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東急「歌舞伎町タワー」、激戦区で勝つ差別化戦略 シネコンもホテルも高単価でプレミアム感

5/23 4:31 配信

東洋経済オンライン

 JR新宿駅東口から「新宿アルタ」の脇を通って歌舞伎町方面に向かうと、まず目に飛び込むのが巨大怪獣「ゴジラ」の巨大な頭である。2015年に開業した新宿東宝ビルの上から顔をのぞかせるゴジラは、現在の歌舞伎町のシンボル的存在である。

 その歌舞伎町に新たなシンボルが生まれようとしている。新宿東宝ビルと「シネシティ広場」をはさんだ向かい側で建設が進む超高層ビル「東急歌舞伎町タワー」である。

 開業は2023年春。外観のデザインはほぼ完成している。四角形で構成される一般的なビルと異なり、ビルの頭頂部が白くなり空に向かって跳ね上がっているような印象を受ける。外観をデザインした永山祐子氏によれば、白くなった部分は「水の飛沫」で、「水の勢いが天に伸びるイメージ」だという。

■コロナ禍で計画練り直し

 永山氏をはじめとした東急歌舞伎町ビルのスタッフたちが、その概要を4月26日に記者発表した。地上48階建て、地下5階のビル外観は中層部にも水の飛沫のような形状がある。かつてシネシティ広場には噴水があり、人々の憩いの場でもあった。そうした背景を思い起こせば、ビルの外観を2段構えの噴水にたとえることもできそうだ。

 ライブホール、劇場、映画館、そしてホテルなどで構成する超高層ビルを建てるという計画が動き出したのは2018年だが、その後コロナ禍が猛威をふるった。東急の髙橋和夫社長は「コロナ前に考えたものをそのまま提供するわけにはいかない」と判断し、計画は練り直しを余儀なくされた。

 そしてコロナ後を踏まえて改めて作られたのが今回発表された概要である。

 9~10階には東急系のシネコン「109シネマズプレミアム新宿」が入居する。名称に「プレミアム」が付いていることからわかるとおり、スクリーン数は8だが、席数は752と少なめ。「本来なら1600席くらい取れるが、席数を減らしてプレミアム感を出した」と、映画館を担当する久保正則・東急レクリエーション映像事業部長が説明する。

 従来のシネコンでは上映を待つ客がロビーにあふれ大混雑することもある。そのため、ラウンジを設置して座ってゆったりと待てるようにした。また、最近は座席間隔を通常の席よりも広くしたりリクライニング機能を付けたりするなどしたプレミアムシートを一部の席に導入するシネコンが増えているが、「すべての座席をプレミアムにする」という。

 座席はA席とS席の2種類。「たとえば109シネマズにはエグゼクティブシートがあるが、ここではA席がエグゼクティブシート相当以上となる」(久保部長)。ということは、S席はさらにプレミアムなシートということになる。

 当然価格帯は高めになる。109シネマズの場合、一般料金が1900円で、エグゼグティブシートの料金は2700円。しかし、定員を通常の半分にしてプレミアム感を出しているのであれば、1人当たりの料金は通常の2倍程度の4000円近くになる可能性もある。髙橋社長は「オーバーにいえば1人5000~6000円くらいの客単価にする分、それに見合った付加価値を提供する」と話していたが、はたしてどうなるか。「映画を見に行ったのではなく、あの建物に行ってきたといえるくらいシンボリックなものを目指す」(髙橋社長)。東急歌舞伎町タワーで映画を見たこと自体を人に自慢できるような体験を提供したいという。

■プレミアム戦略を選んだ理由

 ではなぜ東急はプレミアム戦略を選んだのだろうか。混雑を減らし、密を緩和するという点ではコロナ対策が理由といえるが、それだけではない。

 「新宿はすばらしいシネコンが集積する日本最大の映画市場」と久保部長は言う。裏返せば競争相手が多いということだ。かつての歌舞伎町には多数の映画館があったが、上映する映画はそれぞれ違っていた。しかしシネコンの場合は上映する映画の重複は避けられずガチンコ対決となる。東急の試みは差別化によって競争を避ける戦略といえる。「この1本だけはここで見る」ことで、ほかのシネコンとの共存を図りたいという。

 シネコンの下の階は6~8階に収容人数は約900人の劇場、地下には約1500人を収容できるライブホールが設けられる。もっとも、ライブホールや劇場の成否は「箱」よりも、どんな公演が行われるかにかかっている。「こけら落としの目玉は何か」という質問が会場から出されたが、「次回の会見時に具体的に説明するのでもう少し待ってほしい」という回答にとどまった。はたしてどのような内容となるか、興味津々だ。

 なお、東急歌舞伎町タワーはシネシティ広場に面しているため、タワー低層階に屋外ビジョンや屋外ステージを設置して、広場に観客を集めて、映画のワールドプレミアや音楽イベントなどを開催することも計画中。広場の活用については地元との連携が欠かせない。

 17~47階は2つのホテルとレストランが入居する。2つのホテルはグレードが異なり、39~47階に入居するホテルは「客単価7万円を目指す」と、東急ホテルズの宮島芳明常務執行役員が意気込む。東京・八重洲に2023年開業予定のラグジュアリーホテル「ブルガリホテル東京」を意識したものだという。

 一方、18~38階に入居するホテルは同じ新宿にあるヒルトン東京や京王プラザなどと競合する「客単価2万7000円を目指す」という。両ホテルは同じビル内にライブハウスや劇場、シネコンがあるという強みを活かし、映像配信や限定グッズの販売、レストランでは映画に登場したものと同じ料理が味わえるといった趣向を凝らすことで競合相手との差別化を図る考えだ。

■「新名所」で歌舞伎町はどう変わるか

 ところで、東急の本拠地といえば誰もが渋谷を連想する。一方の新宿はJR東日本のほか小田急電鉄、京王電鉄などのターミナル駅というイメージで、しかも歌舞伎町は西武鉄道のターミナル駅である西武新宿駅に隣接する。だが、東急歌舞伎町タワーはかつて映画館「新宿ミラノ座」などが入居した新宿東急文化会館(その後「新宿TOKYU MILANO」)および隣接するホテルグリーンプラザ新宿の跡地を開発したもので、東急は決して歌舞伎町とは無縁ではない。

 歌舞伎町という名前は「戦争の焼け跡の地に歌舞伎座を作りたい」という当時、町会長だった鈴木喜兵衛の思いに由来する。ただ、歌舞伎座の誘致は実現せず、代わりに東急の創業者、五島慶太の協力が得られ、のちに新宿東急文化会館が造られた。同時期に新宿コマ劇場や新宿プラザ劇場なども開業し、歌舞伎町はエンターテインメントの街として大きく発展した。

 光の部分だけではない。ソープランドなど性風俗関連産業が軒を連ね、通りにはしつこいキャッチ(客引き)が横行し、広場にはホームレスが寝泊まりするようになった。しかし、44人もの死者を出した2001年の雑居ビル火災をきっかけに、地元商店街や企業、警察、消防などが一体となり、「歌舞伎町を誰もが安心して楽しめる街に再生する」ことを目指した「歌舞伎町ルネッサンス」という取り組みが始まった。現在の歌舞伎町は猥雑な部分を残しながらも、一時期に比べると確かに安全な街になった。

 アジア最大ともいわれる歓楽街、歌舞伎町に新たな名所がもうすぐ誕生する。これをきっかけに歌舞伎町が今後どのように変貌するか。目が離せない。

東洋経済オンライン

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最終更新:5/23(月) 4:31

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