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名門・開成、前理事長が語るグローバル人材育成 大人は子どもに「世界」をどう教えるべきか

5/19 7:31 配信

東洋経済オンライン

2月に始まったロシアのウクライナ侵攻で、日本もエネルギー高など大きな影響を受けている。語学だけでなく、世界的な課題や国際関係を理解した人材を育てる必要性はかつてなく高まっているが、教育現場で子どもたちに何を教えるべきか戸惑う保護者や教師も少なくない。
財務事務次官やJT(日本たばこ産業)会長を歴任し、昨年末まで開成学園の理事長を務めた丹呉泰健氏にベストセラー『13歳からの地政学 カイゾクとの地球儀航海』の著者である田中孝幸氏がインタビューし、グローバル人材を育てるうえでの課題や具体策について語ってもらった。

■グローバル人材を育成するうえでの課題

 田中:中学校や高校などの学校現場でもウクライナ問題をどう教えるべきかという模索が始まっているようです。ウクライナ問題は決してひとごとではないという意識も高まっているためですが、グローバル人材を育成するうえでの課題としては何が挙げられるでしょうか。

 丹呉:大学教育では入試段階で文科系か理科系を選択させる、工学部の中には学科まで選択させる大学もあります。文科系志望の高校生は数学3をすべて学ばない、また理科の科目は選択する科目だけ勉強すればよいとなっています。これはグローバルな仕組みでありませんし科学の知識が必要な時代にそぐわないです。

 また大学に進学しても専門分野の勉強に飛びつき一般教養がおろそかにされています。従って日本独自の入試段階での文科、理科の選択はもはややめるべきです。アメリカの一流大や英国のオックスフォード大、ケンブリッジ大では1~2年は教養課程で幅広く勉強しています。

 丹呉:民間企業の文系出身のトップにしても、これからは人工知能(AI)やエンジニアリング、科学の基礎知識を持たないと経営判断が難しい。法律家にしても、法律の知識だけでなく、技術の知識も求められるようになっています。

■狭い自分の専門性の中だけではだめ

 一方、理系の医学部の学生にしても、細かいいろいろな人間の仕組みや治療法を学ぶのは大事だが、その前に人間は何なのか、いま120歳まで生きられるということだが、それでいいのかといった哲学的なことを考えないといけない時代になっています。

 田中:狭い自分の専門性の中だけで立ちゆかなくなるということですね。

 丹呉:そうです。私は文科系出身ですが、それなら理科的な知識を持って視野を広げる必要があるわけです。専門性を持つのはいいが、同時に全体をみる視野の広さを持つように導く教育が必要です。田中さんの著書『13歳からの地政学』で述べていることですが、歴史や世界をみるときにも、鳥瞰(ちょうかん)できるような形でみることこそ大事だと思います。年号や事実を記憶するのも大事だが、歴史でも日本で起こったことで何が間違っていたのかとか、自分で考える取り組みも必要です。

 田中:生徒に考えさせるという取り組みは教育現場でも進んでいるようです。

 丹呉:指示待ち人間にならず、学生時代から自分自身で物事を考えて、主張して、結論を出していくという訓練ができていることが大事だと思います。一方、中学生までは基礎となる勉強をやる時期であり、あまり自由にしてしまうと放任とはき違えることになる危険性があります。そういう自由放任に傾いた中学校はあまりうまくいっていません。中学生までは生徒の好奇心を伸ばしつつ、学力の基礎体力をつけさせる期間であると思います。

 田中:そのうえで、高校や大学で学生たちはとりわけ何をすべきでしょうか。

 丹呉:できるだけ本を読むことと、いろんな人に会うということが大事です。本も流行のハウツーものだけでなく、文学も含めてさまざまなジャンルを読むほうがいいでしょう。社会人になった後も世界はどんどん変化するので、常に本を通じて勉強し続けないといけません。その意味からも、読書の習慣を持つのは極めて大事です。

 田中:開成高校は近年、海外の一流大に進学する人が増えていますが、どのように後押ししたのでしょうか。

 丹呉:それは柳沢幸雄前校長の時代から進めていることですが、率直に言うとかなりの部分、(ユニクロを運営するファーストリテイリング会長兼社長の)柳井正さんのおかげです。例えばアメリカの一流大に進学すると私立だから学費で6万ドル、生活費2万ドルで、年間で計1000万円近くもかかります。入学して活躍すればいろいろな奨学金を得られる機会があっても、入学のときにはなかなか奨学金をもらえません。その奨学金を柳井さんの財団が出してくれて、本当に多くの学生が助けられました。

 ただ、民間の奨学金だけでなく、入学が許可された優秀な学生のために明治時代にあったような国費留学生という制度をつくってもいいと思います。それができるかは、文部科学省の予算の配分で何を重視するかの問題です。

■国費留学制度創設を

 田中:先ほどの大学1~2年の教育のあり方にも関わることですが、そうした教育改革はどうすれば進むのでしょうか。

 丹呉:結局は、政治がやるしかないですね。東大や京大の総長経験者と教育改革について議論した際にも、彼らは「丹呉さんの言う通りだけど、大学の内部から変えろと求められても無理です。学者は現状維持派が多くて、学長にもそういう改革をやる権限はない」と言うんですね。

 ただ、政治による教育改革と言っても、これは(丹呉氏が首相秘書官として仕えた)小泉元総理が言っていたことですが、法律でぎしぎし縛ればいい人材ができるわけでもないという面もあります。いずれにしても、これから人材育成というのは何よりも大事なことですが、グローバルな競争という面では音楽やスポーツに比べて、永田町、霞が関、経団連は遅れているのは否めません。人材を育てるために、さまざまな分野で先生も生徒も多国籍で切磋琢磨する場所を増やすべきです。

 田中:もともと、あらゆる学びは楽しんでやれるはずなのに、多くの学生は受験で苦行のような勉強を強いられています。世界の政治や経済、国際関係を学ぶ楽しさがわかってもらえれば、学ぶのが苦にならないし、学習効率も上がるはずです。それが私が『13歳からの地政学』を書いた際の問題意識の1つでした。

 丹呉:それは田中さんの言う通りです。寝食を忘れて夢中になれるようになればもちろん苦にならないし、成果にもつながります。私が先日会った慶応の元学長も「学者も20代のときには寝食を忘れて自分の好きなところをやらなければいけない」と言っていましたが、公務員もちょっと前の時代はそうでした。ある意味では仕事が面白かったからあれだけ残業ができたのですが、最近は残念ながらそうではない面が出てきています。

■大切なのは好奇心と説明能力

 田中:お孫さんにはどういう教育をほどこしたいと考えていますか。

 丹呉:あまり孫の教育には積極的に口は出しませんが、やはり「本を読みなさい。好きなことをやりなさい。だけど学校の宿題をきちんとやらないとだめだよ」と言うくらいですね。いろんな機会をつくって、好奇心が育まれるようにして、そういう中で本人がやりたいと思ったことを伸ばしてあげることが肝要です。

 田中:それぞれの子どもが持っている好奇心を大切にするということですね。

 丹呉:そうですね。それに孫たちには「何かを見たときには面白かったのか、つまらないのか、自分の意見をしっかり説明できるようにしなさい」とアドバイスしています。これからの時代、説明能力は重要です。

 例えば(丹呉氏が会長を務めていた)JTは世界130カ国でビジネスをやっていて、その中で選ばれた人が(世界戦略を担う子会社の)JTインターナショナルの取締役になります。取締役にはトルコ人、スペイン人、南アフリカ人、アメリカ人などもいて、国籍はバラバラです。そこで私が幹部に「どういうふうに取締役を決めているんですか」と聞いたら、「説明能力が高く、結果を出しているという2つが大事です」ということでした。

 多国籍だからコミュニケーションをしっかりとる必要はありますし、目標や成果の説明などのプロセスを通じて、誰が重要な役割を果たしているのかは自然にわかってくるそうです。それは誰がどこの大学を出たかというのとは関係ない世界ですね。

東洋経済オンライン

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最終更新:5/19(木) 7:31

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