー。4月に開催された市民グループによる説明会では、こんな指摘もあった。

 過去には、日本学術会議が2015年に行った「神宮外苑の環境と新国立競技場の調和と向上に関する提言」で、将来ヴィジョン策定委員会の設置を求めていた。しかし、その後も計画作成は事業者だけで進められ、三井不動産、明治神宮、日本スポーツ振興センター、伊藤忠商事が「東京都公園まちづくり制度実施要綱に基づく説明会」を近隣住民のみを対象にようやく実施したのは、2020年1月になってからだ。

 そして、コロナによる東京五輪の延期も影響し、神宮外苑の都市計画案に関する説明会が開催されたのは2022年2月のことだ。3月には都市計画決定が告示された。5月19日には、4者連名のプレスリリースを神宮外苑地区のまちづくりに関する専用ホームページがで公開し、2024年新築着工、2036年の全体竣工に向けて再開発に着手することを正式に発表した。

 前述のように、神宮外苑の土地の大半は明治神宮が所有・管理しており、税金が投入されているわけではない。しかし、事業者たちで進められていく再開発に、市民は置いてきぼりの感が拭えない。

 かつて、神宮球場の建設費が不足した時には六大学の野球関係者が資金を集め、大学野球の聖地を作り上げたように、神宮外苑が多くの市民によって支えられてきたのは歴史的な事実である。

 プレスリリースでは、「スポーツを核とした神宮外苑地区の新たな100年に向け、誰もが気軽に訪れ楽しむことができる公園の再編と、広域避難場所としての防災性を高める複合型の公園まちづくり」をビジョンとして掲げ、「各関係機関等との協議を進めながら、 今後、具体的な整備計画を検討いたします」と表明している。

 重要な社会インフラである大規模な公園・緑地をまちづくりにどう活かしていくべきか、再検討していく余地がありそうだ。

 ※神宮外苑“幻”の再整備計画のキーマン、簔茂壽太郎氏のインタビューは後日配信予定です。

東洋経済オンライン

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最終更新:5/24(火) 4:31

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