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4630万円誤送金騒動がこんなにもややこしい理由

5/19 19:04 配信

東洋経済オンライン

 まさに急転直下。5月18日夜、警察は山口県阿武町が4630万円を誤って振り込んだ問題で、電子計算機使用詐欺の疑いで田口翔容疑者(24歳)を逮捕し、メディア各社が一斉に報じました。田口容疑者は警察の調べに対し、「振り込まれた金はオンラインカジノで使った」などと容疑を認めていて、今後は金の流れについて解明が進むとみられています。

 また、田口容疑者の代理人弁護士は、本人が金を使ったことを謝罪し、預金口座の出入金履歴を明かしたうえで、「少しずつでも返していきたい」と話していることを明かしました。しかし、決して「一件落着」ではなく、むしろ「モヤモヤが増えた」という印象が強いのはなぜなのでしょうか。

 今回の問題は、単純な「悪いことをした人を罰したい」という懲罰感情にとどまりません。幾重ものモヤモヤが重なり、しかもそれらはテレビの情報番組やネットニュースではあまりふれられないため、シンプルに見えて実にややこしいものになっているのです。

■阿武町の非を指摘しづらいムード

 あらためて振り返ると、まず4月8日に阿武町が田口容疑者の預金口座に4630万円を振り込みました。田口容疑者の行動が悪質なのは間違いありませんが、ありえないほどの大金を振り込みし、差し押さえが遅れた阿武町にもハッキリとした非があることが1つ目のモヤモヤとなっています。

 情報番組やネットニュースが、「本当にそんなミスをするものなのか」「管理体制があまりに杜撰すぎて同情しづらい」「町長などが被害者のようになっているがそうとも言えない」「『なぜ誤送金が起きたのか』をざっくりとしか明かさない」などをあまり指摘しないことが、人々にモヤモヤを感じさせているのでしょう。

 ただ、メディアに登場する阿武町はのどかな田舎町であり、地元の人々がことごとく「いい人」だったことが2つ目のモヤモヤにつながりました。「『返す』という言葉を信じてだまされたのだから責めるのはかわいそうだな」「自分たちにも非はあるにしても、もっと怒ってほしい」などの異なる感情が頭をよぎってしまうのです。

 さらに田口容疑者の素性が明らかになるたびに、人々は複雑な心境になっていきました。田口容疑者は、わずか1年半前に「空き家バンク制度」を利用して阿武町に引っ越してきた移住者だったことが明らかになったのです。

 つまり、「地域からの支援を受けていたにもかかわらず、恩を仇で返すような振る舞いをした」ということ。4630万円という大金を返金しないことと、恩を仇で返したことのどちらの罪が重いのか。“お金”と“人情”というまったく別のものにかかわる罪の大きさが整理しづらく、モヤモヤしてしまうのです。

 その後、田口容疑者の名前がまだ明かされていないころは、批判や犯人捜しをするだけで、さほどのモヤモヤは感じなかったのではないでしょうか。ところが、お金の使途が発覚し、それがオンラインカジノと報じられ、さらに預金口座の出入金履歴が明かされたことで、3つ目のモヤモヤが発生してしまいました。

■マネーロンダリングなどの疑いも

 「『オンラインカジノで全額使った』は本当なのか」「出入金履歴にはギャンブル特有の勝ったり負けたりがなく、『ずっと負け続けている』は不自然ではないか」「そもそも金をプールしているだけで、賭けてすらいないのではないか」「オンラインカジノ経由で別の場所に移したり、暗号資産にしたりなど、マネーロンダリングの可能性はないのか」などの疑念が浮かんでしまうのです。もちろん「ただギャンブルにハマって負け続けた」という可能性もありますが、あまりにあやしいところが多すぎるということでしょう。

 また、「少しずつでも返していきたい」という田口容疑者の言葉が4つ目のモヤモヤを感じさせるものでした。「『少額だけ返して逃げ切ろう』としているのではないか。時効はないのか」「『返す』と嘘をついていた人を今さら信じろと言うのか」「逮捕されても、けっきょくオンラインカジノの捜査ができず、刑期を終えたあとに海外で使おうとしているのではないか」などと、やはり疑ってしまうのです。

 その他にもネット上には、「誰かブレーンがいるのではないか。入れ知恵がなければここまでやれないだろう」「複数の弁護士を雇っているような報道があったが、そんなお金があるのはあやしい」「そもそもオンラインカジノはダメではないのか」などのモヤモヤを感じている人の声が挙がっています。

■まるでドラマや映画のような展開

 業務上のミスからはじまり、嘘、裏切り、疑惑、謎……。少し見方を変えると、「もしも、あなたの預金口座に大金が振り込まれたら……」というキャッチコピーのドラマや映画のように見えるのではないでしょうか。そう、今回のニュースは、「田口容疑者に懲罰感情は抱きつつも、どこか他人事として見ている」というニュアンスの濃いものなのです。

 コロナ禍やウクライナ情勢などの命にかかわるニュースが続いている中、誤振り込み問題にはそこまでの深刻さがなく、自分に置き換えて楽しめるエンターテインメントのようになっている感は否めません。だからこそ田口容疑者が逮捕された現在、懲罰感情は一気に薄れ、「嘘を暴き、お金を全額回収する」というドラマや映画のようなハッピーエンドを望んでいる人が多いのではないでしょうか。

 そのうえで最後にふれておきたいのは、田口容疑者に対してこれ以上のバッシングは無用ということ。私たちは捜査機関の事実解明を注視していればいいのであって、「お金を返済させる」という意味でも社会的に抹殺するような書き込みはしないほうがいいでしょう。自分自身のメンタルヘルスにとっても、阿武町の人々にとっても、誰か1人を憎み、批判を浴びせ続けることは得策とは言えないのです。

東洋経済オンライン

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最終更新:5/19(木) 19:04

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