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移住者増えても地元住民の心境は複雑 「石垣島」「宮古島」現地タクシードライバーが語る苦悩

5/19 17:41 配信

東洋経済オンライン

 「あれは孔雀。時にイノシシも出る。この島では車はゆっくり走ることがルールだから」

 沖縄の離島を訪れると、島を走る車の速度がゆっくりだということにすぐに気づく。それはタクシーも同様だ。高齢者が多いこともその理由の1つだが、生物を守ることも意味しているという。

 石垣島を一度も出ることなく、定年退職後にタクシードライバーになったという原さん(仮名・60代)は、空港に向かう車中で冒頭のようにつぶやいた。

 制限速度は40キロ。動物の飛び出し注意表示が目立ち、サトウキビ畑やパイナップル、石垣牛などの酪農従事者のものであろうトラクターなども公道を走る姿が散見される。

■自然で飯は食えない、でも故郷が変わる寂しさも

 「シャイで一見無愛想だけで打ち解けると人懐っこいのが石垣民ですよ」と原さん少し遠慮がちに話す。

 「この島もずいぶん変わりましたよ。自分が子どものころなんか、人口は3万人くらい。それが今は5万人でしょ。純粋な島民は減り続けているので、本島や移住者だけでも2万人くらい増えた計算になるからね。リゾート開発が行われ、観光業の産業が発展し、雇用も生まれた。自然、自然で飯は食えないから……。その一方で、故郷が変わっていく寂しさもありますよ。島民にとってどちらがいいかと聞かれる、と難しいね」

 石垣市内をタクシーで走ると、市内のところどころに「リゾート開発反対」の看板が目に入ってくる。その看板をあざ笑うかのように、新たにゴルフ場開発が予定され、港ターミナルでも大型の開発が行われていた。

急速に観光地化が進み、そこに共存していく地元は何を思うのか――。沖縄の離島を取り巻く複雑な状況を、タクシードライバーの視点から切り取っていく(沖縄本島のタクシー事情は『意外と少ない観光客利用「沖縄タクシー」独特実態』参照)。

 タクシードライバーたちの話では、石垣島の経済はかなり観光に依存する部分が大きいという。石垣市の調べによれば、2019年には約147万人の観光客が訪れた。そのうち島を訪れる海外からのクルーズ船だけでも36万人に上り(最多は台湾からの約8万5000人)、観光の推計消費額は977億円とされている。この時期はタクシーの売り上げも高水準だった、と「先島交通」の玉城喬代表が回顧する。

 「コロナ前の台湾、中国からのクルーズ船の観光客は、時間チャーターでのタクシー利用がメインでした。売り上げは大幅に伸び、1日で3万円を超えてくることも珍しくなかった。2013年に空港が移転し、空港への送迎も1000円程度だったのが、今では2500円程度へ伸びた。この島は『ちょい乗り』で、ワンメーター、ツーメーターの地元の人の利用が圧倒的に多かったんです。

 それだけ地域インフラとして機能しているということですが、売り上げという点では観光客の恩恵はとてつもなく大きかったわけです。観光客が多すぎて、病院や役所、スーパーなどでも利用する地元の方から『夕方はタクシーが捕まえられない』という声があったほど。今年の3月から少しずつ客足は戻りつつありますが、それでも平均的に1万5000円程度です」

■夜でもかなりの台数のタクシーが走っている

 石垣島でタクシー利用は流しが基本だ。コロナ前よりはだいぶ少ないというが、夜でもかなりの台数が走っており、日付が変わってもテールランプが街から消えることはない。中心地にある居酒屋や飲食店は、予約なしに入るのはほぼ不可能なほど活況だった。そして、お店の利用者たちがタクシーを利用して、次の店へと移っていく。

 付け待ちがあるのは、空港と竹富島や西表島などへ向かう船乗り場となる離島ターミナルのみだ。

 離島ターミナルで手持ち無沙汰そうにしているドライバーに「タクシーの台数が多いですね」と話しかけてみた。すると、「人口5万人の島やから馬鹿にできへんで」と軽快な口調で切り返してくる。

 「コロナになる前は全然タクシーが足りてなかったから。石垣島には時間が読めないバスなんか乗ったことない、という人も多いよ。代行なんか使うより、タクシーのほうが便利で安い。たぶんね、本島よりも石垣のほうが稼げた。でも、ドライバーがいないから車が稼働できへん。

 私もそうやけど、この島のドライバーは農業・漁業だけで食えない人、定年退職して小遣い稼ぎ目的の人、年金暮らしの人が大半。だから少し余裕があるからギスギスはしてないかな。ホテル業や飲食、マリンレジャー関係の仕事をする移住者も増えているから、そういう人たちの利用にも助けられている」

 石垣島が属する八重山支部には289台、宮古支部には184台のタクシーが登録されている。ちなみに石垣市には約5万人、宮古島市には約5万5000人が暮らすという商圏だ。沖縄県ハイヤー・タクシー協会・事務局長の津波古修さんが、沖縄本島と離島のタクシー事情の差異をこう解説する。

 「電車やバスの利用者が少ないという交通インフラの関係から、本島でもタクシーは身近な存在ですが、離島ではそれがより顕著です。初乗りも指定地域ということもあり470円で、日常生活の中で利用しやすい金額設定になっています。島の面積を考えてもタクシーの稼働台数は多いといえるでしょう。観光客のパイ、ということを考えれば、業界の中では『本島よりも離島のほうが稼げる』といった意見も耳にします」

■急速な変化ゆえに地元住民との軋轢も

2011年時点で約65万人だった石垣島への観光客は、2019年には2倍以上となった。それに伴い飲食店やホテルが急増し、タクシーにも恩恵が生まれた。

 だが、急速な変化ゆえに地元住民との間に小さくないゆがみも生まれた、という声も聞こえてくる。20年以上、この島で働くベテランドライバーの山添さん(仮名・60代)はこう感嘆する。

 「この4、5年で治安は間違いなく悪くなったね。結局、観光業や飲食業はよそから来た人らが主にやっている商売。関東や関西からヤクザや半グレが大勢移住してきて、キャバクラなんかもバンバン増えた。なぜか焼肉屋なんかも多くてね。結果、家賃や物価も驚くほど上がっていった。この島が“食い物”にされた、と感じる地元民も少なくないんよ」

 観光の発展と、地元住民の軋轢。石垣島に限らず大なり小なり、離島を取り巻く状況は類似する点がある。例えば世界自然遺産に登録される秘境・西表島、人気の観光地である竹富島、小浜島にも「星野リゾート」などの有名ホテルが続々と進出している。10代、20代を中心に雇用が生まれた面もあるが、それでも7割近くの若者は島を出ていくという状況は今なお変わりはない。

 西表島に住む地元民は「マリンスポーツや観光ガイド、飲食やホテルなどに勤めるのはほぼ外から来た人間たち。これはほかの島も同じ」と話す。

 島民の中でも、観光誘致に尽力する層と、反対する層はくっきり分かれていた。タクシーに目を向けると、竹富島、西表島では予約制で利用が可能だったが、地元民の利用はほぼないという。

 「まるちくタクシーグループ」の営業部長、下地一世さんは宮古島で生まれ、東京や沖縄本島などを経てこの島に出戻った。現在の宮古島の状況をこう見ている。

 「これだけ小さな島に空港が2つもある。ホテルの建築ラッシュも続き、来年は『ヒルトンホテル』、2024年に『ローズウッド』が開業予定です。つまり、それだけ市をあげて観光へ注力しているというわけです。

 コロナ前はクルーズ船で1日2000人の外国人の方が平良港に来て、貸し切りでタクシーを利用してくれました。空港から中心地まででも1000円程度ですから、売り上げ的にはすごく大きかった。

 30年前に『東急ホテル&リゾーツ』ができ、それで観光がスタートした島です。昔は東京へ営業に行っても、『石垣島は知ってるけど、宮古島は……』といった程度の認識だった。それが今は露出も増えて当時とは雲泥の差で、飲食も含めた観光業が島の基幹産業となりつつあります」

■「宮古島バブル」で地価が高騰

 その一方で「宮古島バブル」とも言われるほどアパート建設が続き、地価は高騰した。労働力不足、建築費の高騰もあり、地元民たちは新築一戸建ての住宅を建てられなかったという声もあった。移住者は増加傾向にあるが、純粋な島民は緩やかに人口減が続き、観光業に尽力する人々も高齢化している面もある。

 下地さんが続ける。

 「平良地区を除けば人口は減り続けているので。とくに伊良部島に関しては、35年前は9000人を超えていたのが、今は半数近くまで減っている。何とかして若者が働きたい環境を作らなければいけないという、強い危機感があります。タクシーも歩合制だけではなく、固定給だったり魅力あるシステムを作るといった工夫を凝らなさいとこの流れは止まりません」

 宮古島観光協会の関係者は、観光客や移住者が増えた弊害もあると嘆く。

 「一言でいうなら、半グレの巣窟といえるほど素行が悪い人間が増えたことです。これは宮古に限らず、石垣島でも同様のことがいえます。『与那覇前浜ビーチ』には、タトゥーだらけの半グレがゴロゴロしている。

 協会でも問題視して、数年前には協議をしたこともあります。逮捕者も出た影響か、一時期ほど表立った活動はありませんが、まだまだ残っている。彼らが経営に携わっているといわれる飲食店なんかはすごく流行っており、地元で真面目にやっているお店なんかが苦しんでいる状況をみるとジレンマもありますよ」

 石垣島や宮古島など沖縄の離島では、本島をしのぐほど観光への依存度が高まっている。雇用が生まれ、街は潤ったが、失ったものも確かにあるのだろう。ドライバーたちの声から、そのバランスや落とし所に、敏感な地域という印象をうけた。春先以降、ようやく国内客の客足が戻りつつある状況だが、必ずしも手放しに喜べない島民も少なくないのかもしれない。

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最終更新:5/19(木) 17:41

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