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実は日本有数の「私鉄王国」、富山ご当地鉄道事情 大都市圏にも負けていない富山地鉄の存在感

5/20 4:31 配信

東洋経済オンライン

 「私鉄王国」というと、だいたいの人が関西を思い浮かべるのではないかと思う。確かに京阪神地域は阪急や阪神、京阪、南海、近鉄と私鉄の雄が勢揃い。首都圏にだって負けてはいない。

 ほかに私鉄が“王国”を築いている地域はどこだろうか。福岡県も、西鉄が通勤通学輸送を担う大動脈として大活躍をしている。現実的には西鉄バスのインパクトのほうが強いが、広い意味では私鉄の勢力圏にある地域といっていい。三大都市の一角、名古屋を擁する愛知県もまた、名鉄という大手私鉄がネットワークを広げている。

■新幹線で2時間ちょっと

 そして、富山県である。福井・石川とともに北陸三県の1つで、東京とも北陸新幹線で結ばれている富山県。どちらかというと地味な県かもしれないが、なかなかどうして、大都市を持つわけでもないのに私鉄が大勢力を張っている珍しい地域なのである。

 富山県の鉄道は、その私鉄、すなわち富山地方鉄道を抜きにしては語れない。新幹線で富山県を目指し、富山地鉄の旅をしながらこの世にも希有な県の鉄道事情を探ってみることにしよう。

 東京から富山県に入るには、もはや新幹線一択である。飛行機という選択肢もないことはないが、新幹線「かがやき」で2時間ちょっとなのだから事実上新幹線の独壇場といっていい。

 富山県内に新幹線の駅は3つある。東から、黒部宇奈月温泉駅・富山駅・新高岡駅だ。ふつうならば「かがやき」停車駅の県都の玄関口、富山駅にやってくるところだが、今回はあえて黒部宇奈月温泉駅から旅をはじめよう。なにしろ、この駅は新幹線と富山地鉄が接続している駅なのだから。

 黒部宇奈月温泉駅を出て、駅前広場を横切るとそこには富山地鉄の小さな駅がある。駅名は新幹線とは違って、新黒部駅という。富山地鉄本線、電鉄富山―宇奈月温泉間を結んでいる50kmちょっとの路線だ。文字通り、富山地鉄の本線格。スタート地点の電鉄富山駅は新幹線の富山駅の傍らにあり、そこから滑川や魚津を経て黒部、そして終点の宇奈月温泉を目指す。

 宇奈月温泉駅では、黒部川沿いの発電所などへの輸送も担う黒部峡谷鉄道と接続。渓谷を縫うようにゆっくり走るトロッコ列車は、春から秋にかけては黒部地方きっての観光資源の1つになっている。古きよき宇奈月温泉街とともに、黒部峡谷鉄道を楽しむ旅は、鉄道好きならずとも満足できそうなプランだ。

 黒部峡谷鉄道のあとは、再び富山地鉄本線に乗り込んで、こんどは富山市内を目指す。といっても、そのまま富山地鉄本線で宇奈月温泉駅から電鉄富山駅まで乗りっぱなしはちとキツい。ザ・私鉄というべきか、こと細かに短い間隔で小駅を刻んで停まっていくのでどうしたって時間がかかる。なにしろ1時間40分ほどもかかるのだ。

■駅舎や車両が魅力的

 以前は富山地鉄には特急列車が走っていた。電鉄富山―宇奈月温泉間には「うなづき」、電鉄黒部―宇奈月温泉間には「くろべ」などだ。ところが、コロナ禍でお客が減ってしまったあおりをうけて、2022年4月のダイヤ改正ですべて消滅。富山地鉄の旅に徹しようとすれば、基本的に各駅停車でとぼとぼ旅をすることを強いられるのだ。

 富山地鉄の小駅は、昔ながらの木造駅舎もよくあってそれはそれで見どころがある。古い元京阪3000系を流用している10030形、富山地鉄オリジナルの14760形など車両もなかなか魅力的。とはいえ、1時間40分も揺られるのは骨が折れるものだ。そこで、途中での乗り換えをおすすめしたい。

 新黒部駅から黒部宇奈月温泉駅を経て新幹線を使うのもいいが、さすがになんだかもったいない。そこで、新魚津駅であいの風とやま鉄道線に乗り換えるのが吉(あいの風とやま鉄道側は魚津駅)。かつては大動脈・北陸本線で、魚津駅はかつて特急列車の停車駅でもあった。富山湾に近い街のターミナルで、天気が良ければ蜃気楼が見どころの風光明媚な街で寄り道をするもよし、そのまま乗り継ぐもよし。これならば、1時間ほどで宇奈月温泉駅から富山駅まで行くことができる。

 富山地鉄でもあいの風とやま鉄道でもどちらでも、富山平野を走る列車の見どころは海側ではなく山の側。空気の澄んだ好天の日には車窓の遠くには立山連峰の山並みがくっきりと見え、この上のない絶景を存分に楽しめる。あまりにも延々と山並みが続くので、途中でうとうとしてしまう。それもまた、鉄道の旅の贅沢なところだ。

 富山駅にやってきたら、再び富山地鉄の旅が待っている。

 富山地鉄の鉄道路線は3路線。本線に加えて立山線、2路線を合体させて事実上1路線にしている不二越・上滝線だ。不二越・上滝線はどちらかというと地元の人の通勤通学路線の趣が強いが、立山線は観光にもうってつけ。終点の立山駅では立山ケーブルカーと接続していて、そのまま立山黒部アルペンルートに突入できる。

 富山地鉄の路線は本線にしろ立山線にしろ、終点から先にも続きがあるという、旅人を飽きさせない仕掛けが施されているのがありがたい。

■名鉄と直通運転していた

 そしてこの立山線、かつてJR・国鉄からの特急列車が乗り入れていたことでもおなじみだ。代表格は「北アルプス」。なんとこの列車、スタート地点は名鉄で、途中で高山本線に入って富山にやってきて富山地鉄に乗り入れるという、つまりは名鉄→国鉄→富山地鉄の直通運転を行っていた。その珍しさもあって人気の列車だったが富山地鉄への乗り入れは1984年まで。末期は高山駅止まりになって、列車そのものが2001年に廃止されている。

 かくのごとく、富山地鉄は3本の鉄道路線を持って富山県の主に東部をカバーする。さらにそれだけではなく、富山市内には軌道線も持っているから市内観光にもうってつけだ。いまではひとまとめにして「市内電車」と呼ばれることが一般的になっているが、大きく分ければ古くから富山地鉄の路面電車であった富山軌道線と、元国鉄・JR富山港線にルーツを持つ富山港線だ。

 富山港線はJRが廃止した後にその施設を流用して富山ライトレールによるLRTとして存続、2020年になって富山地鉄に吸収されて、現在では富山軌道線と直通運転を行うようになった(実はさらにもとをたどると戦前に富岩鉄道によって開業し、富山地鉄に合併後に国有化された歴史を持つ。つまり古巣に戻った、ということでもあるのだ)。

 なので、お客の立場ではどちらも市内電車ということで結構なのだが、ほとんどが専用軌道で富山駅の北側を走る富山港線は、南側の市街地を走る路面電車とはひと味違う楽しみがある。

 このように富山県内で大勢力を誇る富山地鉄なのだが、残念ながら富山駅より西に旅を続けると、もう富山地鉄と出会うことはない。もともと戦時中に県内の中小事業者を糾合して誕生したという経緯から、かつては県内全域に路線を持っていた。しかし、戦後まもないうちに西部の路線は加越能鉄道に分離し、それらの路線もほとんどが廃止されている。形態を変えて唯一残っているのがかつての射水線、現在の万葉線だ。

 高岡駅前から射水市内を目指して走る万葉線は、鉄道と軌道の両面を兼ね備えたこれまた特徴的な路線で、廃止の方向になった加越能鉄道から第三セクターとして引き継いで運営中。沿線が藤子・F・不二雄先生の出身地であることから、ドラえもん塗装の「ドラえもんトラム」が走っている。

 いずれにしても、かつて富山地鉄の一部だった路線は、この万葉線を除くと他はすべて廃止され、残っているのは本線・立山線・不二越・上滝線と市内電車だけ。昨今の地方鉄道を巡る状況を見れば、果たして未来はわからない。いまのうちに乗っておきたい地方私鉄の1つといっていいだろう。

■名古屋から特急がやってくる

 さて、富山地鉄を味わい尽くしたら、改めて県都のターミナル・富山駅から旅を続けよう。

 ……といっても、残る路線はたったの3本だけである。1つはJR高山本線で、岐阜駅から岐阜県内の山中を貫いてやってくる長大路線。富山県に入ったところの猪谷駅を境に富山県側がJR西日本、岐阜県側がJR東海の管轄になっている。直通している列車は特急「ひだ」だけだ。

 それでも高山本線が中部地方を南北に貫く大動脈であることは変わらない。おわら風の盆が有名な八尾は高山本線富山県内の沿線の町だ。

 残る2路線は、あいの風とやま鉄道の高岡駅を起点にそれぞれ南北に延びるJR城端(じょうはな)線とJR氷見線である。城端線は、田園地帯の中に住居がぽつんぽつんと点在する“散居村”で知られる砺波平野を南に走る。沿線最大の町である砺波は日本有数のチューリップの町。毎年5月の大型連休中に開かれるとやまチューリップフェアでは300万本もの花が会場のチューリップ公園を彩るという。

 そんな話を聞けば、5月にやってくれば城端線の車窓からもチューリップが見えるのではないかと思うかもしれないがそれは間違い。

 砺波のチューリップは切り花ではなく球根の生産がメインなので、花が咲いてもすぐに刈られてしまうから車窓から眺められるチャンスはほとんどないのだとか。なんとも残念である。

 城端線と反対の氷見線は、高岡市内を抜けて富山湾沿いに出る“海が見える鉄道”。終点の氷見漁港は寒ブリなどで有名で、駅の近くの市場で海の幸に舌鼓は氷見線の定番の楽しみ方。そして雨晴海岸と呼ばれる海沿いを走る区間では、富山湾を経てその向こうに立山連峰が見えるという、これまた絶景中の絶景路線である。

 海越しに山を望める車窓風景は、まさしく日本列島を象徴しているといっていい。もちろんどこでも見られるわけではなく、大きく陸地に食い込んだ海湾沿いを走る氷見線ならではの車窓である。できることなら、天気のいい日に乗りたいものだ。

■「べるもんた」と「ハットリくん」

 高岡駅を介してつながっているといえばつながっている(高岡駅構内で間にあいの風とやま鉄道線を挟むので、直通運転は簡単ではないらしい)城端線と氷見線には、共通して走る列車がある。

 1つは、観光列車「ベル・モンターニュ・エ・メール」。何が言いたいのかよくわからない列車名だが、愛称は“べるもんた”と、急に日本的になってしまう。土休日を中心に運転されて、事前に予約すれば車内で鮨を食べることもできる典型的な観光列車だ。

 もう1つは「忍者ハットリくん列車」。先日亡くなった漫画家の藤子不二雄Ⓐ先生が氷見出身であることにちなんだもので、代表作の『忍者ハットリくん」のラッピングを施した列車が普通列車に充当されて走っている。2004年に初代がデビューし、数度のリニューアルを経て2021年春に新ラッピングがお目見え。いまや定番のラッピング列車となっている。

 こうして富山県の鉄道を乗り尽くしたら、あとはそのままお隣の石川県を目指すばかりである。新幹線に乗れば富山―金沢間はほんの20分ほど。特急券が惜しいと思えば第三セクターのあいの風とやま鉄道で約1時間。どちらを選ぶかはあなた次第である。

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最終更新:5/20(金) 4:31

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